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35 ロッティ
パーティー会場に鳥は許可出来ないと言われてしまったロッティは、薄暗い庭園で不貞腐れていた。
不死鳥であるロッティは、遠い昔、アーデルヘルムと共に多くの民から崇められていたのだ。
それが今は、厄介者扱いである。
微かに聞こえてくる音楽と、お喋り好きな人間の笑い声が煩わしくて仕方がなかった。
(……上等な酒が飲み放題だと思ったのに、今はどうしてか酒の気分じゃない――)
アーデルヘルムには、助けを乞われた時に参上していたロッティだが、レヴィは違う。
清らかなレヴィの傍は、居心地がいいのだ。
優しさの塊だと、ロッティは思う。
千年以上生きてきたロッティが、初めて真に認めた主人だった。
だが、ロッティがレヴィを認めたのは、人柄だけではない。
不死鳥が仕えるだけの実力があるからだ。
僅かに獣の匂いがするベアテルを、レヴィが治癒できるだけでも奇跡。
なぜならレヴィは、聖女ではないからだ。
そして、ただの人間でしかないジークフリートの治癒に成功した際に、ロッティは確信していた。
(――レヴィは、神に愛されし子に違いない)
しかし、その事実を本人に話してしまえば、健気なレヴィは傷付いてしまうだろう。
国の為に貢献したいという想いが誰よりも強く、幼い頃から聖女になるために精進してきたのだ。
レヴィの過去を知らないロッティだが、日頃の生活態度を見ていれば、レヴィがどれだけ努力してきたのかは、容易に想像できていた。
ずけずけと物を言うロッティだが、レヴィの悲しむ顔には心底弱いのだ――。
レヴィに活躍の場があれば、と何度思ったことだろう。
クローディアスの治癒に成功したというのに、誰もレヴィの存在価値に気付いていない。
人間が、動物を使い捨ての家畜としか思っていないせいで、聖女たちが動物を治癒することはない。
それ故、レヴィの潜在能力に気付けない――。
(それもこれも、ご主人様の話を真に受けていないバカ王子のせいだっ!)
口ではレヴィを信じている、と話しているテレンスだが、決して動物と関わらせない。
その態度が、レヴィを信じていない証拠だ。
胡散臭いテレンスのことが気に食わないロッティは、ペッ、と唾を吐いていた。
(今に見てろよ。必ず後悔させてやる――)
満天の星を見上げるロッティは、自慢の羽根を広げた。
不死鳥を知らぬ者たちは誰も気付いていないが、異様な成長速度である。
この調子であれば、一年も経たずに元の姿に戻れるだろう。
その時が来れば、皆がレヴィに平伏す――。
ロッティは、ほくそ笑んだ。
そこへ、涙するアカリが飛び出してきた。
アカリはレヴィの友人だ。
ご主人様なら追いかけるだろう、と思ったロッティは、咄嗟にアカリの後を追っていた。
「っ……テルくんに、会いたぃっ」
長椅子に腰を下ろし、泣きじゃくるアカリを暫く静観していると、テレンスが追いかけてきた。
サラサラの金髪を夜風に靡かせる男が、懐からハンカチを取り出す。
「あなたのためを思ってのことだったが、先程は言い過ぎてしまった。すまない」
テレンスがハンカチを差し出したものの、アカリに拒否されていた。
それでもテレンスは、涙する女性に優しい言葉をかけてはいたが、アカリを見下ろす青い瞳は、冷え冷えとしたものだった。
(やはり、コイツだけは好きにはなれない。ご主人様は、なんでこんなゲス野郎が好きなんだ……?)
レヴィの泣きそうな顔を見れば、誰もが手を差し伸べたくなるというのに、テレンスは違う。
心の底から嬉しそうに笑うのだ。
レヴィの笑顔に癒やしを感じるロッティにとって、テレンスは不気味な男でしかなかった。
そしてふたりは、人目のない温室へと移動する。
限られた者のみが足を踏み入れることのできる、王宮の庭園の奥にある温室は、度々招かれたことのあるロッティにとっては馴染みの場所だった。
「落ち着いたら、私と一緒に戻ってくれないか? レヴィの願いなんだ」
先に歩いていたテレンスが振り返り、警戒するようについてきていたアカリを見つめ、困ったように微笑んだ。
「…………レヴィくんの?」
「ああ。実は、あなたと仲直りしてほしいと、レヴィに頼まれたんだ」
レヴィの名が上がれば、涙を拭ったアカリは笑顔を見せる。
「……ふふっ。レヴィくんのことを、本当に愛しているんですね?」
「それは言わなくてもわかるだろう?」
肩を竦めたテレンスがレヴィのことを話し始め、徐々にアカリの警戒心も薄れ、意気投合する。
……というより、張り合っていた。
(ふんっ。俺様は、ご主人様の可愛い寝顔を、毎日見ているぞ? すべすべのほっぺに、キスだってしてるぜ。高速でな?)
レヴィを裏切るようなことをするのかと、テレンスを監視していたロッティだったが、杞憂に終わった。
そして、会場に戻ろうとアカリが提案し、テレンスが頷く。
「ああ。出来れば、ドレスに着替えて私とダンスを踊ってほしい。仲直りをしたところを、レヴィに見せたいんだ。いいかな?」
「……そうですね、レヴィくんのためなら――」
「よかった。実は、レヴィの瞳の色に合わせたドレスを用意しているんだ。きっと気に入ると思う」
レヴィを驚かせようと、ファーストダンスを踊る約束を取り付けたテレンスが、満足げに笑った姿を目撃したロッティは、絶句した。
(っ、コイツ! ご主人様を利用したぞ!?)
ファーストダンスは婚約者と踊るものだ。
人間ではないロッティだが、それくらいの常識は知っている。
それを、テレンスがレヴィではなく、アカリと踊れば、他の者たちにどのように映るのか。
考えなくてもわかる。
その結果、レヴィが悲しむことも――。
告げ口をしようと、会場までひとっ飛びしたロッティだったが、ギリギリで思いとどまった。
パーティー会場にロッティが姿を現せば、飼い主であるレヴィが咎められてしまうのだ。
着飾ったふたりを見送ることしかできないロッティは、大人しくレヴィの帰りを待つ。
アカリ、テレンス、と、親しげに呼び合い、「レヴィは、どんな顔を見せてくれるかな?」と嬉しそうに呟いた、テレンスの背を睨みつけながら――。
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