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「たとえ罠でも水の中」……「清掃の、清掃による、清掃のための」
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ポートンの街を出て数日。北の街道に入ると、Q術師が魔素圧を測る必要なんかさらさらなかった。「地下迷Qこちら」とか「入場料白銅貨三枚」とかでっかい看板が並んでいたからだ。それでケーシーと口論になったわけ。
「たとえ罠でも水の中。俺たちは進むだろう?」
「ことわざっぽく言ってるけど意味わからんし。金払って罠に飛び込む神経がおかしい」
俺のツッコミにケーシーは不服そうに口をとがらしていたが、何かを思いついたらしく、不意に顔を緩ませた。
「そうか、そうか。そんなに金を払いたくないか。潜入がいいか」
「お? お、おう……」
「じゃ、お前がしっかり潜入のきっかけを作ってくれるんだな」
「は? 俺?」
「もちろんお前だ。よし、じゃあこういう手でいこう。俺たちは掃除屋ってことにしようじゃないか」
「掃除屋?」
「おあつらえ向きに、ほうきをかついだ奴がいるしな」
⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒
かわいい制服を着た妖魔族のお姉さんたちが「いらっしゃいませ、ご入場の前に受付へどうぞ」と案内をしてくれる。といっても、俺たち以外に客らしき姿は見えない。そりゃまあ、街道に看板出してあるとはいえ「腹減ったな。ちょっと地下迷Qに立ち寄ろう」って人はいないよな……。
小さな小屋みたいなのに窓口があって、そこに俺たちは近寄った。窓口の中にいる人影に声をかける。
「ここここ、コンニチは……」
「ああん?」
でっかく「入場料白銅貨三枚」の看板をかかげた受付で、何かの手札をいじり回していた強面の犀男が顔を上げた。犀魔族だ。皮膚が鎧のように硬いので、門番などの守備職に向いている、と騎士様が言ってた。
「あ、あの、あがが……あが……銅清掃……です」
後ろでケーシーがニヤニヤしているのが振り向かなくてもわかる不思議! 俺ってば後ろに目ができたのかしら。
犀男は俺を見てから、後ろの四人を見た。貴族風の赤い服着たツンツン頭(ニヤニヤ顔)。騎士(真顔)。メガネのひょろっとした男(真顔)。メイド(無表情)。そんで俺。どう見ても不審。
「なんなんだ? お前ら」
犀男は警戒するというよりは、ほんとに不思議そうに首を傾げた。ですよね。
「あのっ、俺、いや、私たちは、その、清掃の、清掃による、清掃のための掃除……あ、いや、つまり、これが永遠の清掃、なんであります」
ちくしょう、ケーシーのやつめ、「金を払わないならお前がやれ」って俺に押し付けやがって、俺がこういうのできないってわかってるだろ!
俺が汗だくになっていると、やれやれといった様子でケーシーが前に出てきて俺を押し退けた。やたら腰が低いし揉み手すり手すごい。
「いやー、旦那、どうも! いい天気ですなー。ご注文ありがとうございます銅清掃でございます」
「銅清掃?」
「はい! こちらの地下迷Qの清掃の依頼を頂きまして、前金で頂戴しております。いや~~さすが、立派な迷宮を管理されてる方々はお支払いも気前がいい。私ども誠心誠意、ピッカピカにさせていただくつもりで気合が入っておりますよー!」
後ろのメンバーは成り行きを固唾を飲んで見守っていて、どう見ても掃除に気合い入ってるという感じではない。むしろ殺気がこもってる。犀男は鈍感なのか、それには気づかない様子だ。
「んー? 聞いてねえな」
犀男は詰所の奥を振り返って誰かに声をかけた。
「おーい相棒。なんか清掃屋来てるぞ。聞いてるか?」
ケーシーはさりげなく腰の剣に手をかけた。ことと次第によっては斬り捨てるつもりだ。俺もこっそり懐の短剣に手を当てる。奥からぼんやり考え込むような声が返ってくる。
「ん? ああ、なんかそういや、誰かが来るとか来ないとか、聞いてたような……聞いてなかったような?」
犀男はため息をついた。
「お前なあ、そういうのはちゃんと俺にも伝えとけって言ってるだろ。いい加減なことやってっとまた叱られるし、しまいにゃ解雇になるぞ?」
「へーい」
犀男はもう一度ため息をつくと、首をふりながら振り返った。ケーシーはもう剣から手を離して高速揉み手すり手に戻っている。犀男はあらためて一堂をじっくり見回した。
「なんか剣持ってたり鎧着てたり、おっかねえな。戦争でも始めんのか?」
「自衛ですよ自衛。ここいらも最近物騒で。やだな、旦那、こんなガキとかメイド連れてきて、戦争するわけないじゃないですか」
