召喚された最強勇者が、異世界に帰った後で

ぽんちゃん

文字の大きさ
51 / 131

48



「なんですか、コレ……」

 魚を丸ごと入れて、煮ただけのように見えるスープに、思わず口をついて出る。
 かろうじて魚の鱗は取り除かれているものの、下処理がされていない。
 というより、強烈な匂いを放つ原因は、下処理以前の問題のようにも思える。
 いくら治癒が成功したからと、先程まで死にかけていた者に出すような食事ではなかった。

(いや、健康な僕でも無理っ!)

 平然と食事を出した使用人に対し、レヴィが訝しげな目を向けても仕方がないだろう。
 レヴィが怪しむようにじっと見ていたことに気付いたのか、ベアテルが咳払いをする。

「彼は、執事のコンラートだ。今後、なにか困ったことがあれば、彼を頼ってほしい」

 ベアテルに紹介された銀縁眼鏡の似合う男性が、一歩前に出る。
 三十代くらいだろうか。
 綺麗に撫で付けられたグレーの髪は、ユリアンのきらめく銀髪よりも落ち着きのある色だが、とても上品な色だ。
 レヴィを出迎えてくれた時は、まるで死人のようだったが、今は理知的な印象を受けていた。

「私からご説明させていただきます。こちらは、ウィンクラー辺境伯領で採れた野菜と魚をふんだんに使用した疲労回復効果の高いスープでございます」

 執事――コンラートの説明を、しかと聞いているレヴィであったが、疲労回復どころか、腹を壊しそうだと思っていた。

「ウィンクラー辺境伯領の郷土料理ですが、レヴィ・シュナイダー様のお食事は、別にご用意しております」

「……別に?」

「はい。ユリアン・シュナイダー様には、我々の分の食糧までご用意していただきましたことを、心より御礼申し上げます」

 コンラートが頭を下げ、控えている使用人たちも深々と頭を下げる。
 レヴィが馬車の中で食していた日持ちのするパンと新鮮な水は、レヴィが辺境伯領に向かうことを知ったユリアンが、至急用意してくれたものだった。
 そしてウィンクラー辺境伯家にも用意された食糧は、既に邸に運び込まれているそうだ。

(急に決まったことだったのに、僕のためにわざわざ用意してくれたんだ……)

 きっとユリアンは、実績のないレヴィが、ウィンクラー辺境伯領では歓迎されない可能性を考えてくれたのだろう。
 現に、ユリアンの咄嗟の判断のおかげで、レヴィは使用人たちから感謝されている。
 ベアテルの治癒後も、レヴィが快適に過ごせるよう、ユリアンが配慮してくれたのだ。

(ユリアンお兄様は、やっぱりすごいや……)

 自慢の兄だ、とレヴィは顔を綻ばせた。
 ユリアンに感謝していると、話は終わったと思ったのか、ベアテルがスプーンを手にする。
 なんの躊躇もなくスープを口に運ぼうとし、レヴィはベアテルからスプーンを取り上げていた。

「食べちゃダメっ! これ、腐ってますっ!」

「「「…………」」」

 辺境伯領に住まう者たちにとっては、馴染みのある郷土料理なのかもしれないが、レヴィの目には腐ったスープにしか見えない。
 下手をすれば、毒が入っているのでは、と警戒するレヴィに、皆が呆然としている。
 その態度から、ある可能性に気付いてしまったレヴィは、思わず声を上げていた。

「っ、まさか! コンラートさんは、ベアテル様を殺そうとしているんじゃ……?」

「…………はい!?」

 コンラートが目を白黒とさせている間、レヴィは思考を巡らせていた。
 うなされていたベアテルの様子から、レヴィを指名したのは、きっとベアテルではない。
 コンラートの仕業かもしれないと、レヴィは疑っていた。

「ベアテル様の治癒は、ずっと僕が担当していました。でも今回、ベアテル様は一刻を争うような大怪我を負っていたんです。本当に主人を生かしたいのなら、僕ではなくスザンナ様を呼ぶはずです。それなのに、辺境伯領で活動しているスザンナ様ではなく、遠く離れた王都にいる僕が指名されたのは、一体なぜですか? なにか裏があるのでは?」

