俺の婚約者は、頭の中がお花畑

ぽんちゃん

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2 父に報告

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 それからオリバーに、浮気相手のマイキーの良いところを散々聞かされ続けた俺は、無理矢理持ち上げていた両頬が悲鳴を上げていた。

 精神的にも肉体的にもダメージを受け、引き攣る頬を労わりながら、帰りの馬車の中でぐったりと横たわる。

 婚約を解消してもなお、あの男に振り回されるなんて、本当に最悪な気分だ。

 だが、俺がオリバーを嫌いになれないのには理由がある。

 仕方がないので、オリバーとマイキーが真実の愛を貫くためのお手伝いをすることに決めた俺は、早々に父に報告することにした。

 フラフラになりながら馬車を降り、邸に戻った俺は、その足で父が仕事をしているであろう執務室に真っ直ぐに向かった。

 コンコンと軽くノックをすれば、すぐさま「入れ」とイケボが響く。

 扉を開ければ、手入れが行き届いた艶々な金髪に、翡翠色の瞳の美丈夫が、ペンを動かしていた手を止める。

「父上。お仕事中に申し訳ありません。オリバーとの婚約を解消したいのですが」

 俺の父であるブラッド侯爵家当主、エドワード・ブラッドは「そうか」と、短く返答した。

 常に無表情だが、その魅惑的なお顔は父の見目の良さを更に引き立てている。

「理由は?」
「オリバーが真実の愛に目覚めたそうで」
 
 フッと鼻で笑った父は、了承の意を込めて頷いてくれた。

 元々この婚約は、俺の父とオリバーの父が昔からの友人で、どうせなら二人の子供を結婚させようと酒の席で交わしたものが実現しただけ。

 政略結婚でもなんでもない。

 安心して微笑んだ俺は、さっそく本題に入る。

「ありがとうございます。それで俺の次の婚約は、少し待っていただきたいのです」
「なぜだ? お前ならいくらでも相手が見つかるだろうに」

 そう。父の贔屓目なしにも、俺は一度傷物になったところで、俺と婚約したいと願い出る相手は山ほど居る。

 父の良いところばかりを受け継いだ俺は、目尻の黒子がチャームポイントの、品がある綺麗系美青年だ。

 容姿だけで言えば、俺の右に出るものはいないと噂されるほど、整った顔立ちをしている。

 それに加えて、腐るほど資産があり、リーベロスト王国に四つしかない侯爵家の一人息子。

 要は、金も権力もある。
 俺を求める人間は、ごまんといるのだ。

「ふふっ、野暮用がありまして。あ、それから婚約解消の件は、しばらく内密にお願いします」
「はあ。どうせまたオリバーが頭のおかしなことを言って、お前を振り回しているのだろう?」
「さすがは俺の自慢のお父様!」
「……揶揄うな」

 片方の口角を上げた父は、もうすぐ四十とは思えないほどの美しいお顔だ。

「まあ、誰が相手でも、私はお前を応援するぞ」
「男に二言はありませんね?」
「……なんだか嫌な予感がするのは私だけか?」

 わざとらしく体を震わせる父に、うっそりと笑みを深める俺は、父の真似をして口角を上げた。

 昔は厳しくて大嫌いだったが、全ては俺のためだったと大人になってから気が付いた。

 それからの親子関係は良好だ。

 面倒臭そうにしているけど、今もこうやって甘やかしてくれるのだから、父上も俺のことが大好きだって知ってるんだからな?

 さっさと野暮用を済ませて幸せになれよ、とぶっきらぼうに告げる父に、俺は満面の笑みを向けて頷くのだった。

 



 自室に戻ると、遠い異国にのみ咲く『桜』という珍しい花のような、淡い桃色の瞳が愛らしい侍従が俺の帰りを待っていた。

「ルカっ! やったぞ!」
「っ! お見事です、エレン様っ!」

 ガバッと抱き合った俺達は、堪えきれずに廊下まで響くほどの大音量で高笑いをした。

 一頻り笑ってから、ルカが俺のすさんだ心を癒すような美味しい紅茶を入れてくれる。

 二つ歳下で十六になったばかりのルカは、子供のころから兄弟のように一緒に過ごしてきた、俺の

 楽しい時も辛い時も、いつもそばで俺を支えてくれた、かけがえのない存在だ。

 ふわふわな桜色の髪がキュートなルカは、テキパキと自身の紅茶も用意して、いつものように俺の対面に腰掛ける。

「しかし、あのボンクラが先に行動を起こしてくれてよかったですね?」
「ああ、これであの人の弱みを握った!」
「ふふっ。弱みだなんて恐ろしい……っ」

 口許に手を当てて、わざとらしく上品な仕草をするルカに、俺の口角はグッと持ち上がる。

 ふふふと二人で妖艶な笑い声を上げ、ようやく落ち着きを取り戻した俺は、両手を組んで己の額に押し当てる。

「これでようやくあの人にアタックできる」
「エレン様。決して彼の方の前でそのような顔をしてはいけませんよ? 悲壮感たっぷりでお願いします。エレン様が可愛いお顔で涙を見せれば、彼の方もイチコロです」
「そうだと良いんだけど……」

 組んでいた手をだらしなくぶら下げた俺は、自信がない、とため息を吐く。

 見ているだけで癒される垂れ目の侍従は、食べようとしていた好物の焼き菓子を放り出して、強張っていた俺の肩を優しくマッサージしてくれる。

「絶世の美青年からのアピールに心が動かない人間なんていませんよ。いるとしたらアレがついていないんじゃないですか?」
「ルカってば、はしたないこと言わないの!」

 悪びれる様子もないルカに、じっとりとした目を向ける俺だが、こうしていつもルカが励ましてくれるおかげで、俺は今の今まで心を折れずに生きてこられた。

「まずはマイキーとかいう食堂の子の情報を片っ端から集めて、オリバーと無理矢理にでも結婚させるぞ!」
「はあ……めんどくさっ。エレン様がわざわざそんなことをしなくても、二人は勝手にくっつくんじゃないですか?」
「あのバカ、まだわかっていないんだよ。俺を捨てて平民の子と結婚すると、自分がどうなるかってことを。それがわかる前にさっさとくっつけてしまいたい」
「ふふっ、ざまあ!」

 ぱっちりお目目のルカは、可愛い顔に似合わず相変わらず口が悪い。

 それでもルカの悪態おかげで、俺の心は軽くなるのだから、感謝してもしきれない。
















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