前世の記憶は役立たず!ーエルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎるー

藤 野乃

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アルシア移住

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「あー、遠めから見掛けただけだから」

「あの蛇はですね、もう何十年も討伐出来てないんです。固い上に魔法も効きにくいし、大きいし毒もあるんですよ」

(いえいえ、百年以上前から徘徊してたみたいですよ?)

 ──心の中でツッコミつつ、真面目な顔をしてチェシャの話を聞く。

「とりあえず報告はしたということで、今日は帰る」

「お疲れ様でした。ゆっくり休んでくださいね!進展あったらお手紙出しますので」

 忙しそうなチェシャに別れを告げ、思い直して併設食堂で一杯だけケヴェを飲んで帰ろうという気になった。

 依頼完了は半額だしね。

 レモン入りケヴェを受け取り隅っこに座ってゆっくり飲んでいると、隣の席の若いパーティーが話し掛けてきた。
 女性混成の若いパーティーだ。

 私のオリハルコンの鎧と魔剣に興味津々。
 いい鎧とは!剣とは!で、そこそこ盛り上がったけれども──エルフ怖くないのかしらね、この子ら。

 女の子の一人は前衛らしく、防具を新調するか迷ってるらしい。
 無理してでも、買えるなら防具は良いのを買った方がいい。
 武器より優先順位高いと思う、と私は答えた。

 思い返してみると、この世界の女性の戦闘装備って露出高いの見たことないなぁ。
 谷間やらお腹、太ももなんてがっちり装備だよね。
 刺されたら死ぬもん。

 転移者が良く例にあげるビキニアーマーとか、むしろ急所丸出しだし死にに行くようなもんじゃない?
 やっぱり想像の産物だから、実用性は無いのだろう。
 物理的な意味で、普通に危ないものね。

 賑やかな彼らに別れを告げて、領主の森の転移点までトコトコ歩く。

(ああ、街中に転移点確保したい)

 途中、洗濯物を取り込んでいるメアリの前を通りがかったので、数日お勉強に行かないことを告げた。
 その後ようやく森に入り、転移して帰宅。

 特濃魔力水でお風呂だ。

「うわーーつっかれた」

 衛生魔法で大きな汚れは取ったけど、サッと髪と体を洗ってお湯に飛び込んだ。

 あんなに走ったのって本当に久しぶりだ。
 アンディ君、三十キロくらいあったと思うし。
 次回ハグイェアに行くときは、のんびりゆっくり一人で行きたい。

「髪も随分伸びたわねぇ」

 浴室に独り言が響く。

 もちろん、伸ばそうと思えば伸ばせるのだが、何もしない場合、私の髪の毛は伸びるのが遅め。
 今、腰近くまであるけれど五千年くらい前にバッサリとショートカットにして以来、数百年に一回毛先を整える位しか切ってない。

(ロングヘアに不便は感じて無いから、構わないんだけれどねぇ)

 エルフの髪は魔力の宝庫だし、特に私の髪は媒体としても優秀だ。
 でも身体から離れたら消えてしまうから、使い勝手が悪すぎて出番は滅多に無い残念素材でもある。

「ふー」

 明日は街中の拠点探し。
 あと、キャンディにプラナをあげに行こうかな。
 気分が乗ったら、一緒に襲歩に行ってもいいかもしれない。
 ゴブリンは明後日でいいや。
 髪を乾かした後、道中買い込んで来た物を広げてお一人様パーティーだ。

 今日はお米のお酒がいい。

 味はそのまんま日本酒だし、美味しい。
 私は米酒を取り出して、一緒に買ったお猪口で飲み始めた。
 おお、すっごい辛口。

「すっきりしていて飲みやすいわぁ」

 旨味と少しの酸味、キレのあるいい酒だ。
 紙のラベルを見ると米の酒と書いてあるけれど添えるように【夜ひと夜】とある。

 私にはわかる、これは日本語だ。

 こっちの人は、漢字がなにかの模様かロゴだと思ってるけど。
 この酒蔵、創始者が転生か転移して来た人なんだろうなぁ。
 買ってきたおつまみも悪くない。
 野菜のピクルス、米酒に合うわー。

