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出禁 第二十六話 ダンジョンの暗闇に咲く一輪の花 その5
しおりを挟む「そうそう、そんなビックリした顔が見たかったんや」
オレは多分、相当驚いた顔をしてるんだろうな。
いや驚きすぎて表情が抜け落ちたような、マヌケな顔をしているに違いない。
それをフラウにマジマジと観察されてると思うと腹も立つ。と思う、普段ならね。
でも、そんな事はもうどうでもいい。
花が、夢にまで見た“フローラアルジーナ”が手に入ったんだから。
「JJ、その花を早くしまうんだ。長いこと外の空気に触れさせるのは良くない」
ケイロンが忠告してくれた。
おおっとそうだったのか、危ない危ない。おれはあわててマジックリングに花をしまった。
「でもおかしいな。薬そのものを願ったはずなんだけど、出てきたのは花だった」
やっぱり、あの花はニセモノで、フラウが何か仕組んだのか。
二段落ちでさらに驚く顔を見ようと……。
「ア~~~~~ッ、なんか疑ってる顔! 失礼だ、コイツ心底失礼なやっちゃ」
チラリとフラウを見るとすぐにバレタ。フラウは他人の心が読めるらしい。
「だ、だってさ、薬を願ったのに花が出てきたから。……お前、前科あるし」
「そんなん、JJが変なこと考えていたんちゃうんか」
「バッカ言え、この期に及んで変な事考えるか」
「ウチかて今さら騙すことなんてせーへんよ」
「止さんか! 」
角つき合わすオレとフラウをケイロンが仲裁する。
「JJ、ダンジョン病に効く薬、というものは無いのだ」
ケイロンが変なことを言い出した。
「へ、どういうこと? 」
ケイロンが言うには、“ダンジョン病の薬”というものは無いのだそうだ。
実は飲ませ方にポイントがあって、ダンジョン病の患者の口元に“フローラアルジーナ”の茎をあてがい、オレンジの花弁の中に聖水を流し入れ、錬金術で花のエキスと聖水を混ぜ合わせて抽出し、茎から滴るエキスを直接飲ませるのだそうだ。
しいて言えばそのエキスが薬なのだが、エキスの薬の効果は数十秒しかないので、事前に作る事もできず、“薬は存在しない”と言うことらしい。
まあ、作り置きはできない、という事だな。
「そうだったのか、オレはてっきり、花を錬金術ギルドか薬師ギルドに持ち込んで薬を作るもんだと思ってた」
危なかった。でもオレのマジックリングなら時間停止効果もあるんだけど。
「患者の目の前で作ってやった方が劇的だろ」
演出かよ。
「聖水を注いで、錬金術魔法でエキスを抽出する時は中々に美しい光景だぞ。患者にとってはありがたみもあって、効果倍増だ」
ケイロンは自慢げに一人悦に入る。
効果倍増はどうかな、心理的な効果があるのかな。
「詳しいな」
「やった事があるからな。患者さえよければ私がやってやろう。錬金術も医の心得もあるからな」
「おお、いいのか、それだっららお願いしたい」
さすが賢者ケイロン。頼もしい。今日はもう真夜中なので明日やってもらう約束をした。
「さあ、JJ誰かに謝る必要あるんちゃうか、ん? 」
フラウがなぜかドヤ顔で腕を組む。
「ああ、ケイロン、手間かけさせてすまなかった」
「ちゃうやろ、ウチに謝らんと、誰のお陰で花が手に入ったと思とんねん」
「袋のお陰だろ」
「ウチが手を入れさせて、お膳立てしたんやろが」
「止さんか! 」
ケイロンの仲裁で、オレは仕方なくフラウに謝った。まあ花が手に入ったのは事実なので良しとするか。
その後、目覚めたジェシカたちと一緒にギルドに戻った。
深夜にもかかわらず、レベッカや冒険者達が残っていてオレ達を出迎えてくれた。
JJの事を知らないはずの冒険者達も、子供が救出メンバーとしてダンジョンに潜ったと聞いて心配してくれていたらしい。
なんかいいなこういうの。
その後、トゥインクルガールズのメンバーはジェシカに「今度から気をつけてね」と説教を食らっただけで、お咎めなしで帰って行った。
フラウはナナイが心配だったみたいだし、ロックはケイロンに送ってもらわないと帰れないようだったのでみんなで一緒になって帰って行った。
ジェシカは、トゥインクルガールズの四人がヒャッハーを罠にはめた事を覚えていないようだ。
一方でトゥインクルガールズの四人も、殺す勢いだったヒャッハーへの恨みも、もうないようだ。
「ダンジョンで痛い目見たんだから、もういいんじゃない」「そうね」「うむ」「ね~」
と、それだけで終わりだ。
