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出禁 第十一話 ギルドの緊急クエスト その3
しおりを挟む「もうしかたないわ、あんたみたいにギルドの和を乱すようなモグラ女このギルドにはいらないわ! 」
あれ、もしかしてマズイ? アレ言うのか。
「あんたなんか、このダンジョン出禁――ッ!? 」
「出禁がなんですって? 」
言い争いが高じて、ニーナがオレの時と同じようにリズ姉に出禁を宣言しようとしたそのとき、争いに終止符を打ったのは、見目麗しい(だけどかなり年配の)サブギルドマスターのジェシカだった。
帰って来ていたのか。もっと早く帰ってきて欲しかった。
ジェシカはニーナの耳を、ウサギになるかと言うくらいに上に引っ張る。
「ニーナ、貴女には色々聴きたいことがあります」
「イタタイッ! なんなんですか、離してくださいサブマス~ッ!? 」
「奥の会議室に連れて行って」
ジェシカはそう言って、脇に控えていたギルドマスターのマッスルに命令する。
「ギルマス何とか言ってやってください! 」と、最後の抵抗をするニーナだったが、
「スマン、今のオレにはなんの権限もない」と、ギルマスは小さく呟くだけだった。
ようやく自覚したか。
「エリザベス」
ジェシカがリズ姉に向かって声をかけた。
「さっきはウチのバカ職員がゴメンね、きっちり教育しなおしておくから。あと今回の素材の査定はちょっと色つけておくから、それで許してね」
「いえ、そんな。ザブマスのせいでもないのに」
恐縮するリズ姉にジェシカはなおも続ける。
「あの素材見ると中層に進出したんでしょ。前途有望な若手冒険者が、こんなことで他のダンジョンに移籍されたら、こっちが困るからね。遠慮しないで頂戴」
そう言ってジェシカはウインクする。
そうまで言われたらリズ姉も頷くしかない。
昔から変わらない。相変わらずジェシカは男前な――、もとい姉御肌な性格をしている。
オレの時もジェシカがいてくれたら良かったのだが。
今さら遅いけどね。
「みんな静かに、静かにして。急ぎのクエストがあるから、今から説明するわよ」
ニーナが奥に連れて行かれて、ざわつく受付ロビーにジェシカの声が響いた。
急ぎの仕事と聞いて、集まっていた冒険者達が一斉に静まる。
ジェシカが受付のカウンターの上に飛び乗った。全冒険者、職員の視線がジェシカに集中する。
中にはジェシカの美貌とミニスカから覗いて見える脚線美に目が釘付けになっている者もいる。ってか、そういう奴がほとんどだった。
「今、このギルドで請け負っている鎧の素材集めがちょっとピンチなの。だから【マッドキャタピラ】、【グリーンキャタピラ】の素材を優先的に買い取ります」
以前、素材の解体をしているハイドに聞いた事がある。
とある武器防具工房から鎧の素材の大量発注を受けたが、素材を持ち込むのがほとんどオレだけなので、仕入れが少し心配だと言っていた。
そのオレが出禁になったら、そりゃ素材は集まらないわな。
まあ自業自得か、と思っていたら……。
「詳しくは、後で掲示板にも張り出すけど、換金額は今までの五割増し必要量は二百匹。期間は最長で十日間の予定よ」
「「「「「「「ヒャッッッハーーーーーーッツ!! 」」」」」」」
ヒアー・ハート達だけではなく、他の冒険者達の間からも、時ならぬ儲け話に歓声が上がる。
「さっすがサブマス男前ッ――ヒッ!? 」
うっかり普段思っていることを口走った男に、ジェシカの殺気がこもった視線が向けられ男は首をすくめる。
「ああ、ジェシカさま愛してる! 」
喜びのあまり、ジェシカのいるカウンターに飛び乗って抱きつく者や、ドサクサにまぎれてジェシカの足にすがりつく若手の冒険者もいた。
ちなみに抱きついた奴等はぶっ飛ばされ、足にすがりついた冒険者は顔をハイヒールで踏みつけられた。まあ、そいつは顔を踏まれると恍惚とした表情になっていたから、それもご褒美なのかもしれない。
「あと、魔物が増えて、発生箇所がけっこう変わってるみたいだから、気をつけてね。もし普段と違う魔物が大量に発生してる場所があったら教えてちょうだい。その情報高く買うわ」
ジェシカがキャタピラの緊急クエストとは別に美味しい話を紹介した。
「そんなに、情報買い取るほど魔物多くなったかな」
「それはJJくんが規格外だからよ」
あまり実感がないので腕組みして考えていると、リズ姉がぼそりと呟いた。
そんな事はないけど。オレなんてどこにでもいる二流の冒険者、というか今は冒険者にもなれない駆け出しシェルパだ。
