課金勇者! 節約ジャックと紅蓮《あか》い金かけ男

mogami74

文字の大きさ
7 / 23

「なぜかというと、愛のためにね」……「にくきゅう?」……「一定時間、お金が嫌いになります」

しおりを挟む
「地下迷Q?」

 七日前、騎士団の会議机で、俺は首をひねった。

「って何だ?」
「あー、街で普通に暮らしてりゃ縁がねえか。Qはわかんだろ」
「貧乏人だからってバカにすんな。Q知らねえ奴はいねえよ。流石に」

 Qというのは平たく言えば魔法の玉だ。ガラス玉のような透明の球の中に呪文や図形、記号が書き込まれている。大きさは小石くらいの小さなものから巨大なものまで、用途や必要な魔法規模に応じてさまざまだ。例えば、暖Qを使えば、部屋を温めたり屋外で暖を取ったりするのに使える。かなり高価だし、珍しいものだからあまり貧民街で暮らしてると縁がないけれど、便利な代物だ。

「地下迷Qは、Qの一種で、発動させるとそこに迷宮を作り出すんだ。中から怪物とかが湧き出すのもある。敵国に埋めてやると、治安が下がっていい嫌がらせになる。ま、侵略兵器の一種だな」
「で、それがポートンの北にできてるってこと?」
「そう。どうもまたバディアル連合の置き土産らしい」
「あのジジイ?」
「かどうかはわからん。結構あちらの密偵がティルト王国領に入り込んでるみたいだからな」

 ケーシーが心底めんどくさそうに言うと騎士様エヴァンが話をついだ。

「我々派遣軍としては、その地下迷Qの概略がつかめないうちは、出発が躊躇われる、というわけなんだ。それで僕がパッと偵察に行くことになったんで、ケーシーたちに護衛としてついてきて欲しい」
「騎士団長自ら偵察? 普通下っぱに行かせない?」
「それはなぜかというと、愛のためにね」

 騎士様エヴァンは前髪をかき上げてポーズをとった。

「姫君がさあ、僕の姫君がさあ、僕の活躍見たいって見たいって見たいって言うから僕としては期待に応えなくちゃいけないしそれに」
「あー、わかった、もう、それ以上、言わなくてもわかった。全部わかった。何もかもわかった」
「もちろん謝礼はする。ケーシーの都合は大丈夫かな。女神アージェナのご意志とか、何か予定があったりしない?」
「あーちゃんは俺がどこに行っても気にもしねえよ」

 女神への不敬に、俺は一応ツッコミを入れる。

「女神様をあーちゃんなんて呼ぶと罰が当たるよ」
「本人があーちゃんて呼ばないと怒るんだよ」
「本人?」
「本柱か」
「ほんばしら?」
「いやそれにしても、いちいち調査なんかしなくても地下迷Qくらい迂回すりゃいいんじゃねえの? 迷宮が走って追いかけてくるわけじゃねえだろ?」

 ケーシーがめんどくさそうに言う。たぶん、地味な調査とかやりたくないだけだ。目立ちたがりだから。騎士様エヴァンは肩をすくめる。

「そうもいかないよ。派遣軍を送り出す分、ポートンこのまちの防衛はどうしても手薄になるから、万が一のことがあってポートンに被害が出るのは困る。派遣軍の背後を突かれるのも困るし。一応は敵の情勢を確認しないと。あと僕の活躍を姫君も待ってるし。愛ゆえに」
「しょうがねえなあ……で、そちらさんが噂の?」

 ケーシーは、前回いなかった新顔に目を向ける。ちょっと癖毛の、眼鏡をかけたおにーさんだ。年の頃はケーシーと同じくらい。騎士様エヴァンが紹介する。

「カザンさんはポートンでは評判のQ師なんだ。今回、地下迷Qの調査にはQに詳しい人材が必要と思って、声をかけて来てもらった」
「カザンっス。よろしくお願いしまス」
「カザン、例のものは持って来てくれたか?」

 ケーシーが尋ねると、Q術師カザンは床に置いた背負い袋からごそごそと小袋を取り出した。

「持ってきましたよ。こちらスね」
「おう。ありがとう」

 ケーシーは小袋を受け取ると、中身も見ないで俺の前に置いた。

「ジャック、これ持っとけ」
「何だよ?」
「お前の護身用にと思ってな」

 小袋の中身を見て俺はぐぇっ、と声を絞り出した。袋の中はいっぱいのQだ。店で買ったことないから値段よくは知らないけど、小さなQだって銀貨じゃ買えない。それがこの袋の中には大小さまざまなQが入っている。いくらになるか、想像つかない。

「てめーまた無駄づかいしたのかよ!」

 ケーシーはむっとした様子で口答えする。

「なんだよ無駄づかいって。足手まといのお前の身を案じて、俺がカザンから買ったQだぞ。いざって時のために持ってろ」
「こんなのいらねーよ! いくらすると思ってんだ」
「いくらだっけ?」
金貨三百八十枚三百八十キーニカですな」

 ぐはっ。Q術師カザンの答えに俺は血を吐きそうなくらい衝撃を受けた。サンビャクハチジュウ……。気絶しかけた俺に気づかないまま、Q術師カザンは無邪気に解説を始めた。

「火Qとか雷Qみたいな、一般護身用のものの詰め合わせスね。いくつか珍しいのも入れてますけど。僕が新開発したやつで」
「ほう。どんなんだ?」

 ケーシーも騎士様エヴァンも興味を持って前のめりになる(クロはいつも澄まし顔だ)。

「たとえば……」

 Q術師カザンは俺の前に置いてある袋をあけてごそごそやって一つ取り出した。

「ほらこれ。肉Qっていうんですけど」
「にくきゅう?」
「これは使い切りじゃなくて何度でも使えるやつなんスよ。ちょっとそこのメイドさん……」
「クロとお呼びください」
「クロさん、手を出してみて」

 クロが手を出すと、Q術師カザンはQを自分の手のひらにのせて、鳴いた。

「にゃん」

 Qの中から煙のように猫の手が湧き上がり、クロに「お手」をする。ぷにっと音がしたような気がする。お手を終えるとしゅるしゅると猫の手はQに戻っていく。クロは嬉しそうに言った。

