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出禁 第二十七話 それぞれの旅立ち その1
しおりを挟む翌日、オレは朝も早くからリベルタの家を訪ねる。
ディアが出かけて、リベルタの治療が出来なくなっては困るからだが、オレ自身が興奮して寝ていられなかったという理由も多分にある。
だから常識の範囲内の時間まで待つのがとても長かった。
通いなれた古い小さなリベルタの家も、今日はなんだかすごく新鮮に見える。
ドキドキしてるからかな。
オレは興奮を押し殺して、勤めて冷静にドアをノックする。ともするとガンガンとドアを叩いてしまいそうだったから。
「はい、アレ……JJ、どうしたの? 昨日来たばっかりなのに」
出てきたリベルタが、ちょっと驚いた顔をして訪ねてきた。
朝食の準備中だったのだろう、手にフライパンを持っている。ハムエッグが焼けていて、いい匂いがした。
そうだった。
なんだか色々ありすぎて、ものすごく時間がたってた気がするけど、昨日来たばかりだった。
昨日この家に来た後、レベッカに捕まってギルドに連行されて、ジェシカに尋問されて、そのあと、フラウを使ってジーンの身代わり工作をしてジェシカの追及をかわして、上手い事ダンジョンに潜り込んで、ロックとナナイを助けて、トゥインクルガールズの四人を救出して、キングスパイダーをやっつけて、ヒャッハーに変な夢見させて、クイーンスパイダーに殺られそうになって、フローラアルジーナを見つけて、でも粉々で、奴隷を解放して、紆余曲折あって花を手に入れて、ジェシカが壊れて……。
物語の編集者なら「もっと整理した方が……」と言うくらいてんこ盛りだな。
まあいいさ。全て過ぎた事。忘れよう。
「まあ、その、ジーンオジチャンが花を見つけて送ってきたんだ。ダンジョン病に効く薬の、フローラアルジーナ」
「えっ」
アーティファクトの腕のリングからその花を取り出すと、おれはディアの目の前に差し出してやる。
「こ、これが……」
ガチャンと入ったフライパンが床に落ちたが、ディアはそれには目もくれず、朝の日の光を浴びてキラキラ輝く、オレンジの花を見つめた。
ディアは花に触りたいのに、恐れ多くて触れないといった感じで手が妙な動きをしている。と、思ったら次の瞬間、
「何してるの、早くッ! 」
と、叱りつける様に言ってオレの手を取って家の中、リベルタの寝室へと駆け出した。
寝室に入ると、昨日と変わらない姿でリベルタは寝ていた。
顔色は悪そうだが、今のところすぐに様態が急変するとかそういうことはなさそうだ。
ディアがあわててオレを引っ張るから、オレもちょっと焦った。
「今、薬を作る人を呼ぶから、驚くなよ」
「薬……作る人?」
オレはディアに驚かないように言ってから、幻獣ケンタウロスのケイロンを呼び出した。
ケイロンは幻獣なのだが、オレと契約をしているからなのか、呼ぶと何処からともなくやってくる。どちらかと言うと生物と言うよりは、精神生命体のような存在なのだろうか。
ケンタウロスを初めて見たディアは、初めはやはりちょっと驚いたようだが、精霊や妖精を見られるディアは、一般的にはありえない存在であっても特に拒否感はないようだ。
「それじゃ、やってくれるか」
オレはケイロンに、フローラアルジーナの花と、聖水を渡す。聖水はダンジョン病予防のため基本持ち歩いている。
「うむ、始めよう」
少しだけリベルタの口を開けさせ、そこにオレが支えたフローラアルジーナの花の茎をあてがう。
そしてフローラアルジーナのオレンジの花に少しずつ、聖水を流しいれる。
ケイロンが花の周囲を、少し間を空けて両手で包むようにしながら上下に動かすと、オレンジの花の中から優しい光が現れた。
おお、ケイロンが言っていた通り、これは綺麗だ。
「きれい……」
ディアもウットリと眺め、他に言葉はないようだ。
だけど寝ている患者には、この綺麗さはあまり関係がないかな。ケイロンは劇的で効果倍増とか言ってたけど。
少しすると、花の中の聖水から泡が少し出るようになった。炭酸水?
