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出禁 第十話 あんたジーンのなんなのさ
しおりを挟むJJことジーンと少女達が中層でボーンコレクターと化しているその頃、ギルドマスターのマッスルは、ジーンの借りているアパートの部屋へとやってきた。
「おい、ジーンいるか、オレだ」
勢いよく開け放たれた扉に、中にいた子供が「ヒッ」と小さな悲鳴をあげた。
「ガキ? 」
「筋肉? 」
お互いが、第一印象を呟く。
マッスルはさすがにパン一ではなかったが、上半身はシャツも着ず、素肌に前をはだけた黒革のベストを羽織っただけ、見事な大胸筋と腹筋、そして二の腕の筋肉がよく映えるファッションである。
「ん~? ここはジーンの……」
「おじさん誰ですか」
一人暮らしだと思って飛び込んだジーンの部屋には、ローティーンの少年と少女がいるだけだった。
「ここはジーンの部屋だったと思ったが、……お前達はジーンの子供か」
「いえ、ジーンなんて人の事は知らないですけど。ここはJJの部屋です」
少年が少女を背に庇いながら、筋肉の塊に答える。JJの家の居候ロックとナナイだ。
「JJ? 誰だそいつは。やせた背の高い、……そうだな身長百八十セルチマイトルくらいの中年の男か?」
「いえ、子供ですけど。妹より年下の……十歳位かな」
ロックがそう言って妹を見ると、ナナイが小さく頷いた。
それを聞いてマッスルは思った。
<子供ねえ? 一瞬この二人はジーンの隠し子かと思ったけど、JJってガキが、奴の隠し子なのかな? >
一方でロックは、
(なんだろ、突然部屋に飛び込んできたこの失礼な筋肉の固まりは、JJの親? ではなさそうだけど。傍若無人なところはJJと似ているなあ)
どちらからともなく警戒心が浮かんで、気まずい雰囲気が漂う。
「とにかく、ここにはジーンは居ねえんだな」
「は、はい」
しかたなくマッスルが帰ろうとしたところで、背後のドアから若い女性が入ってきた。年の頃は二十代半ば、魔法使いなのか黒いワンピースに黒い三角帽をかぶっている。
「はあ~ただいま~、フエッ! ……筋肉? 」
ナナイと同じ感想を呟く。
「あ、あんた誰や。ロック、ナナイこの人は誰や」
「あ、フラウさんお帰りなさい。この人はなんか知らないですけどジーンって人を探しに来たんですって」
「ジーン、……ジーンって誰? 」
「あんたも知らんのか。身長は百八十センチマイトルほどの痩せた男なんだ。あんたも知らんのだったら、部屋を間違えたかなぁ」
マッスルが短い頭髪をガリガリかきながら踵を返そうとしたその時、「あっ」とフラウと呼ばれた若い女が素っ頓狂な声を上げた。
「あぁ、ジーンか。ジーンやったらもうおらんで」
ジーンは十日程前に子供になったので、もう居ないも同然だとフラウは思い、そう答えた。
「やっぱりここはジーンの家でよかったのか。で、ジーンはいつ帰るんだ? 夕方か、夜か、帰ってきたらマクシミリアンが話があるから面出せって伝えといてくれ」
「人の話し聞かん人やね。だから、ここにはおらん言うとるやろ」
「なんだと、それじゃあ、今ここにはジーンは居ないのか? 」
「今そう言うたやんか」
「なんだと、……あいつ、金が出来なくて夜逃げでもしたのか」
小首をかしげながら、マッスルが呟いた。
それを聞いてフラウは考える。
〔金? なんやろか。あっ、JJ(ジーン)の奴、初めて会ったときに金が必要だって言っていた! あいつ、こいつに借金してんのか? こいつ借金取りか〕
一方ギルマス・マッスルは、そこでようやく気が付いたようにフラウをじろじろと見た。
「お前さんは、ジーンのなんなんだ? 」
それを聞いてさらにフラウは考える。
〔なんや、不躾にジロジロ見くさって。ウチを見る目つきがイヤラシイわ、気色悪! なんでウチの話になるんや? まさかウチに金を払えとかいう気か。あっ、もしかして借金のカタにウチを連れて行く気か? コイツ只の借金取りじゃなくって女衒(ぜげん)か!? 散々ウチを弄んだ末に売りとばすんや。……嫌や! 〕
「だ、誰だってええやろ」
けして本当のことは言えないな、とフラウは思う。
一方、それを聞いてマッスルは、
(ふうん、言いたくないのか。恋人か? いやそれなら隠す必要は無いし。アッ、不倫の愛人か。でも別に隠さなくってもいいのに。オレは気にしないから)
双方に大きな誤解が生まれた瞬間だった。
「それじゃあ、そのJJってのは誰だ? 」
マッスルの問いに、古着を買ったときに、親戚という設定にした事をフラウは思い出す。
「別に誰でもええやろ。まあジーンの親戚の子や」
フラウもマッッスルも考えをめぐらす。
〔子供が居ると高く売れんから、ウチの事いろいろ調べるつもりなんやろか? 〕
(なんだか歯切れの悪い答えだな。親戚じゃないな……あ、ジーンとこいつの隠し子か! そうかタダの不倫の愛人関係じゃなくって、さらに隠し子まで居たら、そりゃ世間体が悪いよな~。だから隠したいのか)
「あんたら結婚はしないのか」
(出来るときは出来ちまうのが子供ってもんだ。隠してるからややこしい事になるんだ、素直に元の家庭は離婚してジーンと結婚したらいいのに。これでも同じ釜の飯を食った仲の元メンだ。お祝いぐらいはしてやる)
とマッスルは鷹揚に考える。一方、フラウは、
〔結婚してるとか言ったら家族だから一蓮托生、借金をウチに払わせる気や。売られたくない! 〕
「するか! 結婚なんかするわけないやろッ! 」
「……? 」
フラウの勢いに押されマッスルは目を丸くする。亀裂は深まるばかりだ。
(えらい剣幕だな。いつまでも結婚しないから痺れを切らして嫌いになったのか。ああ、それで喧嘩してジーンを追い出したんだな。だからもうここには居ないと。まあそれじゃあオレの出番はねえな。夫婦喧嘩はフェンリルでも食わないって言うし)
「まあいいや、どうせあいつの事だ、すぐ戻って来て泣いて謝ってくるだろ、戻ってきたら顔出せって言っとけや、力になるぜ。それと、あんまり隠し事があるといいことねえぜってな」
といって、マッスルはウインクしながらガッツポーズしてみせる。
訳:戻ってきたら、結婚しろって俺が説得してやるから顔を出させろよ。隠し事がなくなったらお祝いしてやるからよ。なっ!(←最後のガッツポーズ)
マッスルとしては、あくまでも二人を祝ってやるつもりで言ったのだが、
異訳:ジーンが戻ってきたら、素直に俺のところに連れて来い。隠したりすると、お前を売り払うぜ。力ずくでな。(←最後のガッツポーズ)
と、フラウには違った意味に聞こえた。
「――ッ!? 」
コクコクコクコク、と壊れたバネ仕掛けの人形のように激しく頷くフラウ。
マッスルが帰っていったのを確認したフラウは、「アイツは女衒や、はよ逃げなアカン、ここにいたらJJの借金のカタに売られるで~」と、ロックとナナイに叫び、二人を大いに困惑させるのだった。
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