前世の記憶は役立たず!ーエルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎるー

藤 野乃

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アルシア移住

おつかい

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 歩くこと十五分。
 貸し馬屋方面の郊外に、売主のお婆さんが住んでいるそうだ。

「かなり変わった人ですけど、まあ大丈夫と思いますよ…」

 ゼライさんはなんとなく元気がなさそうに、耳を倒して呟いた。
 ちなみに先方の希望価格は白金貨五十枚。

「うちが売り出す時は頑張っても四十枚かなぁって相場でしてね……」

 彼女は相場の販売価格より高額で売りたいらしい。
 数年前に薬師のご主人が亡くなり、店を閉めたのは良いが妻のお婆さんが五十ったら五十!と妥協せず、今に至ってるらしい。

 五十枚でも良いわ、全然。

(それなりにこの大陸には長く住みたいと思ってるし、元は取れると思うし)

 そんな事を話しながら、私たちは小さいけれど小綺麗な家に到着した。
 窓はピカピカ、家の前にはきれいに咲いた花の鉢植えが整然と並んでいる。
 相当キレイ好きそうな雰囲気。

「ヘレナさーん、ゼライです! 売却物件の件でお伺いしました」

「入りな!」

 力強い声が聞こえてきた。
 白髪頭をきれいに結った小柄な人だった。
 小鳥のように華奢で、でも猛禽類の雰囲気。

「エルフかい、また珍しい客が来たもんだ」

 私を上から下までじろじろ眺め、ぶつぶつと呟いた。
 ゼライさんが購入希望で…と話すのを遮り「五十枚」、とブスッとした声でヘレナさんが言った。

「宝貨で良いなら即金で出すわ」

 宝貨消化のチャンスだ。
 王都の両替商なら宝貨に嫌な顔しないはず。

「宝貨だって? 両替の手数料掛かるじゃないか、馬鹿馬鹿しい! ──だけど、そうだねえ……アンタ強いのかい? エルフはみんな強いって言う噂だけど」

 私は微笑んで「龍も一人で倒せます」と返すと、
 ヘレナさんはちょっと考えてから口を開いた。

「宝貨でいい。その代わりちょっとお使いを頼まれてくれないかい」

 手数料かわりのお仕事か。

「なにかしら」

「難しいことじゃあないんだよ。ここが売れたら引っ越すだろ? 妹に届け物をしてもらいたいだけさ」

 領を出て、王都に続く道沿いにある村を三つ越えて、そこから脇道に入ってかなりの距離がある村らしい。

「ふーん? そこって馬で行ける?」

 ゼライさんが道沿いなら馬車が出てますけどね、むしろ三つめから目的の村までは馬じゃないと大変だと思う……とモゴモゴと呟いた。

「運ぶものはなに?」

「手紙と自家製果実酒だよ」

「お酒」

「……あたしは酒を飲まないんだよ。旦那が趣味でつけてた薬酒さ。旦那はそういうの得意でね。たくさん残ってるんだよ」

「なるほど?」

「妹が欲しがってるからくれてやるつもりなんだがね、重いから送料が高い。アンタが請け負ってくれるなら、宝貨幣五枚で手を打とうじゃないか」

「請け負いましょう」

 私とヘレナさんはゼライさんが鞄から出した書類にサインし、魔法契約を交わした。
 ヘレナさんに宝貨を渡し確認してもらった後、薬酒を全部時空庫に入れて(大きい瓶で三十個以上あった!)、御暇することに。

 ゼライさんと事務所へ戻ることにした。

「売れて良かったです。ヘレナさんのご主人は薬師さんでしてね……家族が本当に世話になったので、先生の家が売られる事があっても御本人と奥様からは手数料はいただくなと言う父の遺言でして」

 儲けゼロです、とゼライさんはしょんぼりしつつも笑って見せた。

「まあ、約束を果たせて良かったですよ。ジューンさんの希望も叶いましたし」

 事務所で地図を見せてもらい、ヘレナさんの妹さんの村までの道は教えて貰えた。
 人様の会社の地図は持ち出せないので、同じものを書店で買った方が良いわね。

 三つ目の村までは馬車で二日。
 夜は馬車を走らせないからどうしても日を跨いじゃうみたい。
 四つ目までは、馬で数時間といったところだ。

 ゼライさんにお礼を行って商店街まで戻り、書店で王国地図を買っておく。
 その後は商店街の端っこの我が拠点に行って、防御と防犯魔法を重ねがけ。
 奥の極小部屋に転移する予定なので、私以外が開けられないよう認証魔法をかけ、道路に面した窓は認識阻害を施した。

(カウンターの上に読み終わった本とか、処分予定の雑貨など適当に置いておけばいいか)

 そうすれば、万が一誰かが入っても荷物置き場として一応使われているように見えるだろう。

 ゴブリンは後回し。
 先に魔法契約を交わしたヘレナの用事だ。
 今から行けるとこまで行くのが最短だろう。
 私は乗馬可能なデザインの服に着替え、貸し馬屋へ向かった。
 キャンディの嘶きが遠くから聞こえてきた。
 さすが魔馬、随分気がつくのが早い。

 貸し馬屋のお爺ちゃん……セバスチャンことセバ爺は「キャンディが大騒ぎしてるから、来るだろうと思って外に出てるぞ。鞍もつけてある」と機嫌がいい。

 どうでも良い感想なんだけど……
 セバスチャンってさ、馬屋の主人の名前じゃないよね。
 執事だよね?
 セバスチャンと言えば執事でしょう。
 よくある名前とはいえ……

「ああ、ヘレナ婆さんの妹の村か。地図にポイントを書いてやろう」

 セバ爺は、馬が休める道沿いのポイントに印をつけてくれた。

「今から行けば夜までには三つめの村までならキャンディの足なら問題なく着くぞ。ここと…ここで休ませてやれば充分だ」

 地図をペンで指し示しながら。

「三つめの村にはワシの友人が宿屋兼馬屋をやっとるで。どれ、一つ手紙を書いてやろう」

「助かるわ」

「──朝イチで四つめまで行って、そのまま帰ってくれば明日の夜半には帰ってこれる。普通なら往復四~五日ってところだが、魔馬のキャンディなら、二日以内で済ませられる。嬢ちゃん良い買い物したなあ」

「うふふ、ほんとにね。キャンディの本気見せて貰ってくるわね!」

 キャンディはヤル気満々で、やや興奮気味だ。
 見た目は額の白星が可愛らしい栗毛の普通の馬。
 魔馬だからちょっと気難しいけれど、体力も知力も高い。

「よーし、キャンディ! 行くわよー」

 キャンディは興奮のあまり立ち馬になりかけたけど、すぐに落ち着いて常歩で歩き出した。

 足音が小さいのが魔馬の特徴の一つ。
 普通の馬と違って、蹄鉄が要らないのだ。
 魔馬の蹄は強い魔力で覆われていて、伸びすぎたり削れる心配がない。
 魔馬の足元が霞がかかったようになってて、ハッキリ視認出来ないのはこの濃密な魔力が蹄にあるから。

 キャンディは王都へと続く道に出ると、軽やかに駆け始めた。
 基本ハイスピードだけど、馬車や他の馬がいれば少しスピードを落としてすれ違う。
 とても頭の良い馬だ。

 最初の村を通り過ぎたのは夕方だった。
 村から少し行ったところで、地図の印通り馬の休息場があったのでキャンディを休ませる。
 たっぷり魔力水を与えて、体はサッと水で流して乾燥させる。
 水浴びが好きらしいキャンディは機嫌が良さそうで、疲れた様子はまだ無い。

 キャンディは再び楽しそうに駆け出した。


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