88 / 92
アルシア移住
ゴブリンのダンジョンとは
しおりを挟む
エルフ、魔族、妖精、そしてケルベロス。
このパーティメンバーは、食事や睡眠無しでも長期間の活動が出来る種族だ。
飲まず食わず、眠らずでも十日以上平気なのは、攻略にかなり幅を持たせられる。
「今日は私が起きてるわ。あなた達はもう休みなさい」
二人を休ませて、私は魔導焚火の前で物思いに耽る。
ふと気がつくと、パンジーちゃんが毛布を引きずって傍に来ていた。
「あら。パンジーちゃん、寂しくなっちゃったの?」
私の足元に毛布を整えてやって、優しくブラッシングをしながらパンジーについて考え始める。
(何故パンジーちゃんが、あのカエルに攻撃可能だったのか?)
おそらく答えは『種族特性』だと思う。
パンジーちゃんはブリーダーの元で生まれたケルベロスだけど、本来のケルベロスは現世と冥界の境界域にだけ生息している魔物だ。
つまり境界が交差する場で、自己を失わず存在出来る魔物。
「だから、位相を跨いで攻撃を出来た」
パンジーちゃんは、自分の居る側に不正アクセスしてきた物に対して『仕事』をしただけ。
冥界に生者が入らないよう、冥界から魂が出られないよう、どちらの世界も見張り必要なら攻撃する番犬──それがケルベロス本来の姿だ。
本能が、境界を越える存在を許さないのだ。
自分が『どちら側』にいるのかなんて、ケルベロスにはどうでもいいこと。
(とにかく、境界侵犯は許さない──そういう風に出来ているのが、地獄の番犬なのよね)
だから、パンジーちゃんだけがこのパーティ内で唯一、『あちら側』にアクション可能ということになる。
本能的なものだし、言って聞かせてどうにかなるものじゃないのが厄介だけど。
パンジーちゃん無しでは、絶対攻略不可能である気がする。
「どうしたらいいのかしらね、パンジーちゃん」
パンジーちゃんはブラッシングでリラックスしたようで、また眠り始めた。
いつ暴発するかわからない危険物だけど、今の私達にとってはパンジーちゃんが最終兵器でもある。
「どうしたものか」
私は小さな声で呟いた。
焚火の揺らめく炎が、プスプスと間の抜けた寝息をたてるパンジーちゃんを照らしている。
「可愛い爆弾ねぇ……」
カサッ。
パンジーちゃんが飛び起きるのと同時に、私の耳も茂みが揺れる微かな音を捉えた。
迎撃体勢で目を向けると、両手をあげた年配男性が遠くから歩いてくるのが見えた。
パンジーちゃんに待て、と命じてから私はゆっくりと男達に近付いた。
「え、エルフ──」
わかってて来たんじゃないのかしら?
ここに来て、まさかエルフだと怯えられるとは……!
わかってはいるけど、何か納得いかないわ。
「危害を加えるつもりはないわ、私達は野営しているだけよ」
継ぎはぎだらけの服を着た、二人の男性。
五十は越えてそうな年配者だ。
鑑定も通って、人間であることも確認した。
出で立ちはボロボロだけど──不衛生ではない。
(だとすると、このフロアに拠点がある?)
揺さぶりをかけるべきね。
ここで生き延びている者が居るのもびっくりだけど、素晴らしい情報源かもしれない。
「で、拠点から様子を見に来たんでしょう? 見慣れぬ者がいるってことで」
男達は顔を見合せ逡巡した様子だったが、やがて頷いた。
「私はアシュレイ。こちらはジョン」
「ジューンよ」
短い自己紹介が終わり、私は二人を焚火の前に招いた。
自分のエリアにいれたところで、私の脅威にもならないから。
おまけに、パンジーが居るし。
──さて、この二人は敵か味方か?
判断は、情報を引き出してからよ。
アシュレイと名乗った男は、ゆっくり慎重に話し始めた。
「ここでゴブリン以外の種族を見たのは初めてでして──私達はギルドの依頼を受けて、調査に来たのですが」
アシュレイは出された紅茶を一口飲んで、満足そうに一息ついた。
「美味い。久しぶりの味です」
「ギルドの依頼ねぇ」
「結局、不帰の迷宮の名前の通り──帰還できずにずっとここに住んでいる、という状況でしてね」
(不帰の迷宮……まさに、帰れない穴じゃないの)
「ギルドの依頼は、原因究明のためかしら?」
「その通りです。『帰還不能指定領域No.19』の調査、でした」
(ええー、ここ帰還不能指定だったの……?)
