仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん

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53 完全無視 《姫奈side》

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 高級キャバクラに来る客は、総じて質がいい。
 芸能人がお忍びで来ることもある。
 でも、私たちのイチオシは、何と言ってもプロ野球選手だ。

 ガタイがよくて、ノリもいい。
 ふらっと現れては、躊躇なく大金を落としていく。
 最高の上客だった。

 その中で知り合ったのが、小谷雄大選手。
 鳴り物入りで入団した、期待のルーキーだ。

 以前、他の子が試合に招待され、その場に私も同伴したことがある。
 雄大くんはすらりとした体型なのに、軽々とスタンドに放り込むホームラン。
 その姿に胸を打たれ、私はあっという間に雄大くんのファンになった。

 顔だけで言うなら、リンくんの方が好み。
 でも――大勢のファンを背負うヒーローと知り合いだというだけで、誇らしい気持ちになった。

 だから私は、会えなくてもこまめにメッセージを送っていた。


『ユウダイくん。昨日の試合、大活躍だったね!』


 数日後、ようやく返ってくるのは〈ありがとう〉のスタンプひとつ。
 彼は普段スマホを触らないらしく、返事が素っ気ないことも知っていた。
 練習が忙しいのだから、仕方がない。

(私は理解のある女だし、全然平気っ)

 それに、ただ“知り合い”というだけで、他の客との会話が弾む。
 雄大くんは、私の最高の“友人”だった。


 ――けれど、クリスマス前。


 新規の客を掴むため、会話のネタとしてニュースを流し読みしていたときだ。
 視界に飛び込んできた文字に、思考が止まった。


『小谷雄大、結婚』

「は……? お相手は、一般の女性?」


 記事によれば、雄大くんの方からアプローチしたらしい。
 胸にのしかかる不快感。
 ページを読み進めるほど、苛立ちが募っていく。


「なんで一般人と結婚してんのよっ!」


 手近にあったクッションを壁へ投げつける。
 でも、薄々わかっていた。
 メッセージを送っても返事が来ない日が続いたことも、淡白すぎる文面も――全部。


 私は、小谷雄大を攻略できなかったのだ。


 その後、連絡も既読にならず、もう返事も来ない。
 結婚を機に、私はのだ。

(なんで私じゃないのよ……)

 ショックで何も手につかなかった。
 そんなとき、追い打ちをかけるように別のニュースが流れた。


『神崎グループ、情報漏洩』

「嘘……。ここって、リンくんの勤めてる会社じゃん」


 なんでこんなに悪いことが続くのか。
 胸騒ぎがして、すぐにリンくんへ連絡する。

(今月ツケ多かったし……返してもらえなかったら最悪っ!)

 リンくんがツケを許されていたのは、神崎グループ勤務だから。
 その信用が崩れるなら、早めに回収しなければ困る。
 何度か電話をして、ようやく繋がった。


「リンくん、ニュース見たけど……大丈夫なの?」

『……ああ、それな。……実は、大丈夫じゃない。内緒だけど、あの、ミスしたっていう社員が、でさ。上司である俺が責任を取ることになったんだ』

「っ、そんな……」
 

 ミスをしたのは別の人。
 でも連帯責任で、上司であるリンくんまで地方へ飛ばされるらしい。
 上司が責任を取らされるのは、よく聞く話だけど、私は納得できなかった。


「おかしいよっ。リンくんは何にも悪くないのに、地方に行っちゃうなんて……」
 
「……俺も悔しい。出世コースから外れたけど、こればっかりは仕方ないよな」


 電話口の声は、疲れ切っていた。
 リンくんには同情する。

 ――けれど、もっと困るのは、私だ。

 上客がひとり、いなくなる。
 給料がガクンと下がってしまう。

(……神崎利仁。覚えてなさい)

 次期社長である神崎利仁は、リンくんに厳しかったらしい。
 今回の処分も、彼が決めたという。

 一言でも、文句をぶつけてやりたい。

 そう思ったとき、ふっと閃いた。


「……待って。いいこと思いついた! 神崎利仁を、私に夢中にさせればいいんだわ!」


 神崎グループの次期社長が店の常連になれば、私の株は跳ね上がる。

(リンくん以上の“大物”を捕まえればいいのよ!)

 私はすぐに百貨店へ向かった。
 神崎利仁が出席するクリスマスツリー点灯式を覗くためだ。

 顔バレしないようマフラーで半分隠し、最前列を陣取る。
 ほどなくしてお偉いさんたちが姿を現した。

 冴えないおじさんたちの列の中――ひとりだけ、異様に目立つ男がいた。


「ちょっと待って! 生の神崎利仁、かっこよすぎでしょ!」


 思わず声が出てしまい、周囲から視線が飛ぶ。
 でも、女性たちの何人かはこっそり頷いていた。
 クリスマスツリーより、神崎利仁目当ての人間が、ここには相当いる。

 それほどまでに、彼は絵になる男だった。

 けれど――私には屈辱だった。
 これだけ“可愛い私”が目の前にいるのに、神崎利仁は一瞥すら寄越さなかったのだ。


 ――完全に無視。


 その無視が、私のプライドを静かにえぐった。


















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