 肉厚な白身魚の塩焼きも実に美味しい。
 あと、ポテトフライ。
 芋類はホラーチって呼ばれてるけど、揚げたものは何故かポテトフライなのよ。
 考案者の出自が良くわかるネーミングよね。
 絶対日本人よ。
 色々買い込んだけど、今日のお供はこれで良い。

 ──結果、この日もソファーで寝落ちたみたい。
 起きたら昼過ぎだった。
 シャワーを浴びて、出掛ける支度。

 私はメイの姿で街に行って、ヴィルヌの輪で昼食をとることにした。
 相変わらずランチは肉か魚だけど、今日はパスタもあるみたい。
 貝のパスタを注文して、ピーネの香りがする水を飲んでのんびり待つ。
 当然ながら、この世界では水は有料だ。

 ……貝のパスタって言ってたけど、これはボンゴレビアンコね。
 ちょっと味が濃いけど美味しい。

(ここ、ほんとは夜がメインでお酒飲む店だもんねぇ)

 そういう味だ。

 同じパスタを食べている隣の席のおじさまは、堪えきれずエールを注文している。
 私も飲みたかったが、店が行列になっているのでさっさと食べて席をあける事にした。

 自分に消臭魔法をかけ、貸し部屋か貸倉庫がないか歩き回って探してみる。
 幾つかあったが、国民証がいるらしい。
 メイの姿でジューンの国民証はバレたら問題になりそうだから、無し。
 堂々とエルフとして借りに行った方がよさそうだ。

 人が周囲にいないのを確認して、変化魔法を解除してゼライ不動産に向かう。

 ちょうど昼休憩から戻ってきたゼライさんに会ったので、事情を話してみた。
 宿屋の長期滞在は出入りの時に見られる可能性が大きいので、却下だし自己物件がいい。
 ──どの時間帯でも出入り可能、かつ少量の荷物を置けて着替える事が出来る場所。

 この条件に合致する物件を、街の中心部で確保しておきたい。

「あると思いますよ、紋章付き国民カードがあれば家賃さえあれば問題ないかと。ただエルフさんだと月々じゃなくて年払いになっちゃうかもですが」

 事務所で物件がまとめられた冊子を見せてもらう。

 シェアハウス……ダメ。
 一軒家の二階部分……ダメ。
 物置小屋……郊外すぎる。
 うーん、希望に合うものがない。

「ゼライさん、中心部で私でも大丈夫そうな販売物件はない?」

「幾つかありますよ。売り主次第になりますが」

 あ、これいいじゃない。
 商店街の一番角の小さいお店。

「ああ、ここですか。ここはまだ近所に売り主が住んでらっしゃるけど、売れたら息子さんの所に行きたいらしくてね」

「ええ」

「一等地なのと希望価格が強気なもんで、なかなか売れずに数年年経ってるんですよ。薬師さんのお店だったので、清潔なのは保証します」

「いいわね」

「見に行って見ますか?」

 私は頷き、ゼライさんと一緒に五分ほど歩いて商店街に行くことにした。

 その物件は、平屋の小さなお店だった。
 昔日本で見たタバコ屋さんみたいな感じで、道路に面した窓が販売口ってタイプだ。
 窓際にカウンターと小さな椅子があるけど、とにかく狭い。
 建物の奥行きはもうちょっとあって、極小部屋が一つ。
 本当に狭いけど、私の目的には合ってる。

「場所は良いんですけどねえ、建物の形と土地が今の時代だとあまりにも小さすぎてね。ですが、ジューンさんの希望には合うんじゃないですか?
 窓は板で塞いでしまえば目隠しも万全ですし」

 売ってくれるかどうかなんだよね。
 強気な値段でもいいのよ、別に。
 私、エルフだし文句は言わずに買うわ。
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