俺の婚約者は、頭の中がお花畑

ぽんちゃん

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 気付けば自室の寝台で眠りこけていた俺は、愛するお方と本当に婚約出来たのかと、暫くの間ぼーっと天井を眺めていた。

「エレン様、目が覚めましたか?」
「っ、ルカ!」
「ふふふ、おめでとうございます!!」

 飛び起きた俺に抱きつくルカは、桜色の瞳からほろほろと涙を溢していた。

 それにつられた俺も、大号泣だ。

 一頻り泣いた後、ジークハルト様がフィリップ様をお気に召して、婚約者になったことを知る。

 そしてまた涙が溢れる。

「フィリップ様も、本当に良かったですね」
「ああ……。ジークお義兄様を落とすなんて、さすがとしか言えないな?」
「それはエレン様もじゃありませんか?」
「…………ぐふっ」

 下品な笑い方をする俺は、にまにましながら幸せを噛み締める。

 

 さっそく父に話に行くと、まさかのレオンハルト様と仲良くお喋りしていた。

「っ、お義父様!」

 ん? と二人が俺を見る。

「あ、いや……レ、レオンハルト、様……」
 
 久々にお名前を呼んで頬が熱すぎる俺は、そろそろと愛する方の隣に腰掛ける。

 隣からくすりと愉しげな笑い声が聞こえるが、本当にやめてほしい。

 深呼吸した俺は、真剣な表情で父を見つめる。

「レオンハルト様と結婚したいです」
「ああ、約束だからな?」
「っ、ありがとうございますっ!!」
「フッ、そんなにレオンが好きだったんだな?」

 嬉しさが大爆発して、グッと拳を握りしめていると、父が揶揄うように告げてくる。

「…………父上。そんなに親しげに呼ばないで下さいますか? 彼はもう俺の妻なので」
 
 鋭利な目をこれでもかと見開く父は、口許をひくつかせる。

 静まり返る部屋で、父に嫉妬心を剥き出しな俺は、ひたすら敵を睨み続けた。

「そ、そうか、そうだな? ……そうなのか?」
「はい?! ……あ、間違えました。まだ妻ではありませんでしたね。先走りました、すみません。、俺の妻になるのでっ!」
「……いや、私が気になるところはそこではないのだが」

 父の言いたい事がわからずに怪訝な顔のまま隣を見ると、レオンハルト様が口許を手で押さえて笑いを堪えていた。

「どうしたんです?」
「ふふ、なんでもないよ?」

 ふるふると体を震わせるレオンハルト様を、じっとりとした目で見つめていると、愛するお方は乱れた銀髪を耳にかけてゆるりと首を傾げる。

「エレンも、レオンと呼べば良いんじゃないのかな、と思ってね?」
「うっ……そ、それは、」
「エレンは私の夫だろう?」
「っ……クハッ」

 喜びすぎて吐血しかけた俺は、後ろに倒れ込む。

 両手で口許を押さえて、血が出ていないかを確認して、ほっと息を吐いた。

「あまりエレンを揶揄うな」
「だって、可愛くて」
「まあ、確かに……。あの難攻不落の銀の貴公子様を落とすだけのことはあるな?」

 ソファーからずり落ちる俺をよそに、二人が仲良く笑い合っていた。

「オリバーはどうするんだ? 二人が婚約したとなると、針のむしろだろう」
「ああ、あれは勘当するより、もっと辛い目に合わせてやろうと思ってね? 私の可愛いエレンを蔑ろにした罰だよ」
「平民になった方が良かったと思うかもな?」
「まあ、でもこれも修行だよ。いかに自分がエレンに守られて来たかを悟るだろう。そこからどう頑張れるかが見物だな? 心を入れ替えてくれたら良いんだけど……」

 オリバーの更生を願うレオンハルト様は、深い溜息を吐く。

「オリバーのことなんですけど……」

 俺がおずおずと自分の気持ちを伝えると、レオンハルト様は優しく抱きしめてくれた。

「ありがとう、エレン」
「全てはレオンハルト様の為ですから……」

 にまにま顔を隠すように胸元にぴったりと寄り添っていると、コホンと低い咳払いが聞こえてきたが、全力で無視する。

 俺は、最愛の婚約者に愛でてもらっているだけだからな!!

 



 そして後日、社交界に激震が走る。

 銀の貴公子様の美貌と才能を受け継ぐ、ジークハルト・クリストフ侯爵子息が婚約した。

 更に驚くべきことは、社交界で高嶺の花であり、誰の誘いも受けなかった彼を射止めたお相手。

 全くのノーマークだった、キャンベル公爵家次男のフィリップ様だったからだ。

 そして婚姻後、ジークハルト様は若くしてクリストフ侯爵家の当主の座に就くことが発表された。



 婚約パーティーでは、印象に残らないもっさりとしたフィリップ様が、麗しい姿で登場した時には、諦めきれなかった令息達は溜息を漏らした。

 俺と猛練習した甲斐もあって、吃らずに完璧なまでに挨拶をし、ジークハルト様に寄り添う姿は、誰の目から見ても文句のつけようがなかった。

 そして俺はオリバーとの婚約を解消し、彼の父であるレオンハルト様と婚約したので、社交界は大混乱だ。

 好奇の目に晒される気満々でいたのだが、友人達からは、「これでようやく安心できます」と笑顔で祝福していただいた。




 
「みんな幸せになれて良かったです」
「……それはどうかな?」
「え? 何か言いましたか?」
「いや、なんでもないよ。さあ、行こうか」
 
 エスコートしようとするレオンハルト様に、俺も腕を差し出す。

 どちらがエスコートするかでいつも揉めるのだが、結局俺が折れることになる。

 惚れた弱みだ。

 レオンハルト様に群がろうとする俺の友人たちを牽制する日々は、なんだかんだで楽しい。

 これも全て、俺の元婚約者の頭の中がお花畑だったおかげだ。

 オリバーとはもう顔を合わせることはないけど、俺は彼の幸せを願っている。


 そう、俺の愛する人が願っているのだから――。













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