23 / 131
21
しおりを挟む雛に夢中になっていたレヴィだが、テレンスが不敵な笑みを浮かべていることに気付いた。
先程とは打って変わり、どこか挑発的な視線は、ベアテルに向けられていたのだ。
ベアテルは、辺境伯夫人からの贈り物を届けただけだというのに――。
(小さな雛でも、ダメだったのか……。でも、もうこの子と離れたくないっ)
雛を取り上げられる前に、レヴィはおずおずとテレンスを見上げていた。
「この子の名前、なにがいいかな……?」
名付け親になれば、テレンスはレヴィが動物と関わることを許してくれるかもしれない。
そう考えたレヴィは、必死だった。
「ルル、はどうかな……? テリーも一緒に考えてくれる? 僕、大切にするっ」
「っ……うん、可愛いね。小さくてふわふわとしているから、ユリカも似合いそうだね」
雛には目もくれず、レヴィの頭を優しく撫でるテレンスが答える。
歓喜するレヴィは、満面の笑みを浮かべていた。
(やった! きっと、この子を飼うことは認めてもらえたんだっ!)
レヴィの中では、雛の名はユリカ、に決定しているわけだが、ベアテルとジークフリートにも共に名前を考えてもらい、ほんわかとした空気が流れる。
ジークフリートが、ロッティ、ベアテルはなかなか思いつかなかったが、辺境伯夫人は、ニーナ、と呼んでいたそうだ。
話を聞きつつも、こてん、こてん、と左右に首を傾げる雛の可愛さに、レヴィの目は釘付けだ。
小さなくちばしでレヴィの手のひらをツンツンとしたかと思えば、ころりと転がる。
雛がなにをしても可愛いとしか思えないレヴィは、たまらず頬ずりをしていた。
「うわぁ、ふわふわぁ~。癒やされるっ」
「「「…………」」」
頬ずりというより、レヴィは顔を洗うかのように雛に顔を擦り付けていた。
すうっと匂いを嗅いでいたレヴィは、静かすぎる空間にようやく気付く。
目線だけを上げれば、三人に凝視されていた。
(~~っ、や、やっちゃった……)
羞恥のあまり、かあっと顔が熱くなってしまったレヴィは、雛を膝の上に乗せた。
そっと撫でていたのだが、レヴィが触りすぎたのかもしれない。
雛がぐったりとしていた。
(っ……治癒しても、バレないよね?)
レヴィの治癒の光は、己の目にもよく見えていないのだ。
それでもドキドキしながら、レヴィが祈りを捧げれば、黄色い体が透明な光に包まれる。
「っ……」
誰も気付くことはないと思っていたが、ベアテルだけが目を見開いていた。
初めて治癒をした時は確証が持てなかったが、今ならわかる。
ベアテルは、レヴィですら見えない治癒の光が見えているのだ。
とても綺麗だ、と。
唯一無二の色だ、と告げた言葉は、優しい嘘ではなかったのだ――。
『あん? さっきまで気持ち悪かったのに、二日酔いが解消されてるじゃねぇかっ!! 今回のご主人様は、優秀だぜっ!! だが、俺様のケツの匂いを嗅ぎまくる、とんだ変態だがなっ!!』
じんとする胸を押さえたレヴィだったが、溢れそうになっていた涙は引っ込んでいた。
黄色い毛で覆われた丸いフォルムが可愛らしい雛から、ハスキーな声が発せられたのだ。
まるで酒やけをした、中年のおじさんのような声だった――。
『ほ~ら、愛でろ愛でろ。俺様は尻穴まで可愛いだろ~? まあ、この姿は一年限定だがなッ!』
ふりふりと、可愛らしく尻を振る雛のあざとい仕草は、意図したものだったのだ。
初めて変態呼ばわりされ、思考が追いつかないレヴィは、笑顔のまま固まっていた。
『おいおい。この坊ちゃん、大丈夫かあ? 純粋すぎて、詐欺に引っかかりそうな顔してるぞ? まあ、これからは俺様がそばにいるから、そんな心配は無用だがなっ! フハハハハッ! おい、ベアテル。ぼーっとしていないで、酒を持って来い!』
「どうかしたか?」
レヴィが治癒を施したことに気付いている様子のベアテルは、雛が病なのかと勘違いしているのかもしれない。
どこか心配そうにベアテルに問いかけられ、レヴィは慌てて首を横に振る。
「あ……。い、いえ……。すごく、か、かわいい、です。――ロッティ、さん」
「っ、ロッティにしたの?!」
雛の名を採用されると思っていなかったのか、ジークフリートが声を上げる。
普段は敬語のジークフリートが、友達口調になるくらいに驚いていた。
髪色と同じように頬を赤らめており、喜んでいることが見て取れるのだが、ロッティ以外は似合わないのだ。
「はい。だって、この子……オス、でした」
「「「…………」」」
沈黙が流れたが、部屋の隅に立っていたジークフリートが急にズカズカと歩み寄る。
バン、と机を叩いたジークフリートに驚くレヴィは、雛を守りつつ、身を引いていた。
「ど、どどど、どうやって確認したんですか、レヴィ様ッ!!」
「――ジーク。君は、私の可愛いレヴィに、一体なにを聞いているんだい? レヴィに名を選ばれたからといって、調子に乗っているのかな?」
なぜか興奮した様子のジークフリートと、笑顔で怒るテレンスが言い合っている。
ただ、ウィンクラーの怪物を、クローディアスくんと、親しみを込めて呼んでいたレヴィが、小さな雛をロッティさんと、敬意を払って呼んだことに、ベアテルだけが首を捻っていた――。
305
あなたにおすすめの小説
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
世界を救ったあと、勇者は盗賊に逃げられました
芦田オグリ
BL
「ずっと、ずっと好きだった」
魔王討伐の祝宴の夜。
英雄の一人である《盗賊》ヒューは、一人静かに酒を飲んでいた。そこに現れた《勇者》アレックスに秘めた想いを告げられ、抱き締められてしまう。
酔いと熱に流され、彼と一夜を共にしてしまうが、盗賊の自分は勇者に相応しくないと、ヒューはその腕からそっと抜け出し、逃亡を決意した。
その体は魔族の地で浴び続けた《魔瘴》により、静かに蝕まれていた。
一方アレックスは、世界を救った栄誉を捨て、たった一人の大切な人を追い始める。
これは十年の想いを秘めた勇者パーティーの《勇者》と、病を抱えた《盗賊》の、世界を救ったあとの話。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる