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第三章
32 水やり
しおりを挟む少し肌寒い朝の薬園にて。
状態の良い薬草を熱心に見つめるレオルカ様の端正な横顔を、僕はこっそりと盗み見る。
「やはり、セティが育てた薬草の方が、明らかに育ちがいいな」
「そ、そんなことはないと思いますけど……」
セティに任せて正解だったと真剣に語るレオルカ様の隣で、僕は喜びを噛み締める。
(誰が育ててもきっと同じなのに……。レオルカ様は、本当に僕に甘いと思う)
特別な一夜を過ごしてから、僕たちの生活は変わっていた。
少しでもレオルカ様の役に立ちたいと思い、僕はレオルカ様に頼み込んで、薬草のことを教えてもらい、水やりなどの簡単なお世話をさせてもらえることになったのだ。
最初は『セティは私のそばにいてくれるだけでいいんだよ』と話していたレオルカ様だけど、僕の熱意が伝わったのか、三ヶ月もすれば、薬園の一部を任せてもらえるまでになっていた。
「セティには、薬草を育てる才能があるな」
「い、いえ、僕はただ、レオルカ様に教わったことをそのまま実践しただけで……」
薬草の水やりは、毎日たくさん水をあげればいいわけではなく、品種によって異なるため、注意が必要になる。
だけど、一度覚えてしまえば、誰にでもできることだと思う。
でも、「そんな単純なことではないんだが……」と、レオルカ様は肩をすくめた。
「私が初めて育てた時は、こうはいかなかった。セティが丹精込めて育てたからこそ、こんなに立派に育ったんだ」
「そう、でしょうか……」
自信を持っていいと言われて、僕は小さく頷いた。
僕の役目は、水やりの他に、葉に悪い虫がいないか、異常がないかをチェックすること。
そんなに難しいことじゃない。
それなのに、レオルカ様はいつも大袈裟なくらいに褒めてくれるんだ。
五番目だろうと、レオルカ様の妻として認められているようで、僕は嬉しくてたまらなかった。
「レオルカ様のお役に立てているのなら、嬉しいですっ」
「……セティ」
「わっ」
うっとりと僕の名を呼んだレオルカ様に、力強く抱き寄せられる。
僕の屋敷の二階の窓からこちらを覗き見しているギルミアさんや、護衛として近くにいるエルサリオン隊長たちの存在に気付いているのに、レオルカ様は堂々と僕に触れる。
その男らしい仕草に、毎日のようにドキドキさせられて、僕はたじたじだった。
「は、早くお仕事に行かなくて大丈夫ですか?」
「ああ。だが、もう少しだけ……」
離れたくないとばかりに甘えるレオルカ様が可愛くて、僕もぎゅっと抱きついた。
夕方に僕の屋敷を訪れるようになったレオルカ様とは、夕飯を共にし、同じ寝台で朝を迎えている。
朝食を摂った後は、手を繋いで薬園に向かい、薬草のお世話をする。
それから他のお仕事があるレオルカ様とは別れて、僕は屋敷で薬草の本を読んで過ごしていると、あっという間に夕方になり、レオルカ様との食事の時間だ。
ここ三ヶ月、レオルカ様が毎日のように僕に会いに来てくれ、とても充実した日々を送っていた。
でも、会えない日もある。
お仕事だとわかっているけれど、夜は他の夫人たちのもとへ行ってほしくなくて、僕はずるいお願いを口にする。
「――今日も、レオルカ様のお帰りを、待っていていいですか?」
「っ…………」
言外にまた夜に会いたいと告げれば、レオルカ様は夜空色の瞳を見開いた。
心が狭いと思われるかもしれないけど、僕はレオルカ様を独り占めしていることに心から安堵していた。
なにせ、レオルカ様と少し深い関係になった今、レオルカ様が他の夫人たちとも同じことをするんじゃないかと、気が気ではなかったのだ。
「図々しいお願いだということは、承知しています。でも僕、レオルカ様が隣にいてくれないと、眠れなくなってしまって……」
「~~~~ッ!! わかった。今日は、ずっとセティといることにした」
恥を忍んでお願いすると、レオルカ様が満面の笑みで仕事を放棄すると宣言した。
今から平然と屋敷に戻ろうとするレオルカ様に、逆に僕は慌てふためく。
「……えっ!? そ、それはダメなんじゃ……?」
(これじゃあ僕は、悪妻、じゃないかっ!?)
慌てる僕とは対照的に、幸せそうなレオルカ様と、コツンと額を合わせる。
「――セティの愛らしさを前にしたら、もうなにもかもがどうでもよくなる」
「っ、うっ……。かっこよすぎて無理ぃ」
「…………」
元々、超絶美形であるレオルカ様の笑った顔は、破壊力抜群なんだ。
それを間近で見てしまった僕は、顔が火照るのが止められなかった。
そんな僕の反応を見ていたレオルカ様は、「そんなことを言ってくれるのはセティだけだよ」と、恥ずかしそうに金色の前髪に触れる。
(こんなに素敵な人なのに、なんて謙虚なんだ……)
レオルカ様は、自身が超絶美形だという自覚がまったくなかった。
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