期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん

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 久々に部屋を出たフラヴィオは、外の世界を見る間もなく、直様トレント侯爵家の馬車に乗せられていた――。

 随分と待たせて悪かった。
 ようやく迎えに来れた。

 と、前置きをしたマルティン。
 彼の膝の上に乗せられていたフラヴィオは、下ろしてほしいと言おうとしたのだが……。

「愛してる、フラヴィオ」

「っ、」

 爽やかな笑みに、不覚にもフラヴィオの胸はときめいた。
 だが、次に続いた言葉に絶句する。

「俺の、になってくれ」

 まるで物語の主人公のような顔で、恐ろしいことを宣った男に抱きしめられる。
 耳を疑うような言葉に、フラヴィオはかつての謝罪と、助け出してくれたことに対するお礼を述べることが出来なかった……。



「マルティン。まずは、詳しい話を聞かせてくれないか?」

 掠れた声だったが、なんとか話せた自分を褒めたいと、フラヴィオは思う。
 みっともなく震える声だったが、マルティンは全く気にせず、むしろ喜んで話し出した。

 現在、レオーネ領に盗賊が頻繁に現れているらしく、領民が被害に遭っているそうだ。
 それなのにフィリッポは何の対策もせず、放置していたらしい。
 その話をいち早く聞きつけたマルティンは、賊の件を解決した後に、報酬としてフラヴィオを愛人に迎えると話したのだ。

 そして口約束だが、フィリッポも了承していたそうだ。
 つまり、フラヴィオは父親に売られたのだ。
 そのことに関しては然程驚かなかったフラヴィオだが、暴走しているマルティンに若干恐怖を抱いていた。

「本当なら、俺だって政略結婚なんてしたくねぇ。でも、貴族としての義務だ。それはフラヴィオもわかってくれるよな?」

「…………」

 マルティンの脳内では、すでにフラヴィオは愛人の立ち位置にいるようだ。
 馬車の中でも、マルティンは一向にフラヴィオを離す気配がない。
 尻が痛くなるだろうと気を遣ってくれているらしいが、大切な話をする時くらいは下ろしてほしいと切に願う。
 今のフラヴィオは逃げる気は毛頭ないし、マルティンから逃げられるとも思っていない。

「おい、無視しないでくれ。……も、もしかして、嫉妬してるのか?」

 碧眼をキラキラとさせるマルティンが『あのフラヴィオがっ!?』と喜んでいるのだが。
 フラヴィオの目は死んでいた。
 最初こそ助け出してくれたことに感謝していたフラヴィオだが、マルティンの話を聞けば聞くほど頭が痛くてたまらなかった。

「心配しなくていい。俺はずっと、フラヴィオだけを愛してるから……」

「…………」

 甘い言葉を告げられても、フラヴィオの心は全く動かない。
 愛だ恋だと言われたところで、問題はなにも解決しないからだ。
 熱烈な愛情表情をしているマルティンとは違い、フラヴィオは冷静だった。

 マルティンの愛人になるということは、レオーネ伯爵家の当主の座を諦めることだ。
 心身共に弱っている状態であっても、フラヴィオは母の愛したレオーネ領のために働きたい。
 その気持ちを無視するマルティンのことを、好きになれるはずもなかった。

(軟禁されている私を助け出すために、演技をしていたのかと思いきや……。自分のためだったのか)

 目の前の男が、一瞬でもヒーローのように見えてしまっていたフラヴィオは、落胆していた。

 それに、賊の件もある。
 マルティンはフィリッポに、賊は自分たちでなんとかしろと話していた。
 今のマルティンの脳内は、フラヴィオと過ごすことでいっぱいである。

(つまり、マルティンはただの誘拐犯だ)

 そう結論付けているフラヴィオに気付いていないマルティンは、今までに見たこともないようなだらしない顔で笑っている。


 遠い目をするフラヴィオは、恋愛小説に出てくるような本物の王子様に迎えに来てほしいと、この時初めて思っていた――。





 トレント侯爵家の別邸に着けば、そのまま部屋に連行される。

 ――フラヴィオの新たな軟禁場所だ。

 使用人には、白い目で見られる。
 フラヴィオを歓迎している者は、間違いなく誰もいないだろう。

 主人に抱えられている美青年を、使用人たちはだと思っていたが、逃走経路を確認しているフラヴィオは気付かなかった。













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