「「「…………」」」

 レヴィの問いかけに、誰も答えない。


 うなされていたベアテルが、ひたすらレヴィの名を呼んでいたことを、この時のレヴィはすっかりと忘れていた――。


 ますます怪しむレヴィは、口を引き結ぶコンラートを観察していた。

(きっとコンラートさんは、僕に治癒の力がないことを知っていて呼んだんだ。でも、奇跡が起こった……。それなら、今からでもベアテル様を亡き者にしようと企んでいるのかもしれない……)

 コンラートは、ベアテルに信頼されているように見える。
 だから平然と腐った料理を出したに違いない。
 当主の命を狙う動機などさっぱりわからないが、考え出したら止まらなくなってしまったレヴィは、ベアテルを守るように立ち上がっていた。

「ベアテル様を殺そうとしても無駄です! そんなこと、僕が絶対にさせませんからねっ! 何度だって治癒しますからっ!」

「――っ!? あ、ありえませんっ!!」

 レヴィがキッと睨みつければ、コンラートは明らかに狼狽えていた。
 その場で両膝をついたコンラートが、灰色の瞳を潤ませ、「信じてください」と懇願する。
 コンラートが嘘をついているようには見えないが、疑いは晴れていない。

「では、どうしてこんな腐ったものを、ベアテル様に出したのです? 世間知らずの僕なら、騙せるとでも思っているのなら大間違いですっ!!」

「っ、そんなことは、神に誓って思っておりませんっ!!」

「……本当ですか? ベアテル様は、テレンス第二王子殿下の友人ですが、僕にとっても特別な人なんです……。――僕は、ベアテル様を救うために、ここまで来たんだっ!!」

「「「――ッ!!!!」」」

 レヴィの勢いに呑まれたのか、その場で固まる者たちが、これでもかと目を見開いている。
 沈黙が流れたが、コンラートが取り乱す。

「ひッ!?」

 突如として立ち上がったコンラートが、ベアテルの頭を引っ叩いたのだ。

「っ、ベアテル様!? 照れていないで、きちんとご説明してくださいっ!!」

 なんて暴力的な人なのだと、レヴィは悲鳴を上げたが、執事に殴られたはずのベアテルは、どうしてか赤面していた。














感想 61

あなたにおすすめの小説

嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する

SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する ☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます! 婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。 知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。 花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。 十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。 寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。 見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。 宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。 やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。 次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。 アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。 ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

【完結】転生した悪役令息は、お望み通り近付きません

カシナシ
BL
「お前など、愛す価値もない」 ディディア・ファントム侯爵令息が階段から落ちる時見たのは、婚約者が従兄弟を抱きしめている姿。 (これって、ディディアーーBLゲームの悪役令息じゃないか!) 妹の笑顔を見るためにやりこんでいたBLゲーム。引くほどレベルを上げた主人公のスキルが、なぜかディディアに転生してそのまま引き継いでいる。 スキルなしとして家族に『失敗作』と蔑まれていたのは、そのスキルのレベルが高すぎたかららしい。 スキルと自分を取り戻したディディアは、婚約者を追いかけまわすのを辞め、自立に向けて淡々と準備をする。 もちろん元婚約者と従兄弟には近付かないので、絡んでこないでいただけます? 十万文字程度。 3/7 完結しました! ※主人公:マイペース美人受け ※女性向けHOTランキング1位、ありがとうございました。完結までの12日間に渡り、ほとんど2〜5位と食い込めた作品となりました!あああありがとうございます……!。゚(゚´Д`゚)゚。 たくさんの閲覧、イイね、エール、感想は、作者の血肉になります……!(o´ω`o)ありがとうございます!(●′ω`人′ω`●)

悪役令息上等です。悪の華は可憐に咲き誇る

竜鳴躍
BL
異性間でも子どもが産まれにくくなった世界。 子どもは魔法の力を借りて同性間でも産めるようになったため、性別に関係なく結婚するようになった世界。 ファーマ王国のアレン=ファーメット公爵令息は、白銀に近い髪に真っ赤な瞳、真っ白な肌を持つ。 神秘的で美しい姿に王子に見初められた彼は公爵家の長男でありながら唯一の王子の婚約者に選ばれてしまった。どこに行くにも欠かせない大きな日傘。日に焼けると爛れてしまいかねない皮膚。 公爵家は両親とも黒髪黒目であるが、彼一人が色が違う。 それは彼が全てアルビノだったからなのに、成長した教養のない王子は、アレンを魔女扱いした上、聖女らしき男爵令嬢に現を抜かして婚約破棄の上スラム街に追放してしまう。 だが、王子は知らない。 アレンにも王位継承権があることを。