「これはいい肉球ですね。気持ちいい」
「でしょ?」
「俺もやる俺も!」

 ケーシーが手を出すと、Q術師カザンはまたQを手のひらに載せて言った。

「ニャン!」

 その途端、また煙のように猫の手が噴出して、そのままケーシーの顔面をぶったたいた。

「ぐはっ」

 予想外の一撃を食らってケーシーがのけぞる。

「あ、しまった、強すぎた」

 カザンが頭をかく。

「強すぎた?」
「声の大きさで弱中強を使い分けるんですよ」
「うわ使いづら」

 思わず本音で喋ってしまった。ケーシーは肉球の一撃でのけぞったまま、肉球の感触を反芻して緩みきったニヤ顔を晒している。キモ。

「こっちはね、耳Q」
「耳Q?」

 猫耳じゃないだろうな。

「これはね、耳をでっかくするQなんです。ほうら、こんなに大きくなっちゃったー!」

 Q術師カザンは手のひらくらいの大きさになった耳を見せる。ちょっとグロい。

「宴会芸でけっこうウケますよ」
「あの。これは自慢に聞こえるかもしれませんが……」

 不意にクロが口をはさんだ。

「私は耳をピクピク動かせます」
「……それ自慢か?」
「大きな耳でやればさらにウケると思いますよ」

 Q術師カザンは大真面目に請け合った。おい。

「護身用じゃなかったのかよ」
「うーん、耳を大きくして相手を威嚇できるかも?」
「んなわけあるかい! どんな敵だよ」
「これはもろQ。使い切りなんスけど、いざという時にきゅうりと味噌が出せます。非常食になります」
「護身用かは疑問だけどまあ非常用ではある」
「これはたのQ。相手にぶつける使い切りタイプ。命中した相手は、一定時間、お金が嫌いになります」
「お金が嫌い?」
「あらゆる金銭がすっごい悪臭を放つ幻覚に襲われるんですよ。お金を見ただけで吐き気がするし、触るとか無理ってなるんス」
「これいいじゃん! ケーシーに使ってみたら無駄づかい減りそう」
「ざけんなコラ」
「ダメっスよ。Qの無駄づかいはやめてください。それ一個作るのに僕がどんだけ苦労するか」
「そうだ無駄づかいはダメだぞ」
「ケーシーに『無駄づかいダメ』とか言われたくないんだよ!」

 俺は言い返しながら袋の中身を眺めた。

「護身用っていうか宴会用のおもちゃじゃないかこれ」
「まあ今紹介したのはオマケみたいなものなんで。火Qや雷Qはちゃんと護身用に使えますよ」
「ジャック様、お気持ちはものすごくよくわかりますが、念のためお持ちください」

 クロが取りなすので、俺も渋々とQ袋を腰に下げた。

「それで話を戻すけど、その地下迷Qはどこにあるんだ?」
「ポートンから、北の街道を通って王都リンブラまで行く途中の森の中らしい」
「地下迷Qは大量の魔素を消費するンで、周辺地域の魔素圧が下がるんですよ。それで見つけられると思います」
「よし、じゃあ準備が出来次第、出発しよう。ジャック、そういやお前、旅の持ち物揃ってんのか?」
「持ち物?」
「まあ食料とかは俺とクロが用意するからいいけど、武器とか鎧とか、毛布とか」
「あ…親父がくれた短剣ならあるけど」

 あの緑柱どもと戦った時は急いでたから騎士様の短剣を借りたけど、親父の短剣は荷物の中に入れてあった。

「鎧なんて要らねえよ」
「んー、まあお前の体格じゃあ合う鎧探すのも大変だしな」
「騎士団の標準服を支給するから丈を合わせたらいい」

騎士様が言った。

「鎧ではないけど、厚手の生地で補強してあって、普通の服よりは怪我しにくいから」
「クロ、こいつのために丈を合わせるの、やってくれるだろ?」
「もちろんですケーシーさま。ご安心を」
「よし、じゃあ支度がととのったら、出発しよう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

王女様は聖女様?おてんば姫の大冒険~ペットのドラゴンが迷子なので冒険者になって探しに行きます!~

しましまにゃんこ
ファンタジー
アリシア王国の第3王女ティアラ姫には誰にも言えない秘密があった。 それは自分が全属性の魔力を持ち、最強のチート能力を持っていた「建国の賢者アリシア」の生まれ変わりであること! 8才の誕生日を境に前世の記憶を取り戻したものの、500年後に転生したことを知って慌てる。なぜなら死の直前、パートナーのドラゴンに必ず生まれ変わって会いにいくと約束したから。 どこにいてもきっとわかる!と豪語したものの、肝心のドラゴンの気配を感じることができない。全属性の魔力は受け継いだものの、かつての力に比べて圧倒的に弱くなっていたのだ! 「500年……長い。いや、でも、ドラゴンだし。きっと生きてる、よね?待ってて。約束通りきっと会いにいくから!」  かつての力を取り戻しつつ、チートな魔法で大活躍!愛する家族と優しい婚約者候補、可愛い獣人たちに囲まれた穏やかで平和な日々。 しかし、かつての母国が各国に向けて宣戦布告したことにより、少しずつ世界の平和が脅かされていく。 「今度こそ、私が世界を救って見せる!」 失われたドラゴンと世界の破滅を防ぐため、ティアラ姫の冒険の旅が今、始まる!   剣と魔法が織りなすファンタジーの世界で、アリシア王国第3王女として生まれ変わったかつての賢者が巻き起こす、愛と成長と冒険の物語です。 イケメン王子たちとの甘い恋の行方もお見逃しなく。 小説家になろう、カクヨムさま他サイトでも投稿しています。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...