完全なる私のミスだ。
知らない場所なのにその場のノリで即決しちゃって、ちゃんと事前調査しなかったから。
ギルドが絡んでるなら、ちょっと調べればわかったことなのに。
ジョンが口を開いた。
「時々、出口や何かの扉が出現するんです。でも、なんといったら説明出来るのか……」
「触れないんでしょう?」
「え? なんで知ってるんです? そうなんですよ、触れないんです! だけど──」
「だけど?」
「ゴブリンは、出ていくんですよ。なんというか……ドアを開けるんじゃなくて、スゥーっと」
「消える……そのままここには来ない?」
「ええ。ちょっとゴブリンは見分けがつかないんですけど、人数が減るので」
焚火のパチパチという音が静かに響く。
パンジーちゃんは目も開けず、眠りこけている。
「もともと、五人パーティだったんです。今は四人しか残ってないのですが」
「もう一人は?」
「妙な扉があるのに、無いと言って笑って近寄って、転びかけて──俺の目の前でスゥーっと消えたんですよ」
「あなたに見えていた扉、消えた彼には見えていなかったと?」
「少なくとも、本人は『何言ってるんだよ、何もないじゃないか』と」
(見える人と見えない人が居る? それってもしかして──)
「ねえ、その彼って妖精か精霊なんじゃない?」
「!?」
アシュレイがジョンを見て、頷いた。
「そ、そうです。彼は……シルフ族でした」
(やっぱり!)
シルフ族は人間と同じような姿をしているけれど、れっきとした精霊だ。
ただし──具現化しているので、妖精にかなり近い存在。
ゴブリンとエインセルであるティティ、シルフ族の共通点。
「妖精、妖精だわ……」
このパーティメンバーは、食事や睡眠無しでも長期間の活動が出来る種族だ。
飲まず食わず、眠らずでも十日以上平気なのは、攻略にかなり幅を持たせられる。
「今日は私が起きてるわ。あなた達はもう休みなさい」
二人を休ませて、私は魔導焚火の前で物思いに耽る。
ふと気がつくと、パンジーちゃんが毛布を引きずって傍に来ていた。
「あら。パンジーちゃん、寂しくなっちゃったの?」
私の足元に毛布を整えてやって、優しくブラッシングをしながらパンジーについて考え始める。
(何故パンジーちゃんが、あのカエルに攻撃可能だったのか?)
おそらく答えは『種族特性』だと思う。
パンジーちゃんはブリーダーの元で生まれたケルベロスだけど、本来のケルベロスは現世と冥界の境界域にだけ生息している魔物だ。
つまり境界が交差する場で、自己を失わず存在出来る魔物。
「だから、位相を跨いで攻撃を出来た」
パンジーちゃんは、自分の居る側に不正アクセスしてきた物に対して『仕事』をしただけ。
冥界に生者が入らないよう、冥界から魂が出られないよう、どちらの世界も見張り必要なら攻撃する番犬──それがケルベロス本来の姿だ。
本能が、境界を越える存在を許さないのだ。
自分が『どちら側』にいるのかなんて、ケルベロスにはどうでもいいこと。
(とにかく、境界侵犯は許さない──そういう風に出来ているのが、地獄の番犬なのよね)
だから、パンジーちゃんだけがこのパーティ内で唯一、『あちら側』にアクション可能ということになる。
本能的なものだし、言って聞かせてどうにかなるものじゃないのが厄介だけど。
パンジーちゃん無しでは、絶対攻略不可能である気がする。
「どうしたらいいのかしらね、パンジーちゃん」
パンジーちゃんはブラッシングでリラックスしたようで、また眠り始めた。
いつ暴発するかわからない危険物だけど、今の私達にとってはパンジーちゃんが最終兵器でもある。
「どうしたものか」
私は小さな声で呟いた。
焚火の揺らめく炎が、プスプスと間の抜けた寝息をたてるパンジーちゃんを照らしている。
「可愛い爆弾ねぇ……」
カサッ。
パンジーちゃんが飛び起きるのと同時に、私の耳も茂みが揺れる微かな音を捉えた。
迎撃体勢で目を向けると、両手をあげた年配男性が遠くから歩いてくるのが見えた。
パンジーちゃんに待て、と命じてから私はゆっくりと男達に近付いた。
「え、エルフ──」
わかってて来たんじゃないのかしら?
ここに来て、まさかエルフだと怯えられるとは……!
わかってはいるけど、何か納得いかないわ。
「危害を加えるつもりはないわ、私達は野営しているだけよ」
継ぎはぎだらけの服を着た、二人の男性。
五十は越えてそうな年配者だ。
鑑定も通って、人間であることも確認した。
出で立ちはボロボロだけど──不衛生ではない。
(だとすると、このフロアに拠点がある?)
揺さぶりをかけるべきね。
ここで生き延びている者が居るのもびっくりだけど、素晴らしい情報源かもしれない。
「で、拠点から様子を見に来たんでしょう? 見慣れぬ者がいるってことで」
男達は顔を見合せ逡巡した様子だったが、やがて頷いた。
「私はアシュレイ。こちらはジョン」
「ジューンよ」
短い自己紹介が終わり、私は二人を焚火の前に招いた。
自分のエリアにいれたところで、私の脅威にもならないから。
おまけに、パンジーが居るし。
──さて、この二人は敵か味方か?
