仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん

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10 ふたりきりの食事会

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 買い物を終えて向かったのは、都心の一等地にそびえるタワーマンションだった。
 玄関からリビングまで続くフローリングはつややかで、家具もすべて上質。
 けれど、どこか温かみがあった。


「今日は、鶏のクリーム煮を作ろうと思ってます。前に一緒に行ったお店で、広瀬さんが美味しそうに食べていたので」

「っ……」


 神崎さんがふっと笑う。
 私の小さな反応さえ覚えていてくれた感動に、胸の奥が震えた。


「それじゃあ、メインは神崎さんにお任せしますね」

「はい。まず鶏肉を……おっと、ちょっと緊張してきました」


 包丁を握る手元を見つめる神崎さんは、真剣でありながらどこか不器用で、丁寧に食材を切り分けていく。
 その真剣さが微笑ましくて、つい頬がゆるむ。

 湯気が上がる鍋の中で、バターの香りと炒めた玉ねぎの甘い匂いが混じり合っていく。
 その匂いだけで、少し心がほぐれていく気がした。


「いい匂い……」

「よかった。今のところ、順調です」


 ふと、肩が触れ合う。
 けれど、互いに距離を取ることはなく、気まずさよりも静かな安心感が勝っていた。

 神崎さんが真剣に調味料を量っている間に、私は簡単なサラダを作ることにした。
 レタスをちぎり、トマトを切る。
 モッツァレラチーズを手でほぐし、オリーブオイルと塩胡椒で整える。
 顔を上げると、神崎さんが目を丸くしていた。


「えっ……もう、できたんですか?」

「切ってのせただけですよ。神崎さんみたいに手の込んだことはしてません」

「いやいや、お店で出てくるような料理ですよ!」


 本心からの言葉のようで、頬が自然に緩む。

 ――この人といると、安心する。

 彼の瞳は喜びに満ちていて、自然に笑みがこぼれた。

 やがてテーブルに料理が並ぶころには、部屋中にクリームのやさしい香りが広がっていた。
 温かい鶏のクリーム煮は湯気を立て、ひと口口に運ぶと、鶏肉は柔らかく、ソースはまろやかでやさしい味わいだった。

 でも、それ以上に――調理中ずっと神崎さんを見守っていたからか、この一皿が、特別に感じられた。
 私のために真剣に作ってくれた、その姿勢が、味以上に胸に響いた。


「美味しい、です。すごく」

「本当ですか? よかった……」


 安堵の笑顔を見せる神崎さん。
 その表情を見て、心の奥がじんわり温かくなった。

 久しく忘れていた、誰かのために手を動かし、感謝の言葉を交わす時間――。
 神崎さんと過ごす穏やかな夜が、こんなに心地よいものだとは思わなかった。

 お酒を少しずつ口にしながら、用意してくれていたデザートもいただく。
 男性にこうしてもてなされるのは初めてで、少し照れくさい。


「ごめんなさい。本当は私がお礼としておもてなしするはずだったのに……」


 申し訳なさに少し声が震える。


「そんな、謝らないでください。僕、広瀬さんを見ていると、なんでもしてあげたくなってしまって……」


 神崎さんの照れた声や仕草に、心の中がじんわり満たされる。

(誰かのために自然に動ける人って、こんなにも優しく見えるんだ……)

 申し訳ない気持ちと、素直に嬉しい気持ちが混ざり合った。


「あ、あの、もし僕の行動が負担に感じるなら、遠慮なく言ってくださいね?」


 神崎さんの真剣な眼差しを受け、胸がぎゅっと締まる。


「いえ、負担じゃありません……ただ、こんな風にもてなしてもらったことがなくて、ちょっと慣れていなくて……」


 少し照れくさい。
 そんな私の言葉に、神崎さんは一瞬だけ目を伏せた。
 そして、そっと私の方を見る。


「それじゃあ……広瀬さんが慣れるまで、僕が隣にいてもいいですか?」


 その声音は穏やかで、冗談めいているのに、どこか本気だった。

(神崎さんにとって、これが普通のことなの……?)

 恋人でもないのにこんなにも優しくされて、どうしていいか分からなくなる。
 そんな私の戸惑いを、神崎さんだけが静かに見つめていた。
















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