前世の記憶は役立たず!ーエルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎるー

藤 野乃

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アルシア移住

王子来訪

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「一つ聞きたいんだがね」

 正面に座った軍服の男が、優雅にコーヒーを飲みながら言った。

 純金のような濃い金色の長髪を無造作に紐で括っているが、整った顔立ちは見るからに貴族。

 ──貴族どころか王族のアルシア王国の第五王子殿下、アルフォンス様である。
 目が切れ長で氷みたいな薄い青と、唇の薄さが相まって冷酷そうなパーツ配置だが……かなり見目麗しい王子様である。
 一応きちんとした挨拶はしたのだが、殿下ではなく団長でいいと言われた。

 ペロティを保護した数日後である本日、カイさんと団長が訪問してきた。
 入国に関する条件変更は、この団長に決裁権があるそうで。
 エルフ見たい、面接で決めるとゴネた団長を渋々私の家まで連れてきた……と言うのが、カイさんの渋い顔から察せる。

「なんでしょうか」

 私も優雅にコーヒーカップを持ち上げた。

 どこを見て欲しいかって聞かれたら、断然手指と爪。
 物凄く優美で綺麗なのだ。
 指は細くて節なんてほとんど見えないし
 爪は小さめだけど縦長で完璧な形なのだ。
 お手入れもバッチリだから、いつもツヤツヤだしね。
 だけど誰も褒めてくれたことは無いんだよね。
 顔より指と爪に注目して欲しいんだけどな。
 欲を言うなら髪も。
 ちゃんとお手入れ頑張ってるんだから。

「なぜ貴女の庭にフェンリルが居るのか」

 え、そこ?

「あー……この犬はですね、私が育てた犬でして。飼い犬と言うよりはお友達という関係なのですが、怪我をしていたので保護してます!」

「友達か……」

 団長はしばらく転げ回っている子犬達を眺めた。
 子犬といっても十歳は越えてるし、余裕で二百キロはあるよ。
 小柄なペロティでも、二百キロ越えてると思う。
 体高は百五十センチくらいで体長は尻尾抜きで2mくらいかなぁ。
 子犬達はまだ成体ではないけれど、そろそろ親離れしても良い時期。
 ……なのだが、痩せすぎているせいか小さく見えるんだよね。
 毛質も栄養不足で貧相だし。
 ペロティも本来ふさふさなんだけど、今はボソボソだ。

「ノーテイムのフェンリルは…そもそもフェンリルがテイム出来るかすらわからんが、飼育禁止種に指定されている」

 元居た場所に返してきなさい!ってヤツ……?

「人型を理由無く襲うことはないです。庭からは出られないようにしてますし、元気になるまで保護しておきたいのですが…」

 せめて傷が癒えて、元気になる間の3ヶ月くらいは見ておきたい。
 そこらのチンピラなら、ヘロヘロなペロティでも余裕でぶっ飛ばせるから番犬にもなるし。
 一応下手に出てお願いしてみよう。

 子犬はオスとメスで、体サイズは今は同じくらいだけどオスの方が足が相当大きいから…
 成体になったらペロティより、遥かに大きくなりそうだ。
 メスはペロティと同じくらいになりそう。

「そもそも!フェンリルが犬っておかしいだろ」

 カイさんが叫んだ。

「確かに。フェンリルは幻獣であるな。犬というにはいささか…少々大きいのではないか?」

 団長も静かに同意した。

「いやいやいや、魔獣の山犬よりデカいし!犬じゃねーし!」

 カイさんの大声で、子犬が興味を持ったようで陽気な足取りで突進してきた。
 隅っこで寝ていたペロティが小さく吠えたので、子犬はガゼボ到達前に、ピタっと止まった。
 ちょっと警戒心強めなメスはそのまま向きを変えてペロティの側に戻ったが、パリピ気質っぽいオスは立ち止まったままジーッとこっちを見ている。

「おすわり!」

 私がそう言うと、子犬は指示に従いお座りをした。
 犬、いやフェンリルはとても賢い。
 さすがに喋ったり思考を飛ばして来たりはしないが、こちらの言うことはほぼなんでも理解している。
 お座り、お手、伏せ、待ては1回で理解したし
 食べてる最中のお肉に触っても、怒ったりしない。
 撫でられるのも好きだし、ボールを追いかけるのも好きだ。
 どう考えても犬なんだけど。

「言うこと聞くの!?フェンリルが!」

 カイさんは呆然としつつも、大声で叫んだ。

「カイ、静かに。」

 団長は座ったまま子犬に向かって手招きした。
 子犬は是と判断したのか、トコトコと団長の横まで来てお座りをした。

「…………」
「…………」

 カイが小さな声で耳打ちしてきた。

「団長、犬好きなんだよ……アイツ咬まない?」

「さすがに苛めたら咬むと思うよ?あ、触りたいならどうぞ。」

 団長は躊躇いつつ、子犬を撫でた。
 子犬はテンション爆上がりで有頂天になり、お腹を見せて転がり回った。
 私とカイさんが静かに二杯目のコーヒーを飲み終わった頃、遊び終わった団長がガゼボに戻ってきた。
 息が上がっている。

「アイスティーかアイスコーヒーどうですか?」と聞くと
「いただこう」と低く落ち着いた声が返ってきた。

 遊んでる最中の「いいこでちゅねー!」とか「なんでそんなに可愛いんだぁ!!」っていっていた声は聞かなかったことにする。
 私は何も見ていないし、聞いていない。

 品良くアイスティーを飲んでる団長の膝に、パリピ子犬が無理矢理登ろうとしている。
 子犬なのか、子犬気分なのか。
 子犬っちゃ子犬なんだけど……君、、大型犬サイズよ?

(ああ、登ってしまった! 不敬にならないかしらね?)

 子犬が大きいので団長が、見えなくなった。
 団長は器用にアイスティーを飲み終え、無表情でパリピの腹を揉んでいる。

「入国条件については緩和しよう。ギルドの証明書は非常に優秀という評価だからな」

 ──ただし。
 有事の際には私の指揮下に入ること、が第一条件だ。

 団長は真面目に話しているのだが。
 パリピにほとんど隠れてしまっていて、大事な話なのに内容が頭に入ってこない。
 フェンリルをどうするかを含め、細かい条件は後日詰めようと言うことで。
 ようやく長い面談が終わることになった。

 子犬はメア・バインの外には出られない。
 団長は名残惜しそうにパリピを撫でている。
 彼らが森の中に入って見えなくなるまでパリピは悲しげに見送り、遠吠えを始めた。
 ご近所さんが居なくて良かった。

 数分後、団長とカイさんが戻ってきた。
 嬉しさのあまり、パリピがカイさんを弾き飛ばして団長に飛び掛かった。

 なんだこれ。
 十日ぶりに飼い主に会えた犬じゃん?
 やっぱり犬で良いと思うわ。
 数メートル吹っ飛んだカイさんは、怪我もなく元気に私の横に来て言った。

「フェンリルが私を呼んでるって言い出して引き返して来ちゃったんだよ…」

 うん、だいたい合ってるけどね。

 私とカイさんが仕方なく雑談をしつつ、団長が子犬を撫で回しているのを見守っていると──。

 突然、楽器の弦を弾いたような音が聞こえ一瞬遅れて大きな魔力波が通り抜けていった。
 私の髪が物理的にフワッとなびく程、濃密な衝撃波だった。
 森から鳥の群れが飛び立って逃げていく。

 パリピと再会を喜び合っていた団長が立ち上がり、困ったように呟いた。

「済まない。テイムしてしまったようだ…」
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