召喚された最強勇者が、異世界に帰った後で

ぽんちゃん

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 雛に夢中になっていたレヴィだが、テレンスが不敵な笑みを浮かべていることに気付いた。
 先程とは打って変わり、どこか挑発的な視線は、ベアテルに向けられていたのだ。
 ベアテルは、辺境伯夫人からの贈り物を届けただけだというのに――。

(小さな雛でも、ダメだったのか……。でも、もうこの子と離れたくないっ)

 雛を取り上げられる前に、レヴィはおずおずとテレンスを見上げていた。

「この子の名前、なにがいいかな……?」

 名付け親になれば、テレンスはレヴィが動物と関わることを許してくれるかもしれない。
 そう考えたレヴィは、必死だった。

「ルル、はどうかな……? テリーも一緒に考えてくれる? 僕、大切にするっ」

「っ……うん、可愛いね。小さくてふわふわとしているから、ユリカも似合いそうだね」

 雛には目もくれず、レヴィの頭を優しく撫でるテレンスが答える。
 歓喜するレヴィは、満面の笑みを浮かべていた。

(やった! きっと、この子を飼うことは認めてもらえたんだっ!)

 レヴィの中では、雛の名はユリカ、に決定しているわけだが、ベアテルとジークフリートにも共に名前を考えてもらい、ほんわかとした空気が流れる。
 ジークフリートが、ロッティ、ベアテルはなかなか思いつかなかったが、辺境伯夫人は、ニーナ、と呼んでいたそうだ。

 話を聞きつつも、こてん、こてん、と左右に首を傾げる雛の可愛さに、レヴィの目は釘付けだ。
 小さなくちばしでレヴィの手のひらをツンツンとしたかと思えば、ころりと転がる。
 雛がなにをしても可愛いとしか思えないレヴィは、たまらず頬ずりをしていた。

「うわぁ、ふわふわぁ~。癒やされるっ」

「「「…………」」」

 頬ずりというより、レヴィは顔を洗うかのように雛に顔を擦り付けていた。
 すうっと匂いを嗅いでいたレヴィは、静かすぎる空間にようやく気付く。
 目線だけを上げれば、三人に凝視されていた。

(~~っ、や、やっちゃった……)

 羞恥のあまり、かあっと顔が熱くなってしまったレヴィは、雛を膝の上に乗せた。
 そっと撫でていたのだが、レヴィが触りすぎたのかもしれない。
 雛がぐったりとしていた。

(っ……治癒しても、バレないよね?)

 レヴィの治癒の光は、己の目にもよく見えていないのだ。
 それでもドキドキしながら、レヴィが祈りを捧げれば、黄色い体が透明な光に包まれる。

「っ……」

 誰も気付くことはないと思っていたが、ベアテルだけが目を見開いていた。
 初めて治癒をした時は確証が持てなかったが、今ならわかる。
 ベアテルは、レヴィですら見えない治癒の光が見えているのだ。
 とても綺麗だ、と。
 唯一無二の色だ、と告げた言葉は、優しい嘘ではなかったのだ――。


『あん? さっきまで気持ち悪かったのに、二日酔いが解消されてるじゃねぇかっ!! 今回のご主人様は、優秀だぜっ!! だが、俺様のケツの匂いを嗅ぎまくる、とんだ変態だがなっ!!』


 じんとする胸を押さえたレヴィだったが、溢れそうになっていた涙は引っ込んでいた。
 黄色い毛で覆われた丸いフォルムが可愛らしい雛から、ハスキーな声が発せられたのだ。
 まるで酒やけをした、中年のおじさんのような声だった――。

『ほ~ら、愛でろ愛でろ。俺様は尻穴まで可愛いだろ~? まあ、この姿は一年限定だがなッ!』

 ふりふりと、可愛らしく尻を振る雛のあざとい仕草は、意図したものだったのだ。
 初めて変態呼ばわりされ、思考が追いつかないレヴィは、笑顔のまま固まっていた。

『おいおい。この坊ちゃん、大丈夫かあ? 純粋すぎて、詐欺に引っかかりそうな顔してるぞ? まあ、これからは俺様がそばにいるから、そんな心配は無用だがなっ! フハハハハッ! おい、ベアテル。ぼーっとしていないで、酒を持って来い!』


「どうかしたか?」

 レヴィが治癒を施したことに気付いている様子のベアテルは、雛が病なのかと勘違いしているのかもしれない。
 どこか心配そうにベアテルに問いかけられ、レヴィは慌てて首を横に振る。

「あ……。い、いえ……。すごく、か、かわいい、です。――ロッティ、さん」

「っ、ロッティにしたの?!」

 雛の名を採用されると思っていなかったのか、ジークフリートが声を上げる。
 普段は敬語のジークフリートが、友達口調になるくらいに驚いていた。
 髪色と同じように頬を赤らめており、喜んでいることが見て取れるのだが、ロッティ以外は似合わないのだ。

「はい。だって、この子……オス、でした」

「「「…………」」」

 沈黙が流れたが、部屋の隅に立っていたジークフリートが急にズカズカと歩み寄る。
 バン、と机を叩いたジークフリートに驚くレヴィは、雛を守りつつ、身を引いていた。

「ど、どどど、どうやって確認したんですか、レヴィ様ッ!!」

「――ジーク。君は、私の可愛いレヴィに、一体なにを聞いているんだい? レヴィに名を選ばれたからといって、調子に乗っているのかな?」

 なぜか興奮した様子のジークフリートと、笑顔で怒るテレンスが言い合っている。

 ただ、ウィンクラーの怪物を、クローディアスくんと、親しみを込めて呼んでいたレヴィが、小さな雛をロッティさんと、敬意を払って呼んだことに、ベアテルだけが首を捻っていた――。





















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