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しおりを挟む超特急で洗濯を終えた僕は、厨房に向かう。
なんとか昼食前には間に合ったけど、厨房はすでに戦場になっていた。
マルコさんが抜けて人手が足りないからか、ピリピリした空気が漂っている。
「おい、酒が届いたぞ! 早く運べ!」
「は、はいっ!」
強面の料理長が怒鳴り声を上げる。
料理長のジョージさんは人使いが荒いから、みんなビクビクしている。
指示を出された中年の料理人が、足を引きずっていることに気付いた僕は、待ったをかけた。
「あ、あの。僕が行ってきます」
「っ……で、でも」
自身よりひょろい僕の全身を見たランスさんは、いやいや無理だろうって顔に書いてある。
任せて欲しいと声をかけた僕は、無駄話をして料理長に怒られる前に外へ飛び出した。
「あれっ、ノエルちゃんッ! 今日は厨房担当なんだぁ~」
大きな目を見開いた若者が、僕に飛びついた。
ワインレッドの髪がかっこいいサイモンさん。
嫌がる僕を見て、へらへらと笑っているけど、これでも有名な酒屋の跡取り息子だ。
樽を運ぶ僕の後をついてきて、ぺちゃくちゃとお喋りをしている。
人との距離感が近すぎるだけで悪気はないのだから、僕は諦めてサイモンさんの気が済むまでちょっかいをかけられていた。
料理長に見つかったら怒られるから、本当は仕事中に話しかけないで欲しいんだけど、契約を切られたら不味いから、僕は笑みを作る。
「なぁなぁ、ノエルちゃん。こんなところより、俺の店で働こうぜ? 今なら、第一夫人にしてあげるよ?」
「第一夫人って……。一体何人と結婚するつもりですか?」
「うッ♡ そうそう、その目!」
軽蔑した目で見ているのに、見えない尻尾をフリフリとして喜ぶサイモンさんは、ちょっとおかしな人だと思う。
「遅い。ノエルは外に出るな」
「っ、は、はい。すみませんでした」
案の定、料理長に怒られてしまった僕は、『またねぇ~!』と笑顔で手を振るサイモンさんに会釈をして、すごすごと食器洗いに向かう。
その後は給仕が間に合わなくて、料理が冷めてしまい、怒鳴り続ける料理長の血管が切れそうだ。
でもみんなは一生懸命働いている。
若い頃はテキパキと働けたとしても、年齢を重ねるとやはり動きは鈍ってしまうと思う。
こっそりと魔法で料理を温め直して、給仕の人に渡すと、戦々恐々としながらも受け取ってくれた。
どうしてか僕を怖がっているアーサーさんには申し訳ないけど、待たせているお客さんのために我慢してもらうことにした。
重労働を自ら買って出ているけど、なにより、息を殺して働くのは精神的にも辛い。
ポケットに手を突っ込んだ僕は、小さな瓶を握りしめる。
新たな宝物に触れる僕は、なんとか頑張れそうだと、口許を綻ばせた。
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