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第二章 王都編
第三十一話 シャーロットとロレンツォの初体験 その3
しおりを挟む「あのお話中、申し訳ございませんが、JJくん……お料理まだ作れます?」
侍女の一人が、もの凄く遠慮しながら声を掛けて来た。
「どうしたの」
シャーロットが代わりに聞くと、
「騎士様におかれましては、今日の料理が、まだ少し足りなかった様でして」
見るとスープもパンもジャガイモも全て食べつくされていた。その上で、まだ食うか。
「……仕方ない。作るよ」
「いえ、その、食材さえあれば私達で作りますので」
「ううん、同じ料理じゃ芸が無いし、簡単なの作るから」
オレは一度洗って仕舞った包丁とまな板、そして予備に用意しておいた肉の塊を取り出す。そうだな計りが無いから正確には分からないが、四人分で一キログロームくらい焼けばいいかな。
「何を作るの」
「ホント簡単な男料理だよ。ダイスステーキさ」
肉の塊をいくつもの一口大のダイス状に切り分けていく。
本当は分厚く切ったステーキの方が肉汁も出ちゃわないので美味いだろうけど、“美味しいレア”、火が通っているけど肉は半生に焼くのには時間がかかるし面倒だ。
なので小さく切ってすぐ火が通るダイスステーキの方が簡単だ。腹ペコ騎士を待たせる事もない。
味付けもニンニクと塩コショウだけ、でもそれで充分美味いのだ。
というわけで、手早く完成。
「モグモグ……ゴックン、おお、けっこう美味いな」
「一口で食えるのが、面倒が無くていい」
皿もナイフフォークも人数分無いので、肉は全部一緒盛りにして、一人ずつ串を渡しておくので、好きな分だけつついて皆で分けてくれ。
「おい、早くこっちにも寄越せ」
腹ペコ騎士たちは奪い合って食べていく。
それを見ていたシャーロットとロレンツォが、また食欲を刺激されたようで、
「私もちょっと食べたい」
「ボクも」
と、言い出したのを皮切りに、他の執事や侍女も食べたいと言い出し皆で少しづつ摘まんで食べた。
食肉用に育てられた牛とかと違って少し野趣溢れる風味だったが、これはこれで趣があっていいな。コショウがあってよかった。
結局二回追加で焼いた。
「ねえJJくん。これ何のお肉なの」
食事も終わりかけになって、シャーロットから不意打ちに質問が来てオレは言葉に詰まった。言って良いのかな。
「え、えっと何だったかな……それをここで聞く? 」
「え、なんで、ダメ? 」
焚き火を囲んで、皆がいるところで聞いてきたので、皆がオレに注目した。
「本当に聞きたい?」
「良いから教えなさいよ」
ロレンツォも興味ありげに頷く。
「そうだ教えろよ」「今まで食べた肉とは風味が違ってたな」「歯ごたえも強かったですね」
騎士や侍女からも答えを期待した声がかかる。
もう知らね。
「……グリズリー」
皆の表情が固まった。
騎士は手元にある肉をしげしげと眺めたり、侍女は口元を押さえたり、複雑そうな反応をしているしている。
凶暴な顔を思い出しているのだろうか、聞いたシャーロットは口をパクパクさせて声もない。だから言いたくなかったんだ。
場がしんと静まりかえる。焚き火の枝が爆ぜる音だげがあたりに響く。
だから、オレはもう開き直って言い張る事にした。
「美味いが正義だ」
と言って、串にさした肉をぱくついた。「うん、美味い、美味きゃ良いんだよ」
「そ、そうだな」「そうね、それでいいのよ」「肉に罪はない」
よかった。また場が賑やかになってきた。
だけど、もう追加でステーキを焼く事はなかった。
「こういう食事もたまにはいいですね。今日は野宿の準備もしたし、お料理も作ったし、初めて尽くしでとっても楽しい経験でした」
「そうだね。ボクも楽しかったよ」
食後にちょっと薄めの紅茶を飲みながら、シャーロットとロレンツォが楽しそうに今日の出来事、特に夕食作りを会述していた。まあたまにだったらいいよね。
この日はこれで、みんな満足してご就寝。
だけど、この夕食で野菜や小麦粉の類はみんな食べつくしてしまったので、翌日は朝からダイスステーキ一択だった。
だって朝食用にまとめて作っておいた分も、全部食べちゃうんだもん。
騎士の皆さん以外には不評だった。
まあ、朝からステーキはないよね。
昼もダイスステーキになりそうだったので、ちょっと遠回りして、普段は通らない村に寄って、村長にお願いして食事を作ってもらった。
最初は貴族に出す食事など作れないと断られたが、朝からステーキだったので何でも良いと言ったら、パンとサラダと、カボチャのポタージュ、そして何かの調味料に漬け込んだ熟成牛肉を焼いたものが出て、食後にフルーツ盛り合わせを出してくれた。
かなり好評で皆泣いて喜んでいた。
「ステキな食事をありがとう、本当に美味しかったですよ」
「ありあわせのもので、御口に合いましたでしょうか」
「ああ、とても満足しました。ありがとう、これは些少だが受け取ってくれ」
シャーロットとロレンツォが代表して村長にお礼を言って、執事が昼食にしては多額の謝礼を渡していた。
午後も早めに王都への旅を再会した。
「シャーロット様、やっぱりきちんと台所で作られたお料理っていいですね、お肉も牛肉が美味しかったです」
「そうね、野宿の料理も良かったけど、本当ああいう食事はたまにでいいわね」
馬車にのったシャーロットが、侍女と話しながらしみじみと言ったのが御者台のオレの耳に届いた。
なんだか、夕べと似たような事を言っているようでいても、言葉の意味合いが百八十度違う気がするのは気のせいだろうか。
せっかくリベルタの食材まで流用して一生懸命作ったのに、解せない。
考えてみると、美味しかったとは言われたけど、ありがとうとかお礼の言葉はなかったな。謝礼もないし。
オレはシャーロットの家に雇われた扱いなので、料理を作るのも当たり前で、食材を提供するのも当たり前、という認識なのだろうか。
本当に解せない。
聞いちゃいけない話を聞いた気がして、オレは静かに、御者台の後ろにある馬車の小窓を閉めた。
もう野宿する事になっても何も作ってやらない。
オレは拗ねた気持ちで、移り行く景色を眺めながら、馬を進めるのだった。
その日は、きちんと街に泊まったが、イジワル執事や裏切り御者がいなくなった分、入市の手続きや宿の手配、シャーロットの食事の給仕、そして馬の世話と、やる事が格段に増えた。こんな事なら執事を捕まえるのは王都に行ってからで良かったな、
この街でガレア家の騎士たちの馬を買って、翌日昼過ぎ一日遅れで王都に入った。
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