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アルシア移住
家庭教師に会いに行く
しおりを挟む早朝、ラスピに顔をペロリと舐められて目が覚めた。
フェンリル達は好き勝手な場所で寝ているが、ラスピは何故か毎日ベッドに上がってくる。
ペロティはリビング、ニーヴは庭で寝てる事が多い。
二階の寝室の窓から外を眺めると、薄紫の朝焼けの空がしっとりと広がっている。
──静かで良い朝だ。
寝室に衛生魔法をかけて、洗面所で顔を洗って保湿。
肌は丈夫なので、ハーブを使った自作の化粧水とクリームを薄く伸ばしておしまい。
歯磨きをしてラスピと一緒に階下に降りると、ペロティがのそのそすり寄ってくる。
玄関のドアを開放すると二匹は庭に出ていった。
昨日の残りで朝食は雑炊。
水とご飯、刻んだキノコを鍋にかけてから、犬達の朝御飯だ。
……と言っても、庭にそれぞれの好みの魔物を置いておくだけなんだけどね。
団長は養育費のつもりなのか、アルセンブルグの肉を大量に送りつけて来たのだけれどフェンリルのお口には合わなかったようだ。
家畜には魔力がないからだと思う。
突然変異で魔臓を持たない個体を長い期間かけて交配して安定させたのが家畜種。
なので魔力水が好きな種族には、美味しいと思えないのかもしれない。
ふつふつと良い感じになってる雑炊に、コケットの卵を落として軽く混ぜれば私の朝食の完成。
ちょっと塩を振って食べるのが一番好き。
キッチンの小さなテーブルと椅子で済ませることにして腰掛ける。
熱々の卵雑炊はお米の甘味、キノコの旨味と香りを卵がまろやかに包み込んでいてとても滋味溢れる逸品に仕上がっていた。
なにもかも適当なので、また同じものは出来ないんだけどね。
器と鍋を洗って拭いて棚に戻す。
(全部魔法で済ませて、マジックバッグを使えば家事なんて必要ないんだけど……)
自分で家事をするという生活感は必要だと思っているので、ちょっとした家事なら自分でやるようにしている。
早起きしたから、ゆっくりと着ていくワンピースを選ぶ余裕もある。
この世界の女性の服はワンピースが主流で平民はミモレ丈が多いかな?
動きやすいからね。
女性は足を見せちゃダメ!といった風習はないけど、膝が出るような短い丈のスカートは娼婦しか履かない。
私の持ってる服もワンピースが多い。
どうしても好みのものを選んじゃうから、スクエアネックのAラインばっかり。
今日はシンプルなダークグレーの半袖。
裾にぐるっと細かく銀色の蔦模様の刺繍が入ってるだけだ。
着替えたあとに髪を高い位置でキュッとまとめてピンで固定したら、準備完了。
ミスリル銀のピアスは元々小さいシンプルなものだし、そのまま。
首と胸元はどうしようかな。
ちょっと悩んだが、ミスリル銀製で小さなブルートパーズの華奢なデザインのペンダントに決めた。
ミスリル銀は質感が霜がおりてきたようにキラキラ感が抑えられている魔法銀の一種なんだけど、青味がかっているから私の瞳に良く馴染む。
魔法とも相性が良い為、魔道具や装備品に使われることが多くてかなり高価。
そのせいか、アクセサリーにはあんまり使われていない。
ミスリルは磨いても金やプラチナのようにキラキラしないしね。
私のミスリルアクセサリーは、単なる道楽みたいなものよ。
支度が整ったところで、そろそろ約束の時間だ。
森の出口付近に作ったポイントに転移すれば十分で着く。
寝ている犬達を驚かせないよう、私は静かに森まで転移した。
午前中の森の日差しはスッキリしている気がするわね。
気温が上がりきってないからなのだろうか?
気分良く農地を通り抜け、ゼライさんから教わった通り、白い壁の家まで歩く。
他の家は木の色そのまんまで、白い家は一軒だけですから、すぐわかりますよ。ってね。
実際には白い壁じゃなくて、使われてる木材が白っぽいだけだった。
他の家と全然違う色だからすぐわかったけどね。
時間ピッタリに薄いドアをノックをすると、女性がドアを開けてくれた。
若くはないけど、年配って程でもなくて優しそうな雰囲気の人だ。
朱色といっても良いくらい、鮮やかな赤毛が印象的。
女性は私を怖がることなく招き入れた。
奥の部屋で複数の気配がするけれど、おそらく子供だろう。
女性はメアリと名乗った。
私も挨拶と名乗りをして、勧められた席に座った。
「私が求めているのは雑談と、雑談から得られる日常生活の常識などです」
メアリはやや強張った顔で、頷いた。
「そのように聞いてる」
私エルフなんですけど大丈夫ですか?と聞くと、そんなこと言ってる場合じゃないくらい切羽詰まっているので引き受けてくれたらしい。
──メアリの事情はこうだった。
ご主人に二人、メアリに三人子供がいる状態で再婚。
その後二人の子供が産まれた。
一番上が十三歳、一番下はゼロ歳の合計七人の子供がいる。
子供が多いのでギリギリの生活だったのに、数ヶ月前にご主人が病気で亡くなってしまい──なけなしの貯金も、治療で使いきったと。
収入が途絶えた今、住む場所だけはあるが生活がままならない状態なのだという。
近所の人からの差し入れで、どうにか食いつないでいる状態だという。
「なにしろ七人いるし、下がまだ乳離れしてないんだよ」
うん、生後三ヶ月じゃそうだよね。
「とにかく働けるようになるまで、どうにかして稼がないと生きていけないんだよ」
なるほど、なるほど。
話し合いの結果。
朝から夕方までであれば好きな時に来てくれて構わない。
二~三時間で切り上げて貰えると助かる。
お金が欲しいので、なんなら毎日来てもいい。
メアリの希望はこんな感じ。
この領の平民の平均収入は、月に金貨一枚前後らしい。
割りの良い力仕事は男性の仕事。
メアリがしっかり働けるようになったとしても、幼児数人抱えてる状態では銀貨六枚稼げるかどうかも怪しいとのこと。
どこの世界でもお母さんは大変だ。
「上の子が十四になれば仕事に出せるし、家はボロ家だけどさ、幸い持ち家だからね。今さえ乗り切ればなんとかなると思うんだ。連れ子を手離す気はないから、とにかくどんなことでも良いから稼ぐしかないんだよ」
「では、月に金貨一枚で。期限は半年程度でどうでしょう」
多分毎日二時間の話し相手だと、月に銀貨2、3枚の仕事なんだけど。
なにしろ私、エルフだからね。
金貨十枚でも嫌がる人の方が絶対多いと思う。
メアリはそれだけ切羽詰まっているのだろう。
思ってたより好条件だったようでメアリは喜んでいるし、私も相場より高いのはわかっている。
金貨一枚以上出すつもりは無かった。
メアリと子供はこれからもずっとここで生きていかなくちゃならないのに、金銭感覚が壊れるようなお金は渡したくない。
それで人生台無しにした人を、いっぱい見てきたから。
死ぬまで面倒見るなら良いのかもしれないけど、そんなことしたくないし。
ちょっと割りの良い仕事を短期間するくらいが平和で良いと思う。
ちゃんと自分達で生きていけるよう、余計な事はしない方が良いのだ。
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