期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん

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93 反省する者

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 ――その後。

 メイドたちは、室内で出来る仕事を任されるようになっていた。
 椅子に座り、刺繍をするメイドが増えていく。
 だが、ベルトランドだけはいつまでもどぶさらいをしていた。

「なんで俺だけ、重労働をしなければならないんだっ!!」

 未だに文句を垂れているベルトランドから距離を置く男たちは、黙って食事を用意する。
 男性使用人たちは、主に病院での手伝いに駆り出されていた。

 今は誰もベルトランドとはつるんでいない。
 共に食事をすることもなくなっており、原因はドブ臭いせいだ、と思っているベルトランドだが、実際は違っていた。

「今日さ……。最初は、汚い手で触るな! って怒ってたばあさんに、『いつもありがとねぇ~』って言われたんだ……」

 入院患者の世話を任されている男性使用人が、泣きそうな顔で呟く。

 最初は嫌々働いていたが、今は違う。
 心から反省し、領民のためにできることをしたいと思っていたのだ。
 そんな中、感謝の言葉をかけられた時は、胸がほっこりとしていた。


 しかし、病院で働く者たちは皆、ある人物を思い出すのだ――。


「っ……フラヴィオ様も、言ってたよな……。俺たちに無視されてんのにっ」

 今思い出せば、レオーネ伯爵家でただひとり、フラヴィオだけは使用人に対しても、感謝の言葉を口にしていたのだ――。
 皆の脳裏に、少しずつ光を失っていく翡翠色の瞳が思い起こされる。
 過去の行いを悔いる者たちは、塩辛いスープを啜っていた――。





 ――そして一年後。

 改心した者たちが、入院患者の入浴や排泄、歩行の介助を手伝っているところに、なんの前触れもなく公爵夫夫が視察に訪れた。

(っ、フラヴィオ様……)

 レオーネ伯爵家で雇われていた者たちの間で、緊張が走った。
 直接謝罪したいと思うのだが、公爵夫人に声をかけることは許されていないのだ。

 室内を見回した翡翠色の瞳が、僅かに見開かれる。
 その瞬間を見逃さなかった元使用人たちは、すぐさま頭を下げていた。
 フラヴィオは、今も無礼を働いた者たちのことを全員覚えているのだと、皆確信していた――。

 過去の過ちを、許してほしいなどと言えるはずがない。
 それに、誰も許されるなどと思っていなかった。

 戦場の鬼神が目を光らせる中、患者の暇潰しになればと、共にハンカチに刺繍をしていたメイドに、フラヴィオが歩み寄る。

「素敵な刺繍だね。君が教えているの?」

「っ、は、はいっ。で、ですが……褒められるようなものでは……」

 フラヴィオに声をかけられ、ぱあっと表情が明るくなったメイドだが、顔を伏せた。
 慌てて手の甲を隠したメイドを見つめるフラヴィオは、口元に優しい笑みを浮かべていた。

「奉仕活動をしっかり励んだ賜物だと思うよ」

「っ……」

 あまりに優しい言葉が耳に届き、皆はしばし絶句していた。

 ――どうしても謝りたい。

 許してもらえずとも、反省している姿を見てほしい。
 皆の想いが一致し、ひとりの男が立ち上がる。
 フラヴィオの世話を任され、ベルトランドと共に冷遇していた者だ。

「あ、あのっ!!」

「……無礼者め」

 フラヴィオを呼び止めようとした瞬間、頭上から低い声が発せられる。
 公爵閣下に見下ろされ、全身が金縛りにあったように動かない。
 フラヴィオの肩を抱いた閣下が皆に背を向け、ガクガクと震える元使用人たちは、その場で尻もちをついていた。

 無関係の患者たちも怯えている中、フラヴィオが振り返った。

「ああ。そうか、思い出した。レオーネ伯爵家で雇っていた使用人たちか」

 透き通るような声が、場の空気を変える。
 嫌悪しているようには見えないが、それでも元使用人たちは複雑な心境になっていた。
 かつての雇い主が、使用人全員の顔を覚えていないのも無理はない。
 だが、赤く色付く唇から発せられた言葉に、元使用人たちは息を呑んだ。

「すまない、

 そう言って、フラヴィオはにっこりと
 慈愛に満ちた美しい笑みだった――。



 公爵夫夫が去った後。
 しばらく静寂に包まれていたが、患者のひとりがぽつりと呟く。

「可哀想にねぇ。でも、あんたも忘れられていた方が、お互いのためにもよかったんじゃないかい?」

 己の罪を患者たちに話していた男は、くしゃりと顔を歪めた。

「っ……違うよ、ばあさん。フラヴィオ様は、間違いなく俺たちを覚えていた……。だから、敢えて声をかけてくださったんだ。、と、そう仰ってくださったんだ。謝罪することのできない、俺たちのために……」

「…………そうだったのかい。あたしにはわからなかったよ。心の優しいお方だねぇ」

「っ、ああっ。間違いねぇよっ」


 その日、元使用人全員が使い物にならなかったが、誰ひとりとして咎められることはなかった――。

 















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