嫌われ王子様の成長 〜改心後、暴君の過去が役に立つこともある〜

ぽんちゃん

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16 まともな会話

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 相変わらず端正な顔立ちのイケメンだが、空色の瞳は濁っているように見える。

 「ジルベルト、体調はどうだ?」
 「……は? い、今アーノルドは」
 「言い訳は良い。それに、今日はお前に会いに来たんだ」
 
 眉根を寄せて戸惑うジルベルトは、立っているのもやっとな様子。
 早く休ませようと、無理矢理彼の部屋に案内してもらった。
 日当たりが良く、なんでも揃っているアーノルドの部屋とは違って、机と椅子と寝台、本が何冊かあるだけの狭くて殺風景な部屋。

 使用人見習いの部屋の間違いじゃないのか?
 公爵家の子息が暮らすような場所ではないことは、馬鹿な俺でもわかった。

 「それで、どのような用件で?」
 「そんなに警戒するな。お前が心配で来ただけだ」
 「あ、貴方に心配されるような、関係ではないと記憶しておりますが……」

 警戒心剥き出しのジルベルトに、俺は誠心誠意謝ることにした。

 「うん、そうだな。今まで本当にすまなかった。謝って許されることではないとわかっているが、お前に謝りたかった」
 「な、なにをいきなり……」
 「本当にすまなかった、お前を傷つけてしまって申し訳ない。心から反省している」

 俺が頭を下げると、ジルベルトが狼狽えた。

 「アーノルドの言うことだけを信じて、お前の言葉を聞こうとしなかった」
 「そ、それは……」
 「昨日具合の悪そうなジルベルトに会って、本当にお前がアーノルドを虐めているのかと、疑問に思った。本当に今更なんだがな」

 口を引き結ぶジルベルトは、何も語ろうとはしなかった。
 どうしたら俺の話を聞いてもらえるだろうか。
 どう話せば、ジルベルトは真実を話してくれるのだろうか……。

 そして俺は、日本人だった記憶を思い出したことは伏せて、ジルベルトのことを忘れてしまっていることを話すことにした。

 「リュカも聞いてほしい。実は、俺は所々、過去の記憶がないんだ。それからジルベルトのことは、ほとんど覚えていない……」
 「「っ…………」」

 息を呑む二人に、俺は苦笑いを浮かべた。
 リュカは素直に信じてくれた様子だが、ジルベルトは未だに信じられないような目で俺を見ている。

 「だから昨日、リオン殿下は私にジルベルト様のことを聞いたんですね?」
 「ああ、そうだ。アーノルドの方が元気そうだったし、なんだかおかしいと感じたんだ。昨日ジルベルトと顔を合わせて、ようやく思い出したが、過去のことは全く覚えていない」

 くすんだ金髪を掻き毟って、ハッと馬鹿にしたように嗤うジルベルト。

 「貴方が忘れたとしても、私は覚えています。今まで何をされて来たかを」

 確かに、虐めた方は覚えていなくても、虐められた方は全てを覚えているだろう。

 「それに忘れて下さってかまいません。出来ることなら、私のことなんて放っておいて、もう関わらないで頂きたい」

 そう告げたジルベルトは、心の中では助けてほしいと訴えているように見えた。
 俺がジルベルトを虐めたとか関係なく、こいつを助けてやらないといけない気がして、俺は声を荒げていた。

 「それは無理だ!」
 「っ、はあ?! ふざけんなよ! このクソ王子! 今更なんなんだよ! 今まで通り、俺のことなんてゴミ虫くらいに思ってろよ! 俺に関わっ、ごほっ、ごほっ……」
 「大丈夫か?!」
 「俺に触るなっ!」

 咳き込むジルベルトの背中を撫でようとすると、思い切り突き飛ばされた。
 力が入らないのか、すごく弱々しかったが。

 「ごめん。とにかく横になれ。リュカ、飲み物とシチューをお願いできるか?」
 
 抵抗するジルベルトを簡単にねじ伏せたリュカは、彼を寝台に寝かせて食事を取りに行く。
 横になったジルベルトは、目元に右腕を置いて顔を隠し、カサついた薄い唇からは溜息が漏れる。

 「もう、放っておいてください……」
 「それは出来ない。俺がしてしまった事を許してくれとは言わない。だが、俺はお前のことをもっと知りたいんだ」
 「っ……馬鹿、ですね? 相変わらず」
 「そうだな、確かに俺は馬鹿だった。片方の言うことだけを信じて、お前の話を聞かなかった」

 唇を噛むジルベルトは、今なにを思っているのだろうか。

 「お前のために飯を作ってきたんだ。家族にも食べてもらって、味の保証もしてもらった」
 「毒でも入っているんですか?」
 「毒じゃなくて栄養が入っている」
 「……栄養、って言葉知っていたんですね」
 「さすがに知ってる。牛の乳はカルシウムがたっぷりだ。身長も伸びる……はず」
 
 フッと笑ったジルベルトは、右腕を下ろして俺を見上げる。

 「こんなにまともな会話をしたのは、今日が初めてですね」
 「うっ……。そうなのか? そんなに俺は屑だったのか……」
 「いつも自信満々だった貴方が、そんな顔もするんですね? 別人と話している気分です」

 弱々しくふわりと笑みを見せたジルベルトは、物語の絵本に出てくる王子様のようだった。









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