俺の婚約者は、頭の中がお花畑

ぽんちゃん

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その後 反省した者

25 気付く オリバー

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「あ! えっと、ビス……、ジョン様! お久しぶりです!」

 以前、エレンに強制的に夜会巡りさせられていた時に紹介された真紅の髪の美丈夫を見つけて、喜びで声を掛けていた。

 そんな俺に目の前の美丈夫は、不愉快極まりないとばかりに顔を顰める。

 エレンといる時にこんな態度を取られたことがなかった俺は、背中に冷や汗が流れた。

「ビスマール伯爵家です。それにジョンではなく、ジョーイです。さすがに相手の家名と名前くらいは覚えた方が良いかと。では」

 冷え切った声で咎める視線を送られた俺は、華やかなパーティー会場の中で一人立ち尽くしていた。

 蔑むような視線に、周囲からの嘲笑う声。

 それに耐えきれなくて、テラスへと逃げ出した。

 

 エレンといるときは、向こうから嬉しそうに話し掛けて来て、俺達と話したいからと近くでウロウロする令息達に呆れていたというのに。

 今は、俺を遠巻きに見ながらコソコソと内緒話をして、近寄ろうものなら話しかけてくるなとばかりに視線を逸らされる。

「こんな状態で、どうやって婚約者を見つけたら良いんだよ……」

 冷たい夜風が頬を撫でて、盛大に溜息を吐く。

 逃げ出す癖は相変わらずで、だけど俺は絶対に婚約者を探さないといけない。

 それを教えてくれたのは、鬱陶しいと思っていた令息達の噂話。

 ブラッド侯爵家に嫁ぐ未来が確定していたからこそ、俺は呑気に遊んで過ごせていただけ。

 クリストフ侯爵家の次男だから、兄がいる限りクリストフ家は継げないし、誰かしらの婚約者にならないと、家のお荷物になる。

 そんなことすら知らなかった。
 
 優秀なエレンがいなければ、礼儀を知らない俺はただの屑で、いくらクリストフ侯爵家の一員だったとしても、誰も婚約者として迎え入れてはくれない。
 
 厄介事を起こすのが目に見えているから。

 何の苦労もせず自由に生きてこられたのは、全てエレンの頑張りのおかげだった――。


 
「エレン……」

 俺が何かする度に注意してくるエレンがうざったいと思っていたけど、俺が間違っていたから注意をしてくれていただけで、全ては俺の為だった。

 今は俺が粗相をしても、笑われるだけで誰も注意してくれない。

 エレンを失って、初めてエレンの大切さに気付いた。

 いや、失ったんじゃない。
 自ら手放したんだ――。



 そんな俺を、間抜けだと噂する奴はいない。

 なぜなら、父上と婚約したエレンが、俺が身を引いてくれたと周囲に触れ回っているからだ。

『オリバーを捨てて、彼の父のレオンハルト様を好きになった自分が悪いから、オリバーが非常識な行いをしても許してやって欲しい』

 と。

 全くの逆。
 俺がエレンを捨てたんだ。

 それなのに、俺はエレンの婚約者ではなくなっても、エレンに守られ続けている。

 身分も資産も美貌も教養も……全てを兼ね備えているエレンは雲の上の存在であり、社交界では『黄金の妖精姫』と呼ばれていること。

 本当はエレンの婚約者になりたいと願い、慕っている者がたくさんいること。

 その座に当たり前のように収まっていた俺は、なにも知らなかった。

 そんなエレンを捨てて、平民の尻軽と結婚しようとしていたことが噂になっていたなら、俺はすでに社交界から締め出されていただろう。

 もうすべてが遅いのだけど、ようやく分かった。



 でも、一つ気になることがある。

 なぜエレンは父上と婚約したのだろうか?

 確かに二人は仲が良かったけど、親子以上ではなかったはずだ。

 ……もしかして、エレンは俺を待っている?

 俺が今までのことを反省して、しっかりと教養を身につけたら、再度婚約者として迎えに来てくれるのかもしれない。
 
 そうじゃないと、エレンを蔑ろにしてきた俺を擁護するような発言をする意味がわからない。

 エレンの隣に立っても恥じない男になれば、また婚約者に戻れるのかもしれない。

 だから、父上がエレンの防波堤になってくれたのか。


「今度こそ間違えない。必ず良い男になって戻ってくるから。待っててくれ、エレン!」

 
 俺はパーティー会場を飛び出して、貴族名鑑を用意して、顔と家名と名前を覚える。

 寝たらすぐに忘れてしまうけど、諦めない。

 黙々と机に向かっていると、ネイソンも一緒になって覚えてくれた。

「オルヴィス伯爵家ロベルト様!」
「正解っ! オリバー様、やりましたね!」
「ハッ。イケメンだから、覚えやすかっただけじゃないですか?」
「……なるほど。ルカは、ロベルト様のような人がタイプなんですね?」
「っ、ち、ち、違いますっ! 私は、ネイソンさんが……好き。ですっ」

 目の前で、ネイソンとエレンの侍従のルカがイチャつきだして、俺は頬を引くつかせながら貴族名鑑を閉じる。

 俺の勉強に付き合うとか言いながら、二人の逢瀬の場になっている気がするのは、俺だけか?

 ……二人とも怒るとめちゃくちゃ怖いから、口が裂けても言えないけど。

 次はマナーを覚えたいと呟くと、ルカが良い先生を知っているからと紹介してくれることになった。

 恐ろしいほど厳しい先生で、一度も褒められることはなかったが、半泣きで食らいつく。

 テーブルマナーを一通り覚えると、ヨハネス先生が初めてにこりと笑ってくれた。

「エレン様を思い出しますね……」
「え?」
「天才だと思われていますけど、今のあのお方があるのは、いろんなことを我慢して勉学に取り組み続けた、血と汗の結晶です。寝る間も惜しんで教養を身につける様は、今思い出しても凄まじかったですよ」
「あ、あのエレンが?!」
「ふふっ、ええ。完璧に出来るまでやり続けて、あまりにも自分に厳しすぎるので、私が止めに入ったくらいですから」

 昔を思い出している様子のヨハネス先生が、上品に紅茶を飲む姿を呆然と見つめる。

 当たり前のようになんでも簡単にやってのけると思っていたエレンは、実は陰で血の滲む努力をしていたことを知った。

「次期当主お披露目会までの一年間なんて……もう思い出したくもないくらいです」
「っ、」

 確か、あの時はエレンの誕生日すら覚えていなかった俺は、友人とふざけて足の骨を折って……。

 急に泣き出す俺に、先生が呆気にとられていたけど、エレンの立場に立って考えると、俺は涙を止めることができなかった――。













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