前世の記憶は役立たず!ーエルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎるー

藤 野乃

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アルシア移住

ピンク頭……?

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最後にサービスで出てきた、胃がスッキリすると言うハーブティを飲み干して。

 ──私は機嫌良く街道に面したヴィルヌの輪を後にした。

 この大きな街道の一本奥が、商店街だ。
 酒屋行って、八百屋行って……と計画を練りつつ脇道に入ると……いきなり目の前で、衝突事故が起こった。

 見るからにお忍びであろう良家の坊っちゃんと、パンを咥えながら爆走していた女の子の衝突事故だ。

 自分からぶつかった挙げ句に、弾き返されて尻餅を付いた女の子は「いった~い!」と大声で叫んでいる。
 だが、坊っちゃんも負けてはいない。

「ぶつかってきたのはそっちだろ!」

 若い二人はギャンギャンと言い合いを始めた。

 前世でも今世でも、パンを咥えながら爆走する女の子を見るのは初めてだ。
 興味深く観察しているうちに、表情豊かな若い女の子は「もう最悪ぅ!」と捨て台詞を残し、走り去った。

 坊っちゃん呆然。
 ずいぶん見目が整った美しい少年だ。
 いかにも高位貴族って感じ。

 なんかのイベントってやつだろうか?
 あの女の子、髪がピンクだったし。

 私はメモ帳を取り出し、日時とパンを咥えたピンク髪…とメモをした。

 経験上、ピンク髪の女はトラブルメーカーが多い。

 要注意人物だ。
 今まで何人か見てきたが、危険物率100%だ。

 商店街をぶらぶら歩き、目的の酒を買って果物を売っている店で青いピーヌの話を聞いたところで陽が傾いてきた。
 思ってたより長く、商店街で過ごしていたようだ。

 そろそろ森を抜けて、家に戻らなくては。

 私は、周囲の状況を把握するまでは転移は使わないのが『賢明』、と思ってるから。
 普通に歩いて帰宅してると思ってもらわないと困る。
 ──森の道は獣道。
 傍に薬草やキノコ、木の実がいっぱいで豊穣そのもの。
 この辺の人は……こういう物を採取しないんだろうか?
 結構役立つものが多そうに見えるけど。

 それより今は家に戻ったら、とりあえず家具を出さないとだわ。
 さすがになにもない状態だと、生活が不便なので──寄り道はまた今度だ。

 時間はいつだってたっぷりあるし、慌ててしなきゃいけない事なんて滅多にないからね。

 何事もなく到着したが、家に入る前に敷地を囲う木の柵に細工をしなくちゃ。
 一定間隔でメア・バインの種を落としながらぐるっと柵を一周し、魔法で一気に成長させる。
 木の柵に蔦が絡まり自分よりちょっと高さのある丈夫な柵の完成だ。

 メア・バインは火にも強いし、とにかく頑丈で──育ってしまえば、切るのも大変。
 時折魔力さえ与えておけば、世話も必要がないのでメア大陸では──『防犯』に良く利用されているのだ。

 ──アルシア王国のあるネイシス大陸は、圧倒的に人間族が多い。
 メア大陸は、あんまりヒト型の生物はおらず、いわゆる魔物や動植物がメインで……たまに見掛けるヒト型はだいたい魔族か妖精。

 五大陸の中では一番小さいのだが、そこそこ凶悪な大陸だ。

 当然ながら、そんな大陸に生えているメア・バインも普通の蔦ではない。
 魔力を通して発芽したメア・バインは、発芽させたものの意思を──ある程度理解して成長するので、今回は番人としての指示を刷り込んだ。

 私以外が迂闊に近づけば、絡み付くだろう。

 私が柵の中に入ると、門の代わりになるようにシュルシュルと蔦が伸びて、隙間をふさいだ。
 家自体にも防護魔法を掛ければ、ほぼ完璧に安全な住居だ。

 リビングにはソファーやテーブル。
 二階の寝室にはベッド…といった具合に以前の住居で使っていた家具を、ポイポイと設置していく。

 一階の小さい部屋はメイの部屋と言うことで、古い小さなベッド、ランプ、サイドテーブルを置いてこっちの平民が着ていそうな服を、数着衣類かけに引っかけておく。

 小さいタンスに安価なアクセサリー、靴下や下着類。
 ベッドの下に使い古して処分を迷ってた靴を3足押し込んだ。

 誰も入れるつもりはないが、念のためのメイド部屋の偽装工作だ。

 後は魔道具の起動。
 キッチンや風呂、トイレを稼働させる為には属性魔核が必要なので──ちょうど良さそうな大きさの魔核を入れれば良いだけだ。

 キッチンには火と風。
 トイレは水と聖。
 風呂は水、火、聖。

 聖核は除菌とか衛生面に作用する物で、水回りには必須アイテム。
 核は魔物から取れるけれど、聖属性の魔物は稀有。
 いたとしても聖獣として保護されている。

 入手経路が無いので聖核だけは人工物になり、他の魔核に比べるとかなり値段が高い。
 なので、聖核をいれて使うタイプの設備があるこの家の持ち主だった魔法使いは、お金持ちか貴族だったのだろう。

 普通の庶民の収入では、気軽に買える価格じゃないもの。

 この大陸でもかなりの価格のはずだ。
 ここに来る前にしばらく住んでいたイヴォーグ大陸だと二センチの聖核が金貨八枚くらいだったはず。

 一年ほどもつとは言っても庶民が消耗品に使うには高価で贅沢品といっていい物だ。

 だけど私は自分で作れるから問題無しよ。
 五年くらいあっという間だし、このまま引きこもって正式な許可証を待つのも悪くない。


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