ケーシーのやつが調子に乗って俺の頭にポンポンと手を載せる。やめろ、子供扱いすんじゃねえ。あとでぶっとばしてやる。
「それを言ったらお前みたいな派手な格好の清掃人の方がねえわ」
「さすが旦那、お目が高い。あたしゃお客様係、営業担当で掃除の方はさっぱりでして」
犀男は俺をチラッと見た。
「お前んとこじゃこんなガキにまで仕事させてんのか?」
「あー、こいつ頼りなく見えます? こう見えて意外と根性あるガキなんで」
「そうじゃねえ、この辺の児童保護法はどうなってんのか聞いてんだ」
「え? 児童保護法? えーと」
思わぬ反応にケーシーの揉み手すり手が止まる。言い淀むケーシーを見て犀男は興味なさそうに手を振った。
「あー、いい、いい。お前らが児童労働だろうと残業代未払いだろうと俺の知ったことじゃない。ただ俺も故郷にこのくらいの年齢の娘がいてな……行っていいぞ」
「へい、ありがとうございます。あの、それで、核のお部屋ってのはどちらで」
「核の部屋あ?」
「はい、そちらへ来るようにとのお話でしたが」
「あー、俺たちはあんまり中のことは詳しくないんだ。見ての通り、ここで一日座ってるんだからな。中に入って真っ直ぐ進むと昇降機があってな。その近くに迷子案内があるからよ。そこで訊いてみてくれや」
ケーシーはしきりとお礼を言って、詰所の前を通り過ぎ、地下迷宮の入り口に向かってスタスタと歩き出す。
「核ってなに?」
「それは」
と代わりにQ術師が応える。
「地下迷宮Qが置いてある場所ッスよ。この迷宮を駆動させる中心です。そこでQの動作を止めれば迷宮全体が止まるはず」
「止める? するとどうなるの?」
「まず、迷宮の拡張が止まるッスね。それから魔力が枯渇するから、少しずつ縮小が始まります。通路とか先の方から埋まってっちゃう。最終的にはもとの状態にほぼ戻る、と」
「お前、潜入潜入って大口叩いた割には全っ然口が回らなかったな」
ぐう……。俺は口答えもできず、代わりに思っていたことをそのまま口に出した。
「ケーシーはむちゃくちゃ商売人っぽかったね。意外だった」
「ああ?」
「だっていつも偉そうだから、商売人の真似なんか無理だと思ったけど」
「ああ……俺もいろいろあったんだよ。ずっとこんな格好で生きてきたわけじゃねえ」
「たとえ罠でも水の中。俺たちは進むだろう?」
「ことわざっぽく言ってるけど意味わからんし。金払って罠に飛び込む神経がおかしい」
俺のツッコミにケーシーは不服そうに口をとがらしていたが、何かを思いついたらしく、不意に顔を緩ませた。
「そうか、そうか。そんなに金を払いたくないか。潜入がいいか」
「お? お、おう……」
「じゃ、お前がしっかり潜入のきっかけを作ってくれるんだな」
「は? 俺?」
「もちろんお前だ。よし、じゃあこういう手でいこう。俺たちは掃除屋ってことにしようじゃないか」
「掃除屋?」
「おあつらえ向きに、ほうきをかついだ奴がいるしな」
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かわいい制服を着た妖魔族のお姉さんたちが「いらっしゃいませ、ご入場の前に受付へどうぞ」と案内をしてくれる。といっても、俺たち以外に客らしき姿は見えない。そりゃまあ、街道に看板出してあるとはいえ「腹減ったな。ちょっと地下迷Qに立ち寄ろう」って人はいないよな……。
小さな小屋みたいなのに窓口があって、そこに俺たちは近寄った。窓口の中にいる人影に声をかける。
「ここここ、コンニチは……」
「ああん?」
でっかく「入場料白銅貨三枚」の看板をかかげた受付で、何かの手札をいじり回していた強面の犀男が顔を上げた。犀魔族だ。皮膚が鎧のように硬いので、門番などの守備職に向いている、と騎士様が言ってた。
「あ、あの、あがが……あが……銅清掃……です」
後ろでケーシーがニヤニヤしているのが振り向かなくてもわかる不思議! 俺ってば後ろに目ができたのかしら。
犀男は俺を見てから、後ろの四人を見た。貴族風の赤い服着たツンツン頭(ニヤニヤ顔)。騎士(真顔)。メガネのひょろっとした男(真顔)。メイド(無表情)。そんで俺。どう見ても不審。
「なんなんだ? お前ら」
犀男は警戒するというよりは、ほんとに不思議そうに首を傾げた。ですよね。
「あのっ、俺、いや、私たちは、その、清掃の、清掃による、清掃のための掃除……あ、いや、つまり、これが永遠の清掃、なんであります」
ちくしょう、ケーシーのやつめ、「金を払わないならお前がやれ」って俺に押し付けやがって、俺がこういうのできないってわかってるだろ!
