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69 ミランダ
しおりを挟む他者から敬われることで快感を得るミランダは、今まで自分たちが冷遇していたフラヴィオが、まるで王族のように対応されていたことを思い出し、はらわたが煮えくり返っていた――。
「領地を見回ってなにが楽しいっていうのよ。どうせ、『私は英雄の妻です~』って、でかい顔したいだけじゃないの」
心の声が漏れているミランダは、ギリッと短い爪を噛む。
豪華な衣装で登場したものの、誰からも注目されなかったことに苛々が止まらなかった。
舞踏会にでも参加するようなギラギラとした衣装を見せびらかしに来ただけの夫婦を、誰も歓迎するはずがないのだが、平民を見下しているミランダには関係なかった――。
(誰も彼もが、フラヴィオ、フラヴィオ、フラヴィオッ!! ちょっと美人だからって、なんであんなにもチヤホヤされるのよッ!! 忌々しいフローラにそっくりだわッ!!)
目の前に座る醜男を眺め、世の中は不公平だと嘆いていた。
領地を見回ることに飽きたミランダは、一足先にレオーネ伯爵邸に向かっている。
ミランダの真に愛する人、ベルトランドに会うために――。
使用人のベルトランドは、食欲と性欲が強いミランダを満たしてくれる存在なのだ。
(自分本位なフィリッポとは違って、ベルトは体も鍛えているし、最高なのよねぇ……)
癒してもらおうと思っていたミランダだが、外の景色をぼけーっと見ていたフィリッポの訝しげな視線に気付き、にこりと微笑んだ。
「閣下は花が好きなのか?」
「そうみたいね? 青い花ばかりだけれど……」
「花に金を使うくらいなら、骨董品を買った方が価値があるというのに。教えてあげた方がいいか?」
芸術品の価値などわからない男が、ぼやく。
ミランダと同じく、領民から冷めた目を向けられたフィリッポも、さっさと馬車に戻っていた。
「……ええ、本当にね。でも、閣下も知っていると思うわ? ただ、お金が有り余っているのよ」
「なるほどな。さすがは私の義理の息子だッ!」
「…………」
能天気なフィリッポが、腹を揺らして笑う。
恐ろしい圧のある義理の息子は、さすがのミランダでも対応できない。
不敬な発言をすれば、すぐに首を刎ねられそうな気がするのだ。
楽観的なフィリッポとは違い、ミランダは戦場の鬼神とはなるべく関わらない方が良い、と判断していた。
もし頼みたいことがあれば、すべてミゲルに伝えたらいい。
そうすれば、ミゲルを可愛がっているフラヴィオは、公爵閣下を頼らざるを得ない。
ミランダはなにもしなくていいのだ。
(それに、こっちはフラヴィオが英雄のもとに嫁いだって事実があればいいだけだもの。さっそくみんなに自慢しないとね!)
ジラルディ公爵邸を訪問しただけでも、とても名誉なことなのだ。
ミランダは楽しいお茶会を開く未来を想像して、ほくそ笑んだ、が……。
「っ、なんなのよ、これは……ッ!!!!」
レオーネ伯爵邸に帰宅すれば、強盗でも入ったのか、邸が荒らされていたのだ。
金になるものは、カラトリーまで全て消え去っていた。
使用人もひとりもおらず、フィリッポとミランダは慌てて隠し金庫を確認するも、中身は綺麗さっぱり無くなっていた――。
「どういうことだッ!! 金庫の番号は、私とミランダしか知らないはずなのにッ!!!!」
フィリッポの怒号が響くも、ミランダは頭の中が真っ白になっていた。
なぜならミランダは、ベルトランドに金庫の番号を教えていたのだ。
フォレスティ侯爵家での地獄のお茶会を終えた後、緊急事態が起こった時は、ベルトランドと逃げるつもりだった。
(ベルトが私を裏切るはずないわ……。きっと、ベルトの身になにかあったのよッ!!)
「まさか、まだ盗賊が残っていたのか!?!? は、早く、被害届を……」
「そうだわッ!! 閣下に頼みましょうッ!! 閣下なら、犯人を一人残らず取っ捕まえてくれるはずよッ!!」
「おおッ! さすがミランダだッ!」
ハイタッチしようとするフィリッポをスルーしたミランダは、さっさと馬車に戻っていた。
ジラルディ公爵夫夫が視察予定の場所に向かう間、愛人の身になにかあったのかと、ミランダは気が気ではなかった。
――そして、ミランダの不安は的中することになる。
領民から叱咤され、泥だらけで働いているベルトランドの姿があったのだ。
「しっかり働けよ、この犯罪者がッ!!」
どぶさらいという底辺の人間がやる仕事を、強制的にやらされていたミランダの愛する人は、額に犯罪者の焼印を押されていた――。
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