召喚された最強勇者が、異世界に帰った後で

ぽんちゃん

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 波乱のお披露目パーティが幕を閉じ、一週間後には魔王討伐を控えるアカリとテレンスは、慌ただしい日々を送っていた。
 そんなふたりと行動を共にするレヴィだったが、微笑を浮かべるだけ。
 まるで人形のようだ、と自分でも思う。

 ふたりの間に立っているというのに、レヴィはおまけのような立ち位置だった――。

。今晩、母上に食事に誘われているんだ。アカリも少しでいいから、顔を出してくれないか? 母上がアカリを気に入ってしまってね?」

「……強制だよね、それ」

「ふふっ、相変わらずつれないな。この前は、母上と仲良く酒を飲んでいたじゃないか」

「さすがに断れないでしょ。それに、テレンスだってかなり飲んでたよね?」

 いつのまにか、アカリ、テレンス、と親しげに呼び合うふたりは、まるで長い付き合いの恋人のようだった――。

(アカリ様の気持ちはわからないけど、きっとテリーは、アカリ様に惹かれている……)

 レヴィ自身も、アカリを好意的に思っているのだから、テレンスが恋をしても不思議ではない。
 お似合いなふたりだと思う。
 それでもレヴィは、テレンスの婚約者の座をおりることはできない――。
 訓練場に向かう道のりが、とても長く感じるレヴィは、一言も話さずとも精神的に疲労していた。


 テレンスは今もレヴィに愛を囁いているが、パーティーの時に不信感を抱いてから、レヴィはテレンスの言葉を信じられなくなっていた――。


「おふたりが恋仲になるとは。願ってもないことですね」

 レヴィに追い打ちをかける男、ザシャ・ミケーリがニコニコと笑っている。
 未だテレンスの婚約者はレヴィだというのに、聞こえよがしに話してくるのだ。

「早く異世界に帰りたいと話しておられましたが、今のお気持ちは違うのでしょう」

「ええ、そうですね。テレンス殿下が、勇者様を引き留めてくださる存在となったのでしょう」

「喜ばしいことです。勇者様が永住してくだされば、ドラッヘ王国の未来は明るい!」

 ザシャと共に、テレンスとアカリを見守る人々が浮かれている。
 そして婚約者のレヴィが、邪魔者だと言わんばかりの目を向けられるのだ。

(……僕は、どうしたらいいの……?)

 テレンスがアカリを想っているのなら、レヴィは身を引くつもりだ。
 大好きなふたりには、幸せになってほしいと願っている。
 しかし、レヴィと家族となる日を心待ちにしているリュディガーとエルネストは、様々な事情から、アカリを歓迎しないだろう。
 だからといって、レヴィにできることはなにもない。

(……もう疲れた)

 レヴィが立ち止まっていることに、アカリと楽しそうに話すテレンスが気付くことはなかった――。



「なにをしている」

 背後から聞こえた、苛立つような低い声に振り返れば、ベアテルが立っていた。
 鋭い黄金色の瞳に射抜かれたザシャが、ヒュッ、と喉を鳴らす。

「っ、ひ、人喰い――」

 足の長いベアテルが、瞬く間に距離を詰める。
 威圧感のある無言のベアテルに見下ろされ、レヴィを囲んでいた者たちが、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
 不敬な態度なのだが、ベアテルは人を喰うと噂されているため、誰も近付かないのだ。

「ベアテル様。あの、」
 
「大丈夫か? 顔色が悪い」

 ザシャたちの態度に不快な思いをしたはずのベアテルが、レヴィを気にかけている。
 レヴィはずっと微笑を浮かべていたというのに、精神的に疲労していることを、ベアテルには見抜かれていた。

「心配をおかけしてすみません。でも、僕は大丈夫ですよ?」

「――嘘だな」

「っ、」

 即座に嘘を見抜かれ、レヴィは目を見開いた。
 
(……テリーでも気づかなかったのにっ)

 胸がじんとあたたかくなるレヴィは、泣き出しそうになっていた。
 ぎょっとするベアテルには申し訳ないが、レヴィはどうしてかベアテルの前では、表情を取り繕うことができなくなる時が多い。

「休んだ方が良いと思うが……。今は、俺と訓練場に行かないか? 俺の父上が来ているんだ。できれば、あなたに紹介したい」

「っ、ベアテル様のお父様がっ!? 僕、会いたいですっ! ロッティと出逢わせてくれたお礼を、直接言いたいと思っていたんですっ!」

 今にも泣き出しそうになっていたレヴィが、ぱあっと明るい顔を見せる。
 その表情をじっと見つめていたベアテルは、急にくつくつと笑い始めた。
 目尻が下がり、少し子供っぽく見える。
 人喰い熊の異名が似合わない、可愛らしい笑顔だった。

「あなたは動物が関わると、表情がコロコロと変わるな?」

 ドキリとしてしまうレヴィだったが、大きな瞳を細めた。
 手で口元を隠しているが、ベアテルの体は小刻みに震えていたのだ。
 今もこっそりと笑い続けているであろうベアテルを見上げたレヴィは、むっとしていた。

「っ……お、お礼状は書いたのですが、直接お礼を言いたいと、ずっと思っていたんですっ!」

「ククッ、ああ。父上から聞いている。母上の大切な鳥を可愛がってくれていることがわかって、喜んでいた。それから、あなたの字が、とても可愛らしかったとも――」

「~~っ!」

 頷くだけで話してもくれなかったベアテルが、今はレヴィに微笑みかけている。

(褒められているのに、恥ずかしいのは、なんで……?)

 胸が高鳴ってしまうレヴィだったが、ベアテルに悟られないよう、歩き出す。



 そして、ベアテルと共に訓練場に行けば、大勢の騎士が集まっていた。
 その中心にいる人物を発見したレヴィは、カッと目を見開いた。
 ウィンクラーの怪物を乗りこなす強者――マクシム・ウィンクラー辺境伯だった。

 皆に尊敬の眼差しを向けられているウィンクラー辺境伯は、キリリと表情を引き締めている。
 レヴィが会いたかった人は、熊のように大柄で、とても勇ましい男性だった。
 ベアテルに似た、凛々しい顔立ちのウィンクラー辺境伯が、レヴィたちに向かって大きく手を振る。



「ベアテルッ! レヴ――ブフォッ!」

『ご主人様ぁ~ッ♡♡』



 クローディアスに跨っていた、ウィンクラー辺境伯が振り落とされる。
 皆の視線を独り占めにするレヴィは、笑顔で固まるしかない。


 凄まじい勢いで突進してきたクローディアスが、レヴィの前でお座りをしていた――。
 











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