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6 キス
しおりを挟む「表向きは持病が悪化して療養していることになっていますが、今話したことが真実です」
静かに話を聞いていたラウル殿下が立ち上がり、私の隣に腰掛ける。
ぐっと肩を抱き寄せられ、なにも言わずにただ頭を撫でられた。
すごくぎこちなくだが。
少し強引に私の顔を彼の肩に乗せて、寝かせるように撫で続ける。
当時は幼く、母になにもしてあげることが出来なかった私は、目を伏せて静かに涙を流した。
私の方が背が高いから、若干首が痛いのだが、それでも胸が温かくなった。
気付けば眠りについており、馬車が止まる音で意識が戻る。
二つ年下の子に甘えていたことが恥ずかしくなり、どうやって起きようかと考えていると、唇に柔らかなものが触れた。
薄らと目を開けると、翡翠色の瞳と視線が交わる。
「っ、つ、着いたぞ!」
勢い良く立ち上がったラウル殿下は、さっさと馬車から降りていった。
彼に続いてゆっくりと降りて向かい合うが、ラウル殿下は私に背を向けてしまった。
今日は楽しかったと挨拶をしたが、素っ気無い返事だ。
だが、耳が真っ赤になっているから、きっと照れているのだろう。
私のファーストキスを奪っておいて、随分と勝手なお方だ。
「ラウル殿下?」
「……なんだ」
「泊まっていかれるのですか?」
「っ、はあ!?」
その場で飛び跳ね、慌てて馬車に乗り込んだラウル殿下が、早く出せ! と御者に向かって叫ぶ。
くすりと笑いながら手を振ると、目を見開いたラウル殿下が、慌ててカーテンを閉めた。
「生意気だが、可愛いところがある」
「へぇ~! ついにディアにも春が来たんだ!」
馬車を見送っていると、ひょっこりと顔を出したクラレンス。
ないないと手を振るが、照れ隠しであることは見抜かれているだろう。
なにせ、双子なのだからな。
「母様の話をしたんだ」
「……そうなんだ」
「なにも言われなかった」
ぎょっとした顔をするクラレンスは、及第点かなぁ? と楽しそうに笑う。
いずれ母にも、ラウル殿下のことを紹介する日が来るだろう。
私の晴れ姿を見て、少しでも元気になって欲しい。
きっと母を心から笑顔にさせることができるのは、憎い父だけなのだろうけど。
家庭の事情を話してから、私とラウル殿下の関係は良好なものとなっていた。
今までは、はたから見れば師弟関係だったが、きっと仲の良い婚約者同士に見えているはずだ。
最近気付いたのだが、ラウル殿下は私のことを慕ってくれていると思う。
それをクラレンスや令嬢達に話せば、今更かと言われたが。
出逢いは最悪なものだったけど、互いを想いあった関係になれたら良いなと思うようになっていた。
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