俺が汗だくになっていると、やれやれといった様子でケーシーが前に出てきて俺を押し退けた。やたら腰が低いし揉み手すり手すごい。
「いやー、旦那、どうも! いい天気ですなー。ご注文ありがとうございます銅清掃でございます」
「銅清掃?」
「はい! こちらの地下迷Qの清掃の依頼を頂きまして、前金で頂戴しております。いや~~さすが、立派な迷宮を管理されてる方々はお支払いも気前がいい。私ども誠心誠意、ピッカピカにさせていただくつもりで気合が入っておりますよー!」
後ろのメンバーは成り行きを固唾を飲んで見守っていて、どう見ても掃除に気合い入ってるという感じではない。むしろ殺気がこもってる。犀男は鈍感なのか、それには気づかない様子だ。
「んー? 聞いてねえな」
犀男は詰所の奥を振り返って誰かに声をかけた。
「おーい相棒。なんか清掃屋来てるぞ。聞いてるか?」
ケーシーはさりげなく腰の剣に手をかけた。ことと次第によっては斬り捨てるつもりだ。俺もこっそり懐の短剣に手を当てる。奥からぼんやり考え込むような声が返ってくる。
「ん? ああ、なんかそういや、誰かが来るとか来ないとか、聞いてたような……聞いてなかったような?」
犀男はため息をついた。
「お前なあ、そういうのはちゃんと俺にも伝えとけって言ってるだろ。いい加減なことやってっとまた叱られるし、しまいにゃ解雇になるぞ?」
「へーい」
犀男はもう一度ため息をつくと、首をふりながら振り返った。ケーシーはもう剣から手を離して高速揉み手すり手に戻っている。犀男はあらためて一堂をじっくり見回した。
「なんか剣持ってたり鎧着てたり、おっかねえな。戦争でも始めんのか?」
「自衛ですよ自衛。ここいらも最近物騒で。やだな、旦那、こんなガキとかメイド連れてきて、戦争するわけないじゃないですか」
ケーシーのやつが調子に乗って俺の頭にポンポンと手を載せる。やめろ、子供扱いすんじゃねえ。あとでぶっとばしてやる。
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「さすが旦那、お目が高い。あたしゃお客様係、営業担当で掃除の方はさっぱりでして」
犀男は俺をチラッと見た。
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「あー、こいつ頼りなく見えます? こう見えて意外と根性あるガキなんで」
「そうじゃねえ、この辺の児童保護法はどうなってんのか聞いてんだ」
「え? 児童保護法? えーと」
思わぬ反応にケーシーの揉み手すり手が止まる。言い淀むケーシーを見て犀男は興味なさそうに手を振った。
「あー、いい、いい。お前らが児童労働だろうと残業代未払いだろうと俺の知ったことじゃない。ただ俺も故郷にこのくらいの年齢の娘がいてな……行っていいぞ」
「へい、ありがとうございます。あの、それで、核のお部屋ってのはどちらで」
「核の部屋あ?」
「はい、そちらへ来るようにとのお話でしたが」
「あー、俺たちはあんまり中のことは詳しくないんだ。見ての通り、ここで一日座ってるんだからな。中に入って真っ直ぐ進むと昇降機があってな。その近くに迷子案内があるからよ。そこで訊いてみてくれや」
ケーシーはしきりとお礼を言って、詰所の前を通り過ぎ、地下迷宮の入り口に向かってスタスタと歩き出す。
「核ってなに?」
「それは」
と代わりにQ術師が応える。
「地下迷宮Qが置いてある場所ッスよ。この迷宮を駆動させる中心です。そこでQの動作を止めれば迷宮全体が止まるはず」
「止める? するとどうなるの?」
「まず、迷宮の拡張が止まるッスね。それから魔力が枯渇するから、少しずつ縮小が始まります。通路とか先の方から埋まってっちゃう。最終的にはもとの状態にほぼ戻る、と」
「お前、潜入潜入って大口叩いた割には全っ然口が回らなかったな」
ぐう……。俺は口答えもできず、代わりに思っていたことをそのまま口に出した。
「ケーシーはむちゃくちゃ商売人っぽかったね。意外だった」
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