まあ、それはいいとして、
「なんてこった……」
この中でタダ一人喜べないのは、誰あろうオレだ。
なんでオレが追放された後になって、換金額を上げるんだよ。
……いや、逆か。オレが出禁になって素材が集まらなくなったので、仕方なく値上げしたのか。チクショウ……。
オレのマジックリングにはまだ換金できていない【マッドキャタピラ】が四十匹分はあるんだ。なんとかオレの【マッドキャタピラ】売れないかな。
「ただし、【マッドキャタピラ】はダンジョンの中層より下の方に多く出る魔物だから、【マッドキャタピラ】に限っては今まで中層に潜ったことのあるパーティに限ります。まだ中層に潜ったことのないパーティは、ダンジョン外の森とかで【グリーンキャタピラ】を探して頂戴」
「ええ~」「なんだよそれ~」「そりゃそうだろ」「仕方ないか……」「魔物増えてるしな」
細かい事は掲示板に張り出すから――、と言ってジェシカはかっこよくカウンターから飛び降りて奥へと消えていった。
集まった冒険者から、不満と落胆の声が上がる一方で、至極当然といった声も上がった。
まあ仕方ないかな。
中層未経験者はフィールドで【グリーンキャタピラ】を狙わなきゃいけないのだが、この魔物は群れで見つかることは無いので数が稼げないはずだ。だからそういった冒険者は不満に思うかもしれないが、中層以下は初心者には難しい。魔物が増えたり発生箇所が変わっていればなおさらだ。
ジェシカの判断は正しいと思う。中層未経験者が特別価格に釣られて潜ったらかなり危険だからな。
トゥインクルガールズの皆は、今日中層を経験したから、資格はギリギリある。だけど彼女たちだけではまだまだ早い魔物だ、オレがいなければな。オレがいれば九階層ならいける。よし、明日以降は四人を連れて中層でマッドキャタピラ狩りだ。
と思っていたら――。
「エリー、丁度いいじゃん。このクエスト、オレ達と組んでやろうぜ。オレ達なら【マッドキャタピラ】がいる所まで潜れるし、色々と中層の事も教えてやれるぜ。よし決まりなっ! じゃあ、そこで固めの杯と早速打ち合わせをしようぜ」
「いいねえ、なんだな」「よくわかんないけど、最高」「さっそく行こう、たぜい」
そう言ってヒャッハーは、リズ姉の腕をつかんで併設されている酒場に誘う。
奥に連れて行かれたニーナのことは全然気にした様子がない。恋人じゃないのか。
「え? いやちょっと、皆がホームで待ってるし、いろいろ相談しないと」
「んなもん関係ねえって」
「でも、うちのリーダーはアイリスだから。アイリスに聞かないと……」
「チッ、ノリの悪い女だぜ。……しかたねえ」
悪態をつきつつも、とりあえず今日の所は返事を保留ということで、ヒャッハーは引き下がった。
「じゃあ打ち合わせは明日だ、ダンジョン潜りながらするからな。朝メシ食ったらダンジョン前に集合だぜ、遅れんなよ」
リズ姉の答えも聞かず、ヒャッハーは仲間と一緒に酒場へと向かって行った。
まるで一緒に行くのが、当たり前というような態度だ。
すっかりその気のヒャッハーを止める事も出来ず、リズ姉は困ったな――、と言いながらため息をついた。
だが、その口元が心なしか笑っているようにオレには見えて、少し気になった。
「エリザベスさん、お待たせしました。査定が終わりました」
査定から戻ってきたレベッカが差し出した金額は、リズ姉たちのいつもの稼ぎの十倍をはるかに超えた金額だった。
「えっ、こんなに」
よしよし、これでオレの今日のシェルパ報酬も出るし、追加の報酬もゲットだぜ。
「JJくんこんなにもらえたよ」
リズ姉が嬉しそうにオレに受け取った金貨の詰まった皮袋を見せる。
「あら、その子は……? 」
しまった、レベッカに見つかった。せっかくカウンターの影に隠れていたのに。
シェルパは合法だが、十五歳以下の未成年はダンジョン内で戦ってはいけないというルールがある。ばれなきゃいいけど……。
「ああ、この子はシェルパの子で、自分でも戦え――イタッ!? 」
リズ姉がレベッカにばらしそうになったので、あわてて足を踏みつける。ばれなきゃいいけど、ばれたらまずいのだ。
「わ~すごい、やっぱりお姉ちゃん強い冒険者だったんだね。僕も戦えたらいいな~」
オレは全然戦えないガキを装ってリズ姉の言葉を遮る。
「早く皆のところへ帰ろう」
そう言ってオレはリズ姉の手を引っ張ってギルドの外へと誘った。
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