前世の記憶は役立たず!ーエルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎるー

藤 野乃

文字の大きさ
54 / 92
アルシア移住

龍の革

しおりを挟む
 今日はユーニウスとメイソン馬具店に行く日だ。
 昨日、しっかりシャンプーとリンスをした馬体は更に美しく艶々だ。
 蹄の手入れは要るんだろうかと疑問に思い、お手をさせて観察してみる。
 ギュッと圧縮された魔力がしっかり蹄を覆っていて、ドライアイスの煙のように漆黒の魔力が漏れだしている。
 魔力を纏わせた指で触れてみると、蹄を覆う魔力塊をすり抜けて本来の蹄に触れる事が出来る。
 伸びてないし、肥厚もないから蹄の手入れは要らなさそう。
 うまく出来ているなぁ……。

 店の外で待ち構えていたメイ爺は、裏手の空き地にで計測すると言う。
 仮だから、という理由で仮型の素材は柔らかめのムウルの革で作ったんだって。

 騎乗した状態で鐙の位置を確定。
 鞍を固定する部分や顔回りのベルト部分を正確に調整してもらい、サイズ合わせは完了。
 後は素材の選定だ。
 ユーニウス見たさに有休取った……という執事長に馬守りをお願いし、メイ爺と打ち合わせを始めた。

「ブルグ系のヌメ革が一般的ですなぁ、むろん魔物革でやる場合もありますなぁ」

「闇属性の革とかどうですかね……」

「ドラゴンなら扱ったことあるがね、希少属性付きだと入手が厳しい」

「漆黒闇の古龍のならありますけど」

「古龍!?」

「ヌメ革加工ですかね? 龍も」

「いや、魔力が残存してるから龍系はそういう加工しなくていい。そもそも丈夫だからな。しかも古龍かぁ……いや、闇龍ならばあの魔馬と相性抜群ではあるが、うちの刃物が通るかどうか……」

「革にして持ってきたら、それでいけるかしら」

「ブフォ! お嬢さんが鞣すんですか?」

「革職人に弟子入りしてたこともあるし、現物からの革加工もやったことあるから大丈夫!」

「虫も殺せないような顔して……勇ましいですなぁ、ははは」

「明日持ってくるから、見てから決めるのでもいいですよ」

 明日また来る、と約束し……気味の悪い猫なで声でユーニウスを愛でているメイ爺と執事長を二時間見守った後。
 大量の馬ビスケットを貰って帰宅。

 ユーニウスは庭で自由時間よ。

 私は運動用無人島へ。
 ここは今でこそジャングル状態だけど、私が建てた大型魔物の加工場や工房がある。
 数千年ぶりだけど……固定と保護の魔法を使ってあるから、まだ残ってるはず。

 竜巻を起こして周辺の草木や枯葉を巻き上げ島の端の方に積み上げ、焼却。
 これで海岸から工房付近までスッキリ!
 工房前まで転移して、周囲をぐるっとチェックして、屋根や外壁の洗浄をした。
 中に入ると埃が凄かったので、室内も魔法で綺麗にお掃除した。
 換気扇や水場などの魔核を新しいものに交換すれば、完成だ。

「さてと! 革ね、革……」

 一人が長いと独り言多くなるよね。
 どうしてなんだろう?

 私は一万年くらい前に討伐した漆黒闇の古龍の皮を、時空庫から取り出した。
 ちゃんと解体してから時空庫にしまった過去の私、とても偉い。
 眼球と脳以外の血とか内臓、そういうのはきちんと処理して新鮮なまま保管されている。

 今使うのは皮だけど。

 当の皮は大き過ぎて広い部屋いっぱい使っても足りなかったが、どうにか片側を拡げて吟味する。
 背割りで剥いだ、立派な一枚皮だ。
 腹か、背皮か……ううーん、悩ましい。
 強いのは確実に背皮よね。

 腹の方はやや強度が落ちるけど。

(いや、確かコイツ確か腹にも攻撃入らなかったな……眼球から攻めてようやく、だった覚えがあるわ)

 自分がまだ経験不足で未熟だったのもあるけど、かなり厄介な相手だった。
 今ならもっとスマートに仕留められると思う。

 そうね、加工しやすい腹皮でいいかな。
 余裕を持たせて三メートル四方で。

「欲しい分だけカットとなると、腹だから凹の形でカットするしかないか……」

 面倒だから端から一気にカットしちゃってトリミングすればいいかな?