まあ、オレがリフレシアの魔法で奴隷解放を行って、フラウがトラウマ級の夢を見せ続ける事で、仕返しはしているので、良しとしてもらおう。
彼女達は覚えてないらしいけど。
ヒャッハーは仲間が迎えに来たあとボウ男爵の家の馬車で帰って行った。最後まで目覚める事はなく、「クモが、クモが……」とうなされていた。
良かった良かった。
マッスルは若手冒険者にねだられて、今日の救出クエストの話しをつまみに酒場で盛り上がっている。
オレにも参加しろと言ってきたが、この身体では酒は飲めないので遠慮した。
ハリー爺さんに頼むと「わしにこんなことを頼むのは……」と、また呆れられそうだしね。
レベッカは、なんだか各所への連絡手続きでこれまた忙しそうだ。
一方ジェシカは――。
「JJくん、今日の救出クエスト、アリガトね。クエストの報酬と、素材の換金レベッカに頼んでおいたから、座って待ってて」
ギルドダンジョン前支部にあるギルマス室。
オレは、ダンジョンを出禁になった後、ずっとそのまま死蔵されていたマッドキャタピラの素材の換金をしてくれると言うので、お言葉に甘えて待っているところだ。
ちなみにギルマスの部屋は本部と支部と両方にある。
「え、その、ジェシカ……さん? 」
オレはなんて答えて良いか分からず、思わず口ごもる。
「や~ね~、今までどおり、ジェシカお姉ちゃんでいいのよ~」
「そ、そう、なんだ……そうなんだねジェシカ、お姉ちゃん……」
ジェシカはオレ、JJ=ジーンという公式をすっかり忘れていた。
それは良かった。良かったけど、なんだか良くない事が目の前で起こっている。
「それよりさ~ぁ、これ、どっちがいいかな? 」
ジェシカがオレの目の前で、いつもはマッスルがポージングする鏡に向かって、ドレスを二つ交互に身に当てて悩んでいる。
「黒のシックでエレガントな、それでいて背中がバーンと開いたバックビューのドレスで悩殺する方がいいかしら、それともこの光沢のあるピンクの両肩を出したホールタードレスで迫った方がいいかしら。あっ、それよりこっちの」
そういってクローゼットからもう一着のドレスを取り出し、
「こっちの情熱的で華やかなブラッディオレンジのチューブトップで体のラインにフィットしたドレスの方がいいかしら、どれがいい~」
なんだか妙に超ハイテンションで一人ファッションショーを繰り広げている。
ギルマスや、サブマスは忙しくて、泊まり仕事もあるので着替えの用意もあるのは分かるが、ドレスまでおいてあったとは。
「どれも、似合ってるよ、……お姉ちゃん」
オレは引きつる笑顔でそう答えるしかなかった。
オレの知ってるジェシカはどこに行った。フラウが何かしたのか。そうに違いない。
「分かってるわよ~。でもマッスルに見せるのにどれがいちばんいいかな~って」
マッスルに見せるためだったのかッ!
今までは毛虫でも見るような目で見てたのに。
「久々にダンジョン潜って、あの人の輝いている姿見たら、痺れちゃって。私も今夜は女に戻ろうかな~、ってちょっと思っちゃった。うふふっ」
ヒュウウウウウウウウウウウウ。
オレの心を強い南極の風が吹きすぎる。
確かに美人である事に間違いはないのだが、それはクールビューティー。氷の微笑だからこそだ。それが今はアホみたいな笑顔を振り撒いている。
あのジェシカが、絶対零度を体現する氷の女王が、乙女になっちゃった。
あまりのギャップにオレの心が凍りつく。
「JJくん、救出クエストと報酬と、持ってた素材の換金終わった……から……!? 」
レベッカがクエストの報酬と素材を換金をした金貨を大量にもって来てくれたのだが、部屋に入ったとたん、ガッシャーーーンと全てを床にぶちまけた。
「ジ、ジェシカさんが……こ、壊れた」
それだけ言って、レベッカは糸が切れた操り人形のように床に崩れ落ちた。
まあ気持ちは痛いほど分かる。
オレはレベッカをソファに寝かせて介抱してやる。
それを横目に、レベッカはまだドレスを胸に当てながら鏡とにらめっこだ。
「失礼ねー、私だってこういうの着て恋を楽しんだっていいじゃない、永遠の二十五歳なんだから」
やはりフラウが何かしたのだろう。
永遠の二十五歳、この言葉には何か言霊の力が宿ってたりとか、実は呪いの言葉だったりするんじゃないだろうか。
レベッカが落とした金を拾い集め、オレはもうココにいる必要もなくなったので、バレナイようにギルマスの部屋を後にするのだった。
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