前世の記憶は役立たず!ーエルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎるー

藤 野乃

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アルシア移住

番犬?

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「え、もう?」

 カイさんは驚いて大声を上げた。

 即日発行とか仕事早いよね。
 私もびっくりだわ。

「なら──明日あたり王都から団長が戻るから、ついでに交渉してきてやる」

 そう力強く請け負ってくれたので、後は任せることにした。
 旅人が口を揃えて美しいと言う、アルシア最北部の氷山にも行ってみたいし……早く自由に動き回りたい。

 カイさんは約束があるので、と繁華街方面に歩き去った。

 商店街は閉まってるし、もうやることもない。
 夕飯を済ませて帰りたいのは山々だが、ちょっと今日は目立ちすぎた。

(さっさと戻って、静かにしておくべきね)

 街を探索するなら、変化で人間のふりして見て回らないと……エルフは目立ちすぎるから。

 既に後をつけてくる気配が四つ程あるのだ。
 お金は口座に入金だよ!
 私は現金で貰ってないよ?
 多分ギルドにいたやつらだろうなぁ。
 親にエルフを見たら隠れろって教わってないのかしら。

 絵本や本だっていっぱい出てるでしょ。

 エルフの倍返しとか、ELFとか、エルフ街の悪夢、エルフかるた、エルフに愛はあるか、エルフとヨッシーオ、エルフ48、首狩りエルフの真実…すぐ思い付くだけでもこんなにあるんだから。

 トラブルを起こすわけにもいかないので、私はフワッと自分に認識阻害をかけて人混みに紛れた。
 歩きながらちょっとずつ【メイ】にチェンジだ。

 程無く目標を見失って右往左往し始めたのを見届け、薄暗い曲がり角を曲がるタイミングで私は家に転移した。
 帰る分にはいいんだけどね。
 行きは人の目のあるところに急に現れたら絶対怪しまれちゃう。

(いきなり白金貨稼いだのは良くなかった……チェシャに言って秘匿扱いにするべきだったわ)

 チェシャも会計の男性も小声だったし、最初から聞こうと思ってなかったら聞こえないはずだ。

 何かしら思惑があったのか、魔が差したのかはわからないけれど続くとダルい感じだよね。
 そのうち家も見つけて来るだろうし
 番犬的な何かを置いた方がいいんだろうか。
 召喚魔法の常時展開は可哀想だし……
 召喚獣にも召喚獣の生活あるからね、ず~っと呼んでたらブラック企業だもの。

(あ、でもよく考えたら。私、何者とも召喚契約してないわね……)

 そうなるとテイムした魔獸か、住み込みで精霊関係を雇うか……魔法生物作っちゃうか?
 やり過ぎたら怒られそうだし、手加減しつつ防衛って難しいんだよね……

「よし、犬だな」

 犬連れてきて、庭に放しとけばいいか。

 心当たりのある犬をピックアップしつつ、私はメア大陸の最奥地に転移した。

「おーーーーーい!ペロティー!ペロちゃぁーーーーん!!」

 声に魔力を乗せて大声で犬を呼んだ。

 ここにいるペロティという犬は二百年くらい前にヒドラに食べられかけてた所をひろって、私が子犬の頃から育てた。
 百年くらい会ってないけど、まだ元気にピンピンしてるはず。
 しばらくして、ペロティが現れた。
 尻尾は振ってるが、元気がなさそうな様子。

「まー!ペロティ!子育て中なの?」

 ペロティは2匹の子犬を連れていた。
 子育て中の母犬に仕事させるのもなぁ。

 うーん、ペロティは怪我もしてるっぽいし痩せすぎだし子犬も痩せすぎだ。
 この種類の犬は基本母犬が一頭で子育てするから、うーん……子犬が居るからパワーバランス崩壊からの縄張り争いかな?

 ──飼い犬になれるような性格じゃない犬だけれど……数ヶ月ほど保護したほうがいいかもしれない。
 この様子では長くはもたなさそう。

「ペロティ、しばらくうちで番犬しない?子犬が巣立つくらいまででいいからさ」

 ペロティはわかってるようなわかってないような顔をしていたけど、尻尾はブンブン振ってるし撫でても抵抗しなかった。

 んおで、同意って事にして子犬ごと庭に転移した。
 これで番犬問題は片付いた。

 犬達を衛生魔法で清潔にして、ペロティのボディチェックだ。
 子犬はお肉でも齧らせておこう。
 私は丸ごと突っ込んであったコカトリスを取り出して、子犬に与えた。
 ちょっと見ていたら上手に裂き始めたので大丈夫そう。

 問題はペロティ。
 治りかけてはいるけど、相当な深傷を負ってたみたい。
 傷口を鑑定してみると黒龍と一戦交えた際の怪我だったので、とりあえず毒消しを飲ませる。
 黒いのは毒のある龍だからね。

 あの氷密林に黒龍なんて居なかったと思うのだけど、引っ越しでもしてきたんだろうか。
 傷の大きさから見てまだ若い個体だろうからもしかしたら…ペロティが勝ったのかも。
 聞いてはみたけどペロティは喋らないし、推測するしかないんだけどね。
 成体の龍だったらペロティは龍の餌になってたろうし、子犬も生きてはいなかっただろう。
 メア大陸に返す時になったら、良く安全確認しなくては。

 栄養ポーションも飲ませたし、後はしっかり食べていっぱい寝ることだ。
 少し弱ってるペロティには、解体済みのムウルを一頭分。
 目が四つあるからちょっと見た目は凶悪だけど、ほぼ羊だ。
 犬達が真剣に食事をしてる間、傷を治すべきかどうか迷っちゃうわね。
 肉を食べる元気もあるし、自然回復がいいかな。

 ……一応、この世界には傷や病気を治す光属性の魔法はあるのだけど。

 治療には本人の生命力が消費されるので、即死レベルの大怪我の応急処置とか死にそうなくらいの高熱を大丈夫そうな温度まで下げるだけ。
 余程の症状じゃない限り、使わないのがこの世界の常識。
 傷を治す過程で──生命の理に反してハイペースで大量に血液、筋肉や皮膚、骨などを細胞レベルで再生させるのだ。

 治療師は魔法の行使で魔力を使うが、治療される側は再生の材料として自分の命を削ることになる。
 端的に言うと、多用すれば寿命が無くなるって事ね。
 歴史は1万年以上も前からあったというのに、そのシステムが解明されたのはほんの数百年前だ。

 治癒魔法を多用していた時代、人間で言うと平均寿命は六十歳くらい。
 治癒魔法での治療を多用していた人……貴族とかそういう階層ね。
 富裕層ほど、若くして亡くなる傾向だった。
 指先を少し切った位ですぐ治癒魔法を掛けさせてたし。

 今は治癒は多用しない。
 健康な人なら120年くらい生きてるし、魔力の多い人間はもっと長生きだ。
 他の種族も同じ理屈で長生きになっている。
 魔物、魔獸、動物もだ。

 大怪我も治癒魔法で応急処置、あとは医師や薬師の治療を受けるのが今の常識。
 なのでペロティはそのまま自然治癒させた方が、負担が少なくていいと思う。

 伏せたペロティを撫でながら、久しぶりの犬の感触に私も癒されてる。
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