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第三章
27 突然の告白
しおりを挟む「あのお方から、わたくしたちのことを、聞いていらっしゃらなかったのですか……?」
ニメリア様の震える声は、緊張をはらんでいた。
三人の顔を見れず、僕は膝の上で握ったこぶしを見つめながら頷く。
隣からは、ヒュッと息を呑む音がした。
(レオルカ様は、僕以外にも伴侶がいることを、どうして話してくれなかったんだろう……)
普通なら、まず最初に話すべき事柄ではないだろうか。
それをしなかったということは、僕に知られると、なにか都合の悪いことでもあるのかもしれない。
だってセラフィナ様を含めた四人は、出会う前から僕のことを知っているようだった。
――僕だけが、知らされていなかった……。
「あ、雨……」
ぽつ、ぽつ、と肩に冷たい粒を感じる。
小雨が降ってきたらしい。
本邸から来た使用人たちがおろおろしている中、雨粒に濡れていくカップケーキをぼんやりと見つめる。
(……なんで? どうして?)
大切なことを、僕だけが教えらえていなかったことが悲しくて、なかなか立ち上がれない。
僕が動かないからか、三人の美女もここから離れようとはせず、席を片付けようと集まった使用人たちもどうしたらいいかわからずに困っているようだった。
「セティッ!!!!」
迷惑をかけて申し訳ないと思っていると、聞き慣れた声が響く。
顔を上げれば、鬼気迫る表情のレオルカ様が、僕のもとへ走ってきていた。
――仮面もつけずに……。
集まっていた使用人たちが、蜘蛛の巣を散らすように逃げていく。
でも、僕は雨に濡れることも気にせず、まっすぐに僕のもとへ走ってくる人から目を逸らせなかった。
「セティッ!! ダメじゃないか、外に出たら……っ」
息を切らすレオルカ様に、ぐっと肩を掴まれる。
こんな時でもきらきら輝く夜空色の瞳は、いつもふたりでいる時のように、僕しか見えていなかった。
「セティになにかあったらと思うと、私は生きた心地がしなかった……っ」
「――約束を破ってしまってごめんなさいっ。でも、ギルミアさんが、怪我をして……。助けられるのは、レオルカ様しかいないって思って……」
「っ、それで本邸に来たのか、私を探して――」
三人の美女のことは眼中にない様子で、「だが、外は危険なんだ」と話すレオルカ様からは、確かに僕を大切に想ってくれていることが伝わってくる。
でも、レオルカ様には他にも伴侶がいるという話を聞いた後では、僕はうまく笑うことができなかった。
「セティ……?」
一歩後退し、僕はレオルカ様から距離を取る。
(なんで内緒にされていたのかはわからないけど、僕は五番目の妻で、レオルカ様はみんなの旦那様ということだけは、事実だ)
つまり、レオルカ様は僕が独占していい相手ではない、ということになる。
――人前では、適切な距離感を保つべきだ。
僕の態度がいつもと違うからか、ようやく美女三人の存在に気付いた様子のレオルカ様の目付きが鋭く変わった。
「――セティになにをした?」
地を這うような声を出すレオルカ様は、まるで別人のように恐ろしい形相で、三人の美女を見下ろす。
「ヒィッッ!!」
ガタガタと震えるロウェナ様が、椅子から転げ落ちるように地に伏した。
突然の行動にびっくりしたけど、かつて僕が土下座した時のように、レオルカ様がさらっと立たせてくれるだろう。
そう思っていたのに、レオルカ様はロウェナ様を冷たい目で見下ろしたままだった。
「ごごごごごめんなさいっ、あたしのせいっ、あたしのせい、なんですっ」
「ロウェナ様っ!?」
異様なまでに怯える姿が痛々しい。
慌ててロウェナ様に駆け寄ろうとしたけれど、レオルカ様に腕を掴まれてしまう。
まるで余計なことをするなとでも言われているかのようで、僕は驚きを隠せない。
「あたしが、セティとなかよくなりたくてっ……。こんなあたしを見ても、笑ってくれたからっ、だからっ、でも、なにも知らなくて……っ、ゴホッ、ゲホッ」
言葉がまとまっておらず、明らかに様子がおかしい。
そのことに気付いているはずのメリサンド様とニメリア様は、目を伏せたまま身動きひとつしなかった。
「っ、ロウェナ様っ!」
腕を掴まれたまま、ロウェナ様に手を伸ばす。
しかし、その手は空を切った。
レオルカ様は険しい顔のまま「……もういい。部屋に連れて行け」と、ふたりに命令する。
まるで、僕たちが交流することを嫌がっているかのようだった。
「わかっていると思うが、余計なことはするな」
レオルカ様が冷たく言い放ち、メリサンド様とニメリア様が揃って頭を下げた。
ふたりもまた、レオルカ様に怯え切っていて、僕は戸惑いを隠しきれない。
そのまま手を引かれて、後ろ髪を引かれる思いで馬車に乗り込む。
(ロウェナ様、大丈夫かな……? お二人の様子もおかしかったし、結局、セラフィナ様にも挨拶できなかった……)
馬車の中は、とても静かだった。
なんとなくレオルカ様と話す気になれず、互いに一言も話さなかった。
邸に着けば、扉に厳重に鍵をかけるレオルカ様が振り返り、口火を切る。
「セティ、なにがあった? あの者たちに、なにを言われた?」
「…………」
心配しているそぶりを見せるレオルカ様だったけれど、焦っているようにも感じた。
なんで他にも伴侶がいることを教えてくれなかったのか。
他の人たちとも、抱き合ったり、口付けをしているのか。
聞きたいことはたくさんあった。
でも、なかなか言葉にすることはできずに距離を置こうとすると、レオルカに無理やり抱きしめられる。
「離れないでほしい、好きなんだ……」
「っ、」
突然の告白に、ドクンッと心臓が音を立てる。
嬉しいのに悲しくて、熱いものが頬を伝う。
もし、レオルカ様に僕以外の伴侶がいることを知らない状況だったなら、僕は大喜びで、僕も好きだと答えていただろう。
でも真実を知った今は、心の中がぐちゃぐちゃで、同じ気持ちだとは言えなかった――。
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