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42 アカリ
その後、ドラッへ王国について学ぶことになり、日本との文化の違いに驚きの連続だった。
魔物だけでなく、ドラゴンや不死鳥が存在する世界は、同性婚も認められている。
しかも、祈りを捧げるだけで怪我を治してしまう聖女までいるのだ。
夢のような世界なのだが、ひとつだけややこしいことがあった。
――身分制度だ。
身の回りの世話をしてくれる者たちは、明里より明らかに目上の人もいた。
明里の祖父母と同じ年代の人々に対して、敬語を使ってはならない。
加えて、周りの者たちの名前を覚えられず、かなり苦労した。
共に魔王討伐に向かう者たちだけは、と、彼らのことを同じ職場の同僚だと思い、必死になって覚えたものだ。
それでも、明里がどれだけ非常識なことをしようとも、皆があたたかく見守ってくれていた。
童顔だからか、ドラッへ王国の者たちには、明里は未成年だと思われていたのだ。
(若く見られるのは嬉しいし、いずれは日本に帰るんだから、もう何歳でもいいか……)
三十二歳だと告げても、皆には微笑ましい顔をされる始末。
誰にも信じてもらえなかった――。
年齢に関して、明里は諦めの境地に達していた。
皆が明里に良くしてくれたのだが、ひとりだけ例外がいる。
明里のことが気に食わないのか、テレンスが度々突っかかってくるようになったのだ。
おそらく初対面の時の明里の態度が、テレンスは気に食わなかったのだろう。
見目麗しい王子様は、いつまでも根に持つタイプの男だった。
(……テレンスは社長の息子。大人の対応よ)
明里はヴィルヘルム国王陛下と契約をした、つまり、国王に雇われている契約社員だ。
職場の上司の息子であるテレンスとは、良好な関係を築いた方がいいとはわかっていた。
だが、明里はテレンスに嫌われようと一向に構わなかった。
なにせ魔王を討伐後は、関わりがなくなるのだ。
……だが。
剣術の授業では、そうはいかない。
「剣を取れ」
倒れ込む明里に、テレンスが剣先を突きつける。
剣術を学び始めたばかりの明里に、テレンスは容赦がなかった。
事前にテレンスの功績を聞いていた明里は、何度も魔物のボスを倒した経験のあるテレンスを目標とした。
そして、一週間後――。
日本で帰りを待っているであろう輝明のために、がむしゃらになって努力した明里は、見事テレンスに勝った。
それも、あっさりと。
「さすが勇者様だ。私も、足の怪我さえ完治していれば――」
(……やっぱり、私、勇者になったんだ――)
騎士たちが歓声をあげ、テレンスの言い訳を聞き流す明里は、高揚感に満ちていた。
この調子で努力し続ければ、きっと明里の想像より早くに日本に帰れるかもしれない。
なにをしていても息子のことが心配でたまらない明里は、王女様のように持て囃されても、輝明のことしか考えていなかった。
しかし、その後に絶望感を味わうことになる。
明里に敗北し、プライドを傷つけられたテレンスが指南役から逃げたことで、第二王子の側近ふたりが代わりを務めることになった。
ジークフリートとはいい勝負だったが、ベアテルには手も足も出なかった。
左利きのベアテルが右手に剣を持ち、明里が女性だからか、手加減されていたのだ。
(っ、テレンスが最強なんじゃなかったの!?)
落ち込む明里を励ましてくれるジークフリートには、ベアテルの両親――ウィンクラー辺境伯夫夫はドラッへ王国の英雄だと教えてもらった。
幼い頃から魔物と戦ってきた経験値のある相手に、最初から敵うはずがない。
それでも悔しくてたまらない明里だったが、明里には癒やしの存在がいた――。
『お疲れ様です、アカリ様っ』
明里に労いの言葉をかけてくれるのは、全身にきらきらとした光を纏う美少年。
治癒を施したところを見たことはないが、一目で特別な存在だとわかるレヴィ・シュナイダーは、明里を姉のように慕ってくれていた。
(みんなが私を『勇者様』と呼ぶけれど、レヴィくんはきちんと名前を呼んでくれる……)
ペットの鳥を可愛がり、優しく話しかけている姿は可愛らしくて仕方がない。
明里にとってのレヴィは、癒やしと元気をもらえる特別な存在だった。
だから明里は、レヴィのために、波長の合わないテレンスとも仲良くすることにした。
しかし、明里は失念していた。
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同性愛者であるテレンスが、女性である明里に興味がないことも、既婚者である明里が、テレンスに興味がないことも、レヴィは知らなかった――。
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