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婚約編
15
しおりを挟む褒め上手なセバスさんからお仕事を教わり、なにをしても褒められる一日を過ごした僕は、最後にシュヴァリエ様を出迎えるという超重要任務を失敗していた……。
それなのに、誰よりも僕に甘いシュヴァリエ様は、みんなの前で熱烈なハグをしてくれたんだ。
一日の疲れが、瞬時に吹っ飛んだ。
……といっても、別に疲れるようなことはしていないのだけど。
「困ったことはなかったようだな?」
「はいっ。セバスさんは優しいし、教え方も上手だったので楽しかったです! 使用人の方々とも、仲良くなれたと思いますっ」
「リュセが楽しく過ごせたなら、よかった。でも、無理はしないようにな? 少しでも大変だと思ったら相談してほしい」
「っ、ありがとうございますっ!」
力になると話してくれたシュヴァリエ様は、頼もしすぎる存在だ。
お言葉に甘える僕は、唯一大変だったことを話すことにした。
「実は……使用人の人たちに敬語を使わないようにすることが、一番大変でした。みんな僕より歳上なので……」
えへへと笑うと、シュヴァリエ様だけでなく、話を聞いていた使用人の人たちも、驚いたように目を丸くしていた。
「僕、なにかおかしなことでも言いましたか?」
「……ククッ。相変わらずだな、リュセは」
頭をぽんぽんされて喜ぶ僕は、シュヴァリエ様と共に夕飯の席に向かう。
いずれ公爵夫人になるとはいえ、今はまだシュヴァリエ様の婚約者だ。
みんなに認めてもらうには、まだまだ時間がかかるだろう。
僕が使用人の名前を覚えた時点で、『そこの君』としか呼ばれたことのない人たちから、好意的に見られていることを知らない僕は、より親しくなれるように頑張ろうと心に決めていた。
◇
寝る準備を整えた僕の部屋に、ガウン姿のシュヴァリエ様が訪れる。
いつものようにソファーに並んで腰掛け、今日の出来事を互いに話した。
時折、髪を掻き上げたり、足を組み替える姿が色っぽくて目に毒だったけれど、聞き上手なシュヴァリエ様となら、いつまでも話していられる。
「それで、秋には狩猟大会があるんだ。毎年不参加だったが……。今年は参加しようと思っている」
そう宣言したシュヴァリエ様は、今日は第一騎士団の人たちに絡まれたらしい。
この間、シュヴァリエ様だけを愛すると宣言したばかりなのに、まだ僕たちの仲を引き裂こうとする人たちがいるみたいだ。
また騎士団に足を運んで、僕がシュヴァリエ様一筋なところを見せる必要があるかもしれない。
不快に思ったけれど、いつもなら無視をするシュヴァリエ様は、今日は言い返したそうだ。
……僕のために。
きっとかなり勇気を振り絞ってくれたんだと察した僕は、ぐっと拳を握りしめた。
「シュヴァリエ様なら、絶対に優勝できますっ! 今日絡んできたナルシスト集団に、シュヴァリエ様の凄さを見せつけてやりましょうっ!」
「ククッ……。ナルシスト集団か。リュセの目にはそんな風に見えているんだな?」
くつくつと喉を鳴らしたシュヴァリエ様に、愛おしそうに見つめられる。
「頑張ってみるよ。リュセのために……」
甘い声で囁いたシュヴァリエ様と見つめ合う。
真剣な話をしていたのに、急にとっても甘い空気になって、心臓がドキドキうるさい。
頬が熱くなってしまうけれど、真っ直ぐに見つめ続ける。
「リュセ……」
僕の名を囁いたシュヴァリエ様に、そっと熱い頬を撫でられて、さらに熱くなる。
恥ずかしくてぎゅっと目を閉じた僕は、シュヴァリエ様と二度目のキスをした……。
「そろそろ寝ようか」
さっきまで喋り倒していた僕だけど、今はこくりとだけ頷くと、シュヴァリエ様が小さく笑った。
恥ずかしすぎて、無言で手を引く僕。
シュヴァリエ様は自室に戻る気満々だったことにも気付かずに、寝台に連れ込んでいた。
「リュセっ、その、今日は……」
「腕枕、してほしいですっ」
「うぐっ……」
なにやらもごもご話しているシュヴァリエ様を見上げると、目を開けたまま固まっていた。
いつまで経っても動く気配がないから、勝手に腕を拝借する僕。
「明日も、寝る前にお話しましょうねっ」
「…………」
「ふふっ、またすぐに寝ちゃったっ。寝つきがよすぎるっ」
すりすりと頬ずりをする僕は、僕に腕枕をさせられている人が気を失っていることにも気付かずに、花の香りに包まれて、すぐに眠りに落ちていた。
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