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第二章
32 高潔なる一族
しおりを挟む第一騎士団入隊が確定しているギルバート様だが、『他の強者も見てみたいから』と、一緒に見学を続けている。
今日は、第二騎士団を見学する予定だったのだが、来て早々に、別名『高潔なる一族』と呼ばれる面々に取り囲まれている。
昨日は第一騎士団の方々にフルシカトされたのに、本日は違った意味で囲まれてしまい、げんなりとする俺。
屈強な騎士というより、高貴な貴族のような見た目の彼らは、蔑むような目で俺を見下ろしている。
無言の圧に耐えきれないのだが、他の生徒たちは遠巻きに見ているだけで動こうとはしない。
むしろ、第二騎士団員たちの味方であるような雰囲気だ。
そこへ遅れてやって来た赤紫色の髪の美青年が「おやおや」と呑気な声を出して、俺の前に歩み寄る。
その歩き方もまた優雅で、高位貴族のようだ。
「これはこれは。勇者ガリレオ殿の御子息であり、勇者セオドア様の義理のお兄様ではありませんか」
勇者、勇者と挑発するように繰り返す彼は、第二騎士団団長のマクシミリアン・フォスナー様。
長い髪を編み込んで横に流している彼は、品の良い顔立ちだ。
優しく微笑んでいるが、俺を歓迎していないことは目を見たらすぐにわかった。
「もしや、勇者セオドア様の第二騎士団団長就任のご挨拶に来て下さったのですか?」
こてりと首を傾げる二十代の若者を前に、俺は驚きを隠せない。
「テ……セオドアが、ですか」
「ふふっ、ええ。光栄なことに。私は副団長として、勇者様をお支えすることになります」
降格したことに対する嫌味なのかと思ったが、溢れんばかりの喜びが表情に出ている。
「聞いていらっしゃらないようにお見受けしましたが。やはり兄弟仲があまり宜しくないようで」
彼がくすりと妖艶に笑えば、周りの騎士たちも嘲笑い始める。
別に勘違いをされていることは仕方ないが、何も知らないくせに人を馬鹿にした態度を取る彼らを、高潔なる一族だとネーミングした奴のセンスを疑う。
こんな嫌味ったらしい奴らがセオドアに何かしたら、と想像しただけで腹わたが煮えくり返る。
きっと勇者信者なのだろうから、その可能性は低いが、警戒するように無愛想な面のまま睨み返す。
「心中お察しいたしますよ? 私も優秀な従兄弟がおりましてね。確か、貴方と同級のランドルフ・ユリノクト。死にかけていたくせに……全く、太々しい男です」
ランドルフ様の従兄弟と名乗ったくせに、太々しいと言い放った彼に、冷静になりたいのにカッと頭に血が上る。
大きく深呼吸をして、微笑む副団長を見据えた。
「彼の高潔なるランドルフ・ユリノクト侯爵子息の親戚のお方とは露知らず、無礼な態度をとってしまい、申し訳ありませんでした。ラルフ様には大変お世話になっております」
ラルフと呟く副団長様は、俺とランドルフ様が友人であることに驚いたのか、細い眉がひくりと持ち上がる。
「俺とセオドアは血の繋がりがないので全く似ていませんが……。副団長様も、次期宰相殿とはあまり似ていらっしゃらないのですね。全く気付きませんでした」
「なっ……」
お前に高潔さは微塵もねぇよ、とぶっかましてやると、第二騎士団員たちが殺気立つ。
「血の繋がりが薄いようですね……。心中お察し申し上げます」
憂い顔で、こてりと首を傾げてやる。
つかみかからんばかりの勢いで罵詈雑言を吐く周囲の騎士達は、やはり高潔なる一族とは言い難い。
そんな彼らを無視する俺は、ランドルフ様を罵倒した副団長から視線を逸らさない。
「これだから平民上がりは……」
忌々しげに選民思想な発言を呟く副団長様は、綺麗なお顔を歪めている。
「マクシミリアン様! この無礼者に礼儀を教えてやりましょう! 私にやらせてください!」
「そうです! 二度と口を開けないように、私が躾けます!」
「マクシミリアン様っ!!」
やいやいと言い始めた鬼の形相の第二騎士団の面々は、副団長様の指示を仰ぐ。
くだらないとばかりに欠伸をかましたギルバート様が、俺の肩を抱いた。
「まあまあ、そんな怒らないであげてよ。イヴは小さな勇者様のお兄ちゃんだよ?」
「だから何だと言うのだ!!」
「ククッ、俺はちゃーんと忠告したからね?」
「はあ?!」
イライラを隠しきれない様子の第二騎士団員たちは、にたりと笑うギルバート様に噛み付く。
隣国の王族だと知らないからといって、横柄な態度を取る彼らに呆れ果てる。
「彼を誰だと、」
「いいよ、イヴ」
素性を隠したい様子のギルバート様に遮られて、静かに口を閉じた。
「この国で俺のライバルは、勇者セオドアと、エリオット・ロズウェルだけだってことがわかったからね?」
「…………そうですか。でも、なぜセオドア?」
「そりゃ、俺より強いから」
「え?」
「あ……」
視線を彷徨わせるギルバート様は、へらりと誤魔化すように笑った。
「ははは、冗談冗談! セオドアより俺の方が強いに決まってるでしょ?!」
「そうでしょうね?」
「うんうん。さ、もうここには用はないから帰ろうね~!」
何かを隠している様子のギルバート様は、深紅の髪を振り乱しながら俺の体をグイグイと押す。
ちらりと副団長様を見れば、俺たちの会話からギルバート様の身分を察したのか、俺が挨拶もなしに帰ろうとしても口を開くことはなかった。
「くれぐれもイヴの悪口は言わないようにね。早死にしたいなら別だけど」
ククッと軽やかに笑ったギルバート様は、怪訝な顔の第二騎士団員たちに元気良く手を振っていた――。
俺のせいで第二騎士団の見学を出来ずに帰宅することになって、申し訳なく思い謝罪すると、ギルバート様は全く気にしていなかった。
「見たらだいたい強さはわかるけど、アイツらはそんな強くない。むしろ平凡だね。だからこそ、勇者様が騎士団長に選ばれたんだよ。そうじゃないと、他の部隊と釣り合いが取れないんだろうね」
「なるほど。でも、セオドアはまだ真剣を握ったばかりなのに……。大丈夫なのかな……」
「確実に大丈夫だと断言出来る」
ズバリと言い切るギルバート様に、こっそりと溜息を漏らす。
「俺の可愛いテディーが怪我したらどうしよう」
「…………今、なんて?」
「へ? いえ、なんでもありません」
危ない。セオドアが第二騎士団の団長になることが衝撃的すぎて、ブラコン全開で呟いていた。
やはり卒業後は第二騎士団の救護班かな、と考えたが、マクシミリアン副団長の顔を思い出して、ぶるりと体を震わせる。
セオドアを救護する前に、俺が殺されそうだ。
その後、俺を気遣ってくれるギルバート様と寄り道をして、王族御用達の喫茶店で美味しいケーキをご馳走になった。
マスカット盛り盛りのケーキに目を輝かせてしまう俺に、ギルバート様はあーんをし始める。
やけにベタベタとくっついてくるな、と思っていた俺は、隣の個室から覗き見ていた金髪碧眼の王子様が、ハンカチを口に咥えて絶叫していることに全く気付かずに、笑顔でケーキを頬張っていた。
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