(さて。水でカットするか、光でカットするか)

 水を極細に圧縮したウォーターカッターは、素材を傷めなくて良いんだけど。
 魔法抵抗率が高過ぎて時間掛かりそう。
 相反属性のレーザーカッターの方がまだ通りやすい気がする。
 でも光のレーザーはちょっと焦げるのよね……。
 剥いだ時は水で頑張った記憶がある。

 私は迷った挙げ句、結局四時間かけて端の三メートルを水でカットした。
 トリミングし終わった頃には既に深夜。
 徹夜コースだ。
 腹側の鱗は背中側の鱗より相当小さいのだけれど、それでも五センチくらいはある。
 これを除去するには、一枚一枚手作業で抜くしかない。
 龍から革を作る時の、一番面倒な作業だ。

 魔力を纏わせたペンチで引っこ抜いていく。
 素材のレアさもあるけれど、一般的に龍革が物凄く高額なのは──この鱗抜きのせいじゃないかなって毎回思う。

 相当強い魔力をかけないと、スポン!って抜けないもの。
 毛根と同じで、皮下に埋まってる部分が結構あるからね。

 綺麗に抜いたところで、大理石製の槽に高濃度魔力水を注入、石灰を計量して追加。
 撹拌してからドラゴン皮を沈める。
 時間加速で四十日ほど進め、皮の状態確認。

 良い感じだったので違う槽に移して、徹底的に水洗いして石灰で分解しきれなかった肉片とか脂肪分を魔法で除去。

 うん。
 真っ黒で良い皮だ。

 次は鞣すか鞣さないか迷うところだけど……。
 そこそこ、というか既に鞣したみたいに固いし弾力もある。
 これはもう革といっても良いんじゃないだろうか?

 作業台に乗せてしっかり油分を与えて保護してから、四方から引っ張りつつ乾燥魔法。
 油分補給のクリームは本龍の脂肪を精製したものだから、馴染みは抜群。

 龍は脂肪分が極端に少ない魔物だけれど、大きさが大きさだから十キロくらいは精製油脂が作れたのよね。
 革のお手入れにも使えるし、作ってあって良かった。
 これも少しメイ爺に持っていこう。
 加工中に必要だろうからね。

 ようやく真っ黒な腹革が完成した頃には、空が白み始めていた。

 私は革をしまい、作業場を片付けてから辺境の家に転移してゆっくり入浴した。
 …………あの島、掘ったら温泉出てくるかな?
 完全に自分の本拠地にしちゃっても、良いんじゃないだろうか。
 大陸から遠すぎて誰も来たこと無いし、これからも来ないだろうし。
 誰の所持品でもない無人島は、私の物にしてもいいんじゃない?

(本当は今日のお昼前にユーニウスを辺境に戻したかったけど、セバ爺にアレコレ説明する気力がないから明日にしよう……)

 メイ爺に龍革を届けなきゃだしね。
 唯一の懸念は、あの革がメイ爺にカットできるかどうかだなぁ。
 ダメそうなら、私の革細工セットと革切り包丁を貸してあげよう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。 【あらすじ】   異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。  それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。  家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。  十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。   だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。  最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。  この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。  そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。  そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。  旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。 ☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。 ☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。

最安もふもふ三匹に名前をつける変な冒険者ですが、この子たちの力を引き出せるのは私だけです ~精霊偏愛録~

Lihito
ファンタジー
精霊に名前をつける冒険者は、たぶん私だけだ。 うさぎのノル、狐のルゥ、モモンガのピノ。三匹とも最安の契約で、手のひらに乗るサイズ。周りからは「手乗り精霊で何ができる」と笑われている。 でも、この子たちへの聞き方を変えるだけで、返ってくる答えはまるで違う。三匹の情報を重ねれば、上位の精霊一体では見えないものが見える。 上位パーティが三度失敗した大型討伐。私は戦わない。ノルに地中を、ピノに上空を、ルゥに地上を調べさせて、答えを組み上げる。 ——この世界の精霊の使い方、みんな間違ってませんか?

『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!? 魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで! 心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく-- 美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!

王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~

しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。 豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。 ――食事が、冷めているのだ。 どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。 「温かいごはんが食べたい」 そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。 地下厨房からの高速搬送。 専用レーンを爆走するカートメイド。 扉の開閉に命をかけるオープナー。 ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!? 温かさは、ホッとさせてくれる。 それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。 冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、 食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ! -

異世界カントリーライフ ~妖精たちと季節を楽しむ日々~

楠富 つかさ
ファンタジー
 都会で忙しさに追われる日々を送っていた主人公は、ふと目を覚ますと異世界の田舎にいた。小さな家と畑、そして妖精たちに囲まれ、四季折々の自然に癒されるスローライフが始まる。時間に縛られず、野菜を育てたり、見知らぬスパイスで料理に挑戦したりと、心温まる日々を満喫する主人公。現代では得られなかった安らぎを感じながら、妖精たちと共に暮らす異世界で、新しい自分を見つける物語。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
 ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。  ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。  ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。  ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。  なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。  もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。  もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。  モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。  なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。  顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。  辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。 他のサイトにも掲載 なろう日間1位 カクヨムブクマ7000  

処理中です...