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しおりを挟む「そんなところに、兄様が後妻として嫁いだとしても、歓迎されるどころか……っ」
それ以上は言葉が出ない様子のミゲルが、フラヴィオにぎゅっと抱きつく。
ミゲルの予想通り、どこへ嫁ごうともフラヴィオが歓迎されることはないだろう。
腫れ物扱いされることが、容易に想像出来てしまった。
それでもフラヴィオは、この縁談を受けることに決めている。
格上相手からの申し出を、断れないからという理由ではない。
領地を失い、ミゲルが当主になった時――。
事業を始めようと思っても、金がなければなにもできないからだ。
ミゲルのために力になりたいと思うフラヴィオは、冷遇されても嫁ぐ道を選ぶ。
「なにもさせてもらえないかもしれないが、良き伴侶になれるように精進するよ。だが、年齢差もある。できれば息子のように可愛がっていただけないかと、お願いしてみようと思う」
「っ……」
真剣に話していたフラヴィオだが、自分でも無理がある話だと思い、戯けたように肩を竦める。
「ふふっ、無理かな?」
目を見開いたミゲルは、それはそれは嬉しそうにニカッと笑った。
「兄様の父親が公爵閣下だなんて、考えただけで最高ですッ! とってもいい案だと思いますッ! 今の言葉、必ずお伝えしてくださいね?」
急にテンションが上がるミゲルに驚いたフラヴィオだったが、ああ、と笑顔で頷く。
そして、自身の筋肉のない腕を見下ろし、苦笑いするしかなかった。
確かジラルディ公爵閣下は、十六から戦場で活躍していたお方だ。
現在、三十一歳くらいではなかろうかと、フラヴィオは頭の中で計算する。
(クレム様と、歳が近いな……)
クレムの正確な年齢は知らないが、三十代後半だろう。
(もしかすると、ふたりは友人かもしれない。そうしたら、またクレム様と会えるかも――)
だなんて、自分の都合の良いように考えてしまったフラヴィオは、やはりフィリッポの息子なのだとひとり自己嫌悪に陥っていた。
◇
体調は万全ではないが、フラヴィオは祝福の儀を受けることにした。
神官長のマヌエルには、もう少し療養してからの方が良いと、やんわりと拒否されたが、フラヴィオは頭を下げていた。
そしてミゲルも加勢してくれ、マヌエルの許可をもぎ取った。
儀式を行う場所に移動し、フラヴィオは神官たちに囲まれる。
自ら希望したことだが、不安で足が震える。
(こんな時、クレム様がいてくれたら……)
なにをしていてもクレムのことを思い出してしまうフラヴィオは、自分でも気付かないうちに、バレッタに手を伸ばしていた。
「……ッ!」
その手を取られ、フラヴィオは勢いよく振り返る。
フラヴィオの期待していた人ではなかったが、笑みを浮かべた。
「ミゲル? どうした?」
「神聖な儀式ですから――」
ミゲルの手には、レオーネ邸の自室に忘れていたエメラルドの髪飾りが握られていた。
いつ見ても華やかで美しいと思う。
クレムにもらったバレッタも品があるが、ふたつの髪飾りを並べた時に、大抵の人は華やかな方を選ぶだろう。
クレムと出逢う前のフラヴィオでも、何の迷いもなくエメラルドの方を選んでいたはずだ。
でも、今は違う。
「ごめん、ミゲル。コレがいいんだ」
「…………」
基本的に、ミゲルのお願いはなんでも聞いていたフラヴィオが、初めて我儘を口にしていた。
だからだろうか。
そうですか、と笑顔で引き下がったミゲルの目が、笑っていなかったように感じたのは……。
――そして、儀式は滞りなく終了する。
レオーネ伯爵家の嫡男として生まれたフラヴィオは、当主の権利を放棄した。
どっと疲れが押し寄せて来る。
特に体に異変はないが、精神的なものだろう。
少し休みたいと思っていたのだが、ミゲルと神官長が口論になり、フラヴィオはしんみりする暇もなく仲裁に入っていた。
「兄様を連れて帰ります」
「今すぐにですか? 儀式後、なにが起こるかわかりません。彼は元々、体調が万全ではありませんでした。体を休める必要があります」
「それなら、馬車で寝ることだって出来ます」
「……それは、本気で言っていますか?」
「っ、こちらにも事情があるんですッ!!」
一刻も早く神殿を去りたがっているミゲルが、声を荒げる。
興奮するミゲルを落ち着かせようとしたフラヴィオだったが、第三者に手を引かれていた。
「お久しぶりです。漆黒色のバレッタが、とてもお似合いですね?」
周囲の人々がはっと注目するほどの美形が、フラヴィオに微笑みかける。
ハラハラと成り行きを見守っていた神官たちが、見目麗しいふたりに見惚れていたのだが、ミゲルだけは忌々しげな表情でアキレスを睨みつけていた。
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