前世の記憶は役立たず!ーエルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎるー

藤 野乃

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アルシア移住

旅の途中からお送りします

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更に三日ほど船に揺られて、ようやく陸地に上がった完璧エルフの私は、地べたに倒れ伏した。

 あー船酔いしたわ。
 気持ち悪い。
 エルフでも船酔いするのよ、生き物だから。
 たこ焼きはもう要らないわ……

 よろよろと入国管理所まで行ったら、兵士が逃げていった。
 守衛の意味ってなに?

 どさくさに紛れて列にならんでみたけど、他の人とは違う小屋に押し込められた。
 中には数人の人間。

「ママー、エルフがいるよー」

 二、三歳の子供がこっちをみて私を指差した。

「ひぃ!?静かに、お願い黙ってぇ……あっちは見ちゃダメよ」

 母親らしき若い女性が、泣きそうな顔で子供を抱きしめる。

 私はただ立ってるだけなんだけど?

「なんでエルフが居るんだ?」
「同じ部屋にされるなんて…絶対ここの兵士訴えてやるわ」
「ママー、エルフこっち見てるー」
「やめて、もう黙って!そうだ絵本読んであげる!」
「ゆうしゃヨッシーオのがいいー」

 ヒソヒソと話す人々の声は、離れていても良く聞こえる。
 エルフと同室って嫌だよね、良くわかるわ。
 勇者ヨッシーオの話はロングセラーだねえ、三千年も前なのに、今でも民に愛されているのか……感慨深いわね。
 ヨッシーオは人間に大人気だし、魔界でも人気あるけど。
 聖女は短気で怖かった記憶がある。

 私は一応人間に配慮して、隅っこの椅子に腰掛けた。

「ゆうしゃヨッシーオはせいじょさまと結婚して幸せに暮らしました⎯⎯」

(違うわよ、人間。ヨッシーオは娼館の女将にハニトラくらって、そのまま結婚して、一生尻に敷かれてたわ。ちなみに7人の子沢山だったわよ)

 数時間がたった。

「はぁ……いっそ消し炭にしてやろうかしら……」

 ため息をつきながら自分の美しく整った爪を眺めた。
 だって、爪くらいしか見るものがないのよ。

 人間観察しようにも、私がそっちを見ただけで死んじゃいそうになってるのだもの。
 仕方ないから、ずーーっと黙って座ってるだけ。

 だって──私が動く度に周囲の人間が、ズザザザザッ!と壁際に寄って怯えるのだ。
 気軽に体勢を変えることすら躊躇われるのよ。
 壁と同化しそうな勢いで後退りする人間は、泣き声や悲鳴ばかりよ、話し相手になんて絶対なってくれなさそう。

 私は暇を持て余し、バッグの中から魔道具の水筒を取り出して喉を潤した。

 ──どうやらこの小屋は問題児というか、招かれざる者を押し込める小屋なの?。

「ねえ」

 ドアもない部屋なので、廊下を行き来する兵士に声をかけた。
 ピタリと立ち止まった兵士は私を見て顔を強張らせた。
 まだ若い子供のような容貌の兵士は冷や汗をかき、真っ青だ。

「もうそろそろ説明があると助かるんだけど?」

 私の質問に対して兵士は⎯⎯

「いやぁああああ!確認してきます!」

 と、絶叫して転がるように走り去った。
 そこまで怖がる意味がわからない。

(嫌なのはこっちも同じよー)

 案内されてから、ずっと静かに座っていたというのにねぇ。
 私は年齢だけで見れば年寄り枠なのよ、お婆ちゃんなの。
 優しくして欲しい!
 ……更に数時間経ってすっかり外が暗くなった頃には、私だけになってしまった。

 私の方が先に小屋に居たのにな。

 私は正規ルートで入国しようとした事を後悔し始めていた。
【人間】として入国手続きをしていればとっくの昔に入国出来ていた気がする。
 失敗した、と今心底後悔してるわ。
 このシステム作ったヤツ、絶対日本の転移者か転生者だと思うわ。

 まあ、どこの国にいっても最初にこういう仕打ちを受けるのは慣れてるっちゃ慣れてる。
 種族が悪名高いエルフだからね。
 それを加味しても、この国は噂通り厳しい気がする。

 爪を眺めつつ、出直すか違う国に行ってみるかと考え始めた頃……周囲が急に騒がしくなった。
 品の無い足音と共に、軍服ではない男が室内に挨拶もなくドカドカと入ってきた。
 男の背後には数名の兵士が付き従っている所を見ると、不法侵入では無いようだ。

「アンタが入国希望のエルフか?」

 ──声まで品がない。

 私は返事をする前に、その男を眺めた。
 鑑定をかけてもいいが、許可なく鑑定魔法をかけるのはマナー違反。
 円満に集団生活をしたいならこれは守った方がいいルールだ。

 男の年齢は20歳前後かな。
 普段着なのは非番で呼ばれたからなのか……周囲の態度から役職者であるのはわかる。

 身体は周囲の兵士より大きく、筋骨隆々といったところ。
 髪は短いが癖毛らしくあちこちに跳ね上がっており、色味は人間に一番多く見られるブラウンの髪と瞳。
朗らかそうな顔をしていて、雰囲気は悪くないわね。

 ただ、目の輝きからして種族は人間だろうけど獣人の血も引いていそうな風貌だ。
 猫系ではないだろう。
 足音がうるさすぎる。

 ──でも、まぁ…悪い人ではなさそう。

「………………」

「そうだけど。私の名前はアンタではないわ」

 妙に緊迫した空気にやられたのか、男の背後でパタリと一人が声すらもなく、倒れた。
 私は穏便に済ませようと出来るだけ穏やかに返事をしたのに。

 気絶は私のせいにはならないよね……?
 ほんと、揉め事を起こすつもりはないのよ。
 何しろ、温厚なエルフなんだから。

 ──まだなにも、燃やしてませんからね?
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