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しおりを挟む「クローディアスくん。死んだふり、できる?」
レヴィが突拍子もないことを口にしたのだが、クローディアスは先程と同じように横たわる。
大人しくレヴィの指示に従ったことに驚いたのか、ベアテルは目を白黒とさせていた。
もしクローディアスの言う通りに、命を狙われているのであれば、必ず守りたい。
そう思うレヴィは、背筋を伸ばした。
「ベアテル様。僕に任せてください」
「っ、」
凛とした佇まいのレヴィを見つめる黄金色の瞳は、激しく揺れていた。
クローディアスを領地で休ませたいと話していたベアテルだが、実際は討伐部隊から抜けさせたいのではないか、とレヴィは推察していた。
先程、クローディアスが復活したところを目撃した者が大勢いるため、命を落としたことにはできないだろう。
だが、真相を暴くことはできるかもしれない。
それにこの問題には、レヴィの婚約者であるテレンスが関わっている可能性があるのだ。
常にベアテルと行動を共にしているテレンスの指示ではないとは思う。
なによりテレンスは、動物の命を粗末に扱うような人物ではないとレヴィは思っている。
だが、テレンスのそばに、魔物討伐に貢献しているクローディアスの命を狙う者がいるのなら、排除しなければならない。
少し駄々を捏ねただけで、地震を起こせるような屈強な馬だ。
魔物討伐の際にも大活躍しているに違いない、とレヴィは判断していた。
(それになにより、こんなに可愛いクローディアスくんを殺そうとするだなんて、許せない……)
腹の底から怒りがふつふつと込み上げて来るレヴィは、ぐっと拳を握りしめる。
平和主義で穏やかな性格のレヴィだが、初めて怒りという感情を知った瞬間だった――。
「レヴィッ!!」
テレンスの叫び声が響く。
声を荒げたことのないテレンスが、焦った様子でレヴィのもとへ走って来る。
てっきり、テレンスは治癒を施してもらっている最中だと思っていたレヴィは、あまりに早い再会に驚いていた。
「馬の治癒だなんて、どうしてそんな危険なことをしたんだっ」
ガッと肩を掴まれたレヴィは、鬼気迫る青い瞳に射抜かれ、息を呑んだ。
怒鳴られたことなど一度もなかったレヴィの体は、勝手にびくんと震えていた。
すると、レヴィが怯えていることに気付いたのか、テレンスは困ったように眉を下げる。
「レヴィ。私がなんのために必死になって、魔物を討伐していると思っているんだい? 国を、レヴィを守るためだよ。安全だとわかっている王都でも、いつ魔物が現れてもおかしくはない。私はレヴィの身になにかあったらと思うと、夜も眠れなかったというのに……」
「っ……テリー」
「もう、危険なことはしないと約束して」
甘く熱の孕む声で囁かれ、まるで宝物に触れるかのようにそっと頬を撫でられる。
そして、レヴィの白いローブに血が付着している様を見たテレンスは、顔が青褪めていた。
ベアテルの力になりたいとしか考えられていなかったレヴィは、これほどまでにテレンスに心配をかけてしまった後悔から、罪悪感に苛まれる。
しかし――。
『ご主人様っ! ウソだよ、ウソっ! コイツ、毎晩、誰よりも長く、ぐっすり寝てたからっ!!』
じんとする胸を押さえたレヴィだが、クローディアスの声で台無しである。
そして、死んだふりをしていたクローディアスが歯を剥き出しにして嘶き、テレンスの背後に控えていた騎士たちが息を呑んだ。
『そこにいる青い髪のマリウスって奴が犯人だよ! 弓矢が下手で失敗しただけだって、いつも言い訳ばかりするんだ! でも、金髪王子の今のお気に入りだから、一度も咎められたことなんてないんだよっ! 気が弱そうでナヨナヨしてるけど、見た目に騙されないでっ!』
危険を察知したテレンスに、守るように強く抱きしめられるレヴィは頭が真っ白になっていた――。
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