光るオレンジのグラスに注がれた炭酸水みたいで、綺麗で美味しそうだ。
するとケイロンが「よし」と言って、左右から包み込むようにしていた手と花の間隔を徐々に詰めていく。すると光もそれに会わせて輝きを増していく。
そしてケイロンは、花の周囲を包むようにしていた手をゆっくりと茎にそって下に押し下げる。すると、それに会わせて光も茎を伝って下がっていく。
光が茎の最下端にっ達した時、茎の端から二、三滴の光る雫が滴り落ちリベルタの口中を湿らせた。
花に注いだ聖水はそれで無くなったようだ。
ケイロンは再度聖水を花に注ぎ、同じ作業をして、光った数滴の雫をリベルタに飲ませた。
すると。
「……!? 」
「リベルタ」
単に眩しかったのか、それとも別の要因かは不明だが、リベルタが少しだけだが目を開けた。別の要因の方が嬉しいが、それは分からない。
「ジーン……」
「……ッツ! 」
リベルタがオレを見て、ジーンの名を呼ぶ。嬉しいけど今はJJだからな。なんて答えれば良いか悩んだ。
「違うわよ、JJクンよ」
オレより先にディアが答えた。そうだな、今はそれでいい。
「そんな事より、もう少し薬を」
オレはごまかして、リベルタに薬をもう少し飲むように指示をする。
それからケイロンは同じ作業を繰り返し、フローラアルジーナから滴る光る聖水をもう何滴か飲ませた。
リベルタは光る宝石の花の美しい光景にウットリしながら、それを飲み続けた。
まあ飲み続けたと言っても十数滴だが。これで効果倍増になればいいな。
やがてリベルタはもう必要無いと思ったのか、体力の限界だったのか、雫がなくなったとたん、気絶するようにまた眠りに付いた。
「ケイロン」
「大丈夫だ。顔色がよくなった」
見ると確かに、青白かった頬に赤みが差している。
「本当に……」
心配そうにケイロンを見つめるディア。
「うむ大丈夫。そなたもよく頑張ったな」
「頑張ったって別に私は……」
急に褒められてディアが戸惑いながら、顔を赤くする。
「いや、花が見つかるまでよく母親を支えたな。花が間に合って、母親が助かったのはそなたが頑張ったからだ」
なんだかケイロンがすごく良いことを言った。
でも、なんでディアの事をよく知ってるような言い方するかな。これは本来、ジーンの言葉では?
これは、俗に言う“美味しいトコを持っていかれた”、と言うやつだろうか。
解せん。
ほら、ケイロンの言葉に、ディアの目から光る物が。
「ううん、……く、薬を作ってくれて、ホントに、ホントにホントに、ありがとう。あ、あと花も持ってきてくれてアリガト」
ディアは半泣きでオレとケイロンに礼を言った。
花を持ってきたオレはオマケ扱いだ。まあ、花はジーンが見つけて、オレ=JJは持ってきただけ、薬はケイロンが作ったから、それも仕方ないけど、
ホントに解せん。
ディアは多分、生まれてこの方、ずっと病弱で寝たり起きたりを繰り返してきた母親を見て来て、いつ自分が一人取り残される事になるのか、ずっと不安だったに違いない。
もちろんオレだって、幼馴染でずっと側にいたリベルタを失うのは恐かったが、母一人娘一人の十三歳の娘にとっては、母親リベルタへの依存度は相当大きかったはずだ。だから助かったと分かった時に感情が溢れて止まらなくなったのだろう。
とりあえず、泣くに任せてオレたちはディアが泣き止むのを待つことにした。
ジーンだったら、頭を撫でてやったり、胸を貸してやることぐらい出来たと思うけど、お子ちゃまで出会ったばかりのJJにはそんな事は出来ず、只マヌケに側でぼうっと突っ立ってるだけしか出来ないのが歯がゆかった。
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