判断は、情報を引き出してからよ。
アシュレイと名乗った男は、ゆっくり慎重に話し始めた。
「ここでゴブリン以外の種族を見たのは初めてでして──私達はギルドの依頼を受けて、調査に来たのですが」
アシュレイは出された紅茶を一口飲んで、満足そうに一息ついた。
「美味い。久しぶりの味です」
「ギルドの依頼ねぇ」
「結局、不帰の迷宮の名前の通り──帰還できずにずっとここに住んでいる、という状況でしてね」
(不帰の迷宮……まさに、帰れない穴じゃないの)
「ギルドの依頼は、原因究明のためかしら?」
「その通りです。『帰還不能指定領域No.19』の調査、でした」
(ええー、ここ帰還不能指定だったの……?)
完全なる私のミスだ。
知らない場所なのにその場のノリで即決しちゃって、ちゃんと事前調査しなかったから。
ギルドが絡んでるなら、ちょっと調べればわかったことなのに。
ジョンが口を開いた。
「時々、出口や何かの扉が出現するんです。でも、なんといったら説明出来るのか……」
「触れないんでしょう?」
「え? なんで知ってるんです? そうなんですよ、触れないんです! だけど──」
「だけど?」
「ゴブリンは、出ていくんですよ。なんというか……ドアを開けるんじゃなくて、スゥーっと」
「消える……そのままここには来ない?」
「ええ。ちょっとゴブリンは見分けがつかないんですけど、人数が減るので」
焚火のパチパチという音が静かに響く。
パンジーちゃんは目も開けず、眠りこけている。
「もともと、五人パーティだったんです。今は四人しか残ってないのですが」
「もう一人は?」
「妙な扉があるのに、無いと言って笑って近寄って、転びかけて──俺の目の前でスゥーっと消えたんですよ」
「あなたに見えていた扉、消えた彼には見えていなかったと?」
「少なくとも、本人は『何言ってるんだよ、何もないじゃないか』と」
(見える人と見えない人が居る? それってもしかして──)
「ねえ、その彼って妖精か精霊なんじゃない?」
「!?」
アシュレイがジョンを見て、頷いた。
「そ、そうです。彼は……シルフ族でした」
(やっぱり!)
シルフ族は人間と同じような姿をしているけれど、れっきとした精霊だ。
ただし──具現化しているので、妖精にかなり近い存在。
ゴブリンとエインセルであるティティ、シルフ族の共通点。
「妖精、妖精だわ……」
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。
【あらすじ】
異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。
それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。
家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。
十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。
だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。
最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。
この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。
そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。
そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。
旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。
☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。
☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。
最安もふもふ三匹に名前をつける変な冒険者ですが、この子たちの力を引き出せるのは私だけです ~精霊偏愛録~
Lihito
ファンタジー
精霊に名前をつける冒険者は、たぶん私だけだ。
うさぎのノル、狐のルゥ、モモンガのピノ。三匹とも最安の契約で、手のひらに乗るサイズ。周りからは「手乗り精霊で何ができる」と笑われている。
でも、この子たちへの聞き方を変えるだけで、返ってくる答えはまるで違う。三匹の情報を重ねれば、上位の精霊一体では見えないものが見える。
上位パーティが三度失敗した大型討伐。私は戦わない。ノルに地中を、ピノに上空を、ルゥに地上を調べさせて、答えを組み上げる。
——この世界の精霊の使い方、みんな間違ってませんか?
『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~
チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!?
魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで!
心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく--
美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!
王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~
しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。
豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。
――食事が、冷めているのだ。
どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。
「温かいごはんが食べたい」
そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。
地下厨房からの高速搬送。
専用レーンを爆走するカートメイド。
扉の開閉に命をかけるオープナー。
ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!?
温かさは、ホッとさせてくれる。
それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。
冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、
食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ!
-
異世界カントリーライフ ~妖精たちと季節を楽しむ日々~
楠富 つかさ
ファンタジー
都会で忙しさに追われる日々を送っていた主人公は、ふと目を覚ますと異世界の田舎にいた。小さな家と畑、そして妖精たちに囲まれ、四季折々の自然に癒されるスローライフが始まる。時間に縛られず、野菜を育てたり、見知らぬスパイスで料理に挑戦したりと、心温まる日々を満喫する主人公。現代では得られなかった安らぎを感じながら、妖精たちと共に暮らす異世界で、新しい自分を見つける物語。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。
ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。
ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。
ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。
なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。
もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。
もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。
モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。
なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。
顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。
辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。
他のサイトにも掲載
なろう日間1位
カクヨムブクマ7000
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる