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レヴィは、クローディアスを癒やすことができたなら、きっと魔物との戦いで傷付いた馬も治癒できるはずだと考えていた――。
現在、ドラッヘ王国に動物の病気を治癒できる医師はいない。
よって、負傷して立てなくなった馬は、どれだけ魔物討伐で活躍していたとしても、殺処分されてしまうのだ。
だが、レヴィが動物を癒やせるなら、多くの馬の命を救えることになる。
前例のないことだが、第二王子であるテレンスが認めてくれれば、劣等生だったレヴィでも役に立てるかもしれない。
ようやくテレンスの力になれるのだ。
それになにより、救える命を目の前にして、なにもしないという選択肢を選ぶことはしたくない。
否、出来ない――。
「テリーは、体を張って国民を守ってくれている。そんなテリーを尊敬しているし、僕だって、自分にできることをしたいっ」
レヴィが熱い気持ちを伝えると、最後まで黙って聞いていたテレンスは、にっこりと微笑んだ。
やはりテレンスは信じてくれた――。
きっと力になってくれると確信したレヴィも、微笑み返した、が……。
「――そんなに、ベアテルが大切なの?」
予想外の返答に、レヴィは呆気に取られた。
クローディアスと会話ができたことと、ベアテルはなんの関係もない。
それなのに、なぜベアテルの名が出てくるのか。
テレンスの言いたいことが、レヴィにはさっぱりわからなかった。
「ねぇ、レヴィ。本当は、クローディアスが怖いんじゃないの? それでもレヴィが馬の治癒をしたいのは、全部、全部、ベアテルのためでしょう?」
「…………なんの、こと?」
「レヴィのことは、全てわかっているよ」
にっこりと笑っているテレンスが、とても優しい声で囁いているのに、いつもレヴィを愛おしげに見つめる青い瞳は、笑っていなかった――。
(っ、こ、怖い……っ)
満面の笑みを浮かべているテレンスに、レヴィは初めて恐怖を抱いていた。
ただ、ひとつだけわかったことがある――。
「テリーは……僕を、信じて、ないの――……?」
今のレヴィは、相当、酷い顔色なのだろう。
珍しくテレンスが狼狽えていた。
「僕はっ、テリーの婚約者なのに、聖女候補としては劣等生だよ? そんなの、誰にも言われなくたって、わかってるっ。ただ、テリーの力になりたいって思っただけなのに……っ。それなのに、なんでベアテル様が関係してくるの……?」
「っ……レヴィ」
きちんと話し合いたいレヴィは、必死に涙を堪える。
目の前が歪んで、テレンスの顔が見えなくなってしまったが、目尻に柔らかなものが触れた。
「――……ッ!?」
まるで慰めるかのように、テレンスがレヴィの目尻に、何度も口付けていたのだ。
初めてのことに、レヴィは驚きで固まってしまうが、テレンスはおかまいなしである。
「誤解しないで? どんなことがあろうとも、私はレヴィの味方だよ。レヴィを信じてる――。でもね? クローディアスと話せることは、誰にも言ってはいけないよ。異常者扱いをされるかもしれないからね? 私とレヴィだけの秘密だよ」
「っ…………うん」
たじたじになっているレヴィは、ほとんど話を聞けていなかったのだが、頬を紅潮させているテレンスを前にし、口を引き結んだ。
ご機嫌なテレンスに甘やかされるレヴィは、完全にテレンスのペースに持ち込まれていることに、気付いていなかった――。
「私の部隊の者たちは、剣の腕はあっても、皆経験が浅いんだ。だから、ベアテルとクローディアスは、私の部隊では欠かせない存在なんだよ。特に、クローディアスはね? 魔物を前にすると、本能で喰い殺す――」
「っ、」
耳元で囁かれて、レヴィの全身に鳥肌が立つ。
一瞬で、涙が引っ込んでいた。
「クローディアスが抜ければ、私も無事ではいられないかもしれない――」
衝撃的な言葉に、レヴィは息を呑んだ。
どんな理由であれ、レヴィの行動により、クローディアスは魔物討伐部隊から抜けたのだ。
真っ青になったレヴィだが、テレンスは特に気にせず話し続ける。
「それでね? 父上に相談して、異世界から勇者様を召喚することに決まったんだ。だから、レヴィが危険を冒す必要なんてないんだよ」
「……勇者様、を?」
しっかりと頷いたテレンスは、蕩けるような笑みでレヴィを見つめていた。
テレンスは、レヴィを守りたい。
その気持ちが痛いくらいに伝わってくる。
「それでもレヴィが馬の治癒をしたいのなら、止めないよ? ただ、きちんと考えてほしい。レヴィが治癒をしたいと思っても、怪我をしている馬が興奮状態になって、レヴィに襲い掛かるかもしれない」
「っ、そんなことは――」
「ないとは言い切れないよ? 現に私は、この目で見てきたんだ」
今まで馬と共に戦ってきたテレンスに言われてしまえば、先日、初めて馬を見たばかりのレヴィは、何も言い返すことはできなかった。
「もし、その時にレヴィが命を落とすことになったとして。残された私はどうなるの? レヴィに馬の治癒を許可した私は、一生そのことを悔やむだろうね……」
「っ……」
テレンスの言葉が、レヴィの胸に突き刺さる。
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肩を竦めたテレンスに、兄の顔を思い出すレヴィは苦笑いする。
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その時は、アニカもきっと泣いてしまうだろう。
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「レヴィが、私の力になりたいと思ってくれたことは、本当に嬉しいよ? でも、レヴィになにかあったら悲しむ人がいることを、決して忘れないで」
「…………はい」
今度こそきちんと返事をしたレヴィは、動物の治癒を諦めざるを得なかった――。
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