俺の婚約者は、頭の中がお花畑

ぽんちゃん

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3 いざ、浮気相手の職場へ

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 翌日、オリバーが意気揚々と俺を迎えにきて、ルカとオリバーの侍従のネイソンを伴い、四人でマイキーの働く食堂に向かった。

「それでな、マイキーは……」

 馬車の中でも昨日と同じようにマイキーの良いところを話すオリバーに、にこにこと相槌を打っていると、ネイソンが苦笑いを浮かべていた。

 心配そうに俺を見ているネイソンは、俺の気持ちを落ち着かせてくれるような濃紺色の髪に、切れ長の目の男前。

 二十歳になって益々良い男になり、幼い頃から俺達を見守ってくれる優しい彼は、オリバーなんかよりずっと好ましい。

 俺は大丈夫だよ、と意を込めてウィンクすると、ネイソンがぽっと頬を染める。

「っ……エレン様!」

 焦りを滲ませる小声のルカから、脇腹に肘打ちをくらって小さく唸る。

 口をへの字にさせるルカとアイコンタクトを送り合って、オリバーの演説を聞き流していると、目的地に着いたようだ。

「あっ! オリー!」

 こじんまりとした食堂の店内に入れば、いち早く親げに名前を呼んだ茶髪に同じ色の瞳の少年は、勢い良くオリバーの胸に飛び込んだ。

 にかっと歯を見せて笑う少年は、地味な見た目だが、小動物のように愛らしい仕草だ。

 小動物同士、お似合いである。

「マイキーっ! 会いたかったよっ!」
「オリーが昨日来てくれなかったから、マイキー寂しかったのぉ!」

 細い体でぎゅっと抱きつくマイキーに、鼻の下を伸ばすオリバー。

 自分のことを名前で呼ぶ幼稚な印象の少年は、俺の苦手な大蒜にんにくのような鼻が特徴的だ。

 オリバーの好きなタイプは、俺とはまるで正反対な子だったんだな、と軽く頷いた。

「そうそう、今日は友達も連れてきたんだ。親友のエレンと、彼の侍従のルカだよ」
「エレン……って、あれ? オリーの婚約者じゃなかった?!」
「ふふっ、もう違うよ」
「え! もしかして……」
「愛するマイキーと結婚したいからね?」
「っ! オリーっ!! 嬉しいっ!!」

 デレ顔のオリバーがマイキーを抱き上げて、その場でくるくると回り始める。

 なぜか二人の恋愛劇が始まり、俺達三人は呆然とその光景を眺めていた。

 食堂に来ていたお客さん達は「結婚」の言葉と盛り上がる二人に、訳も分かぬまま拍手をする。

 書面上ではまだ婚約者なのだが、と内心呆れる俺の隣に立つルカは、不機嫌そうに大きな目を細める。

「もう帰っても宜しいですか?」
「ルカ、待ってくれ。まだ劇の途中だ」
「劇って……」
「むしろ、今始まったばかりだ。最後まで見ていこう?」

 青筋を立てるルカとコソコソと話していると、ようやく恋愛劇を終えたマイキーが、俺達の方に目を向けた。

「エレン、さん。本当にすみません。僕がオリーを好きになってしまったばっかりに……」

 口では謝罪はしているけど、勝ち誇ったような挑発的な目をしていた。

「いえ、お気になさらず。俺とオリバーはずっと友人関係でしたから」
「小さな頃からこんなに素敵なオリーと過ごしていたのに、ずっと友達だったなんて……」
 

 ――なんだか可哀想。


 俺にだけ聞こえるような小さな声が耳に届く。

 つかみかからんばかりの気配のルカの手首をぎゅっと握り、手綱を締めた俺は、他所行きの微笑みを見せる。

「お二人が幸せな結婚を出来る様に、俺も協力しようと思いまして」
「え?! エレンさんって、実は良い人……?」
 
 実は良い人、の意味がわからないが、俺はにこりと笑ってみせた。

「ごめんなさい。てっきり僕達の仲に嫉妬して、怒っていると思っていたんです……」

 急にしおらしくなったマイキーは、俺を敵だと認識していたようだ。

「エレンが嫉妬なんてするわけないだろう? 俺たちは親友なんだから!」
 
 マイキーの細い腰に手を回したオリバーが、自信満々に答える。

 そんなオリバーにしなだれかかるマイキーは、恍惚とした表情でオリバーを見つめていた。

「今日は、マイキーさんがどんな方なのか知りたくてお邪魔したんです」
「……本当かなあ? 僕を油断させるつもり?」
 
 怪訝な顔をするマイキーは、オリバーよりずっと賢そうだ。

 お馬鹿っぽいのはもしかしたら演技なのかもしれない。

 ……これは油断ならない。

 ズル賢そうなマイキーを前にして姿勢を正す俺は、柔らかく微笑んだ。

「オリバーのお父様が、お二人の結婚を反対する可能性がありますので、俺がお二人を応援するつもりですよ」
 
 俺の真意をはかるためか、じっと目を見つめてくるマイキー。

 ……ちょっと面倒臭い。

 マイキーも頭の中がお花畑だと思っていたが、そうでもないらしい。

 これはもしかすると、オリバーの財産目当ての可能性が出てきた。

 それはそれで…………面白い。

「俺はお二人の味方です」

 安心するように笑みを浮かべると、俺を警戒しながらもマイキーは頷くのだった。















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