100回目の口付けを

ぽんちゃん

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その後

37 敵を一掃する ユーリ

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 愛おしい恋人との触れ合いを思い出している俺は、グレンジャー家に代々受け継がれている宝剣を黙々と磨いていた。

 「やっと正気に戻ったと思ったのに、今度はガチの殺人鬼に見えるのは俺だけか?」
 「ふふふふふ。俺の恋人に性的虐待をした奴らを、一人残らずこの世から抹殺していたところだ。……もちろん、脳内でな? 現実でやったら、俺の可愛い可愛い可愛い恋人が悲しむからな?」
 
 ふっと不敵な笑みを浮かべると、赤髪の親友は頬を引きつらせる。

 「ユーリは僕の優しい王子様でいてね、ってお願いされたからな。俺の可愛い可愛い可愛い恋人に」
 「…………可愛い言いすぎだろ」

 確かに可愛いけど、とぶつぶつ話すナポレオンは、さりげなく俺に剣を仕舞うように鞘を渡してくる。

 「安心しろ。俺達家族が責任持って、社会的に抹消したから」
 「ふん。……俺の手でやりたかった」
 「お前は俺の可愛いヴィーの恋人なんだから、わざわざ手を汚すようなことするな」
 「お前のじゃない。俺の可愛いヴィーだ」
 
 無駄に張り合う俺達は、くつくつと笑い合う。

 「ライオネルは俺にやらせろ」
 「あー、アイツね? 未だにヴィーの髪を大切に保管しているらしいぞ? くんくん匂い嗅ぎながら抜いてんじゃね?」
 「……ぶっ殺すか」
 「殺したいのは山々だけど、ヴィーが悲しむ。親友らしいからな?」

 そしてナポレオンが、調査して纏めて来てくれたであろう書類を見せてくる。

 「お前の睨んだ通り、下級貴族達はあいつに脅されて虐めてたらしい」
 「……大人しそうな顔して性悪だな」
 「見た目も中身も性悪な奴に言われたくないと思う」
 「煩い。だとしても、ヴィーを騙し討ちしようとしていた屑は制裁する」

 ハイハイと肩を竦めるナポレオンは、俺の自由にしたら良いと語る。

 「それから、ディーン・バルトロイは? あいつもお前と同じで本好きでもないくせに、ヴィーに会うために図書館通いしていたらしいな」
 「……俺の可愛すぎる恋人は、生きているだけで罪だ」
 「う、うん、そうだな? でも、あのモテ男が、ライバルの恋人に夢中ってのが笑える」

 自分は関係ないとばかりにけらけらと笑うナポレオンに、じっとりとした目を向ける。

 俺達の同級であるディーン・バルトロイは伯爵家出身だが、見目の良さと巧みな話術でなかなか人気だった。
 もちろん、俺の次にな!

 「ふん。あいつが勝手にライバルだと思っているだけで、俺の視界にすら入っていない。俺の世界には、天使一人しかいないんだからな? これ以上悪い虫が寄ってこないように、俺の部屋に天使を監禁してしまおうか……。我ながら名案だな」
 「いや、愚案だろう」
 「……それなら今すぐに結婚する」
 「物事には順序、ってもんがあるんだよ! お分かり?」
 「ああ、そうか。先に孕ませるか」
 「っ…………話が通じないお前、まじでコワイ」

 真顔の俺にドン引きするナポレオンは、じりじりと後退る。

 「とにかくお前は早く結婚しろ。第二王子のなんちゃらと」
 「メロルノーラだ!」
 「ああ、そうだ。メトロノーム王子」
 「……お前、ヴィー以外に本当興味ないな」

 ない。と断言する俺に、ナポレオンは呆れたようにため息を吐く。

 俺はそんなことより、ヴィーにちょっかいを出す輩を一掃せねばならんのだからな。

 「程々に~」と手を振るナポレオンに軽く頷いた俺は、サンダース侯爵家に向かう。

 自らが買収した下級貴族達に、己を虐めるように指示を出し、ヴィーに同情してもらい、婚約者だと噂を流したライオネル・サンダース侯爵子息を恐か……、コホン。

 優しく諭して、白銀の髪を返却してもらった。

 金輪際、ヴィーとは関わらないように署名させて満足した俺は、次にバルトロイの元へ行く。

 爵位も剣の力量も全て俺に劣る野郎は、憎々しげに俺を睨み付けて唾を吐いて去っていく。

 ふん。あいつは戦うまでもない。
 あいつが性悪だってことを、大好きなヴィーに吹き込んでやろうか、この野郎。

 本来なら人目につかないようにヴィーを隠したいが、これからはいろんなところに一緒に出かけたいと思う俺は、今以上に強くならなければならない。

 俺一人で、全ての悪意からヴィーを守れるようになるために。

 

 そして平和な日常を取り戻した俺は、より一層稽古に力を入れる。

 そんな中、妙に視線を感じることに気付いて、さりげなく周囲を見渡すと、柱の影に白銀の髪がチラついた。
 
 「っ、まさか……」
 「あれで隠れているつもりなんだろうね?」
 「まじで可愛いわぁ~!」
 「だが、こんな悪魔が好きだなんて、趣味が悪すぎるけどな!」
 
 べしべしと先輩達に肩を叩かれた俺は、嬉しすぎてデレッとした顔になる。

 呆れた様子の先輩に「その顔やめろ」と髪をわしゃわしゃと撫でられた瞬間、ヴィーが唇を噛み締めてめちゃくちゃ悲しそうな顔をしていた。

 嘘、嫉妬してるの? 可愛すぎるんですけど。

 内心むふふとニヤける俺は、何事もなかったように稽古を終える。

 すると、今来ました風を装うヴィーが、とことこと俺の元に歩み寄って、俺の服の裾を可愛らしくちょこんと掴む。

 もちろん俺も、ヴィーが隠れて俺を見ていたことには気づかないフリをして、喜びの声をあげる。

 「ヴィー! 迎えに来てくれたのか?」
 「……うん」

 むっと口を尖らずヴィーが可愛すぎて、思わずその場で口付ける。

 すると、すぐに顔を赤らめたヴィーは、そわそわと視線を彷徨わせながら、嬉しそうにふわりと微笑んだ。

 「ぐはっ」
 「やば、可愛いの極みっ!」
 「あいつだけズルイズルイズルイ」
 「天使と悪魔やん……」

 雑音を聞かせないようにヴィーの耳を塞いだ俺は、今日も愛おしい恋人とイチャイチャするために、天使の部屋に入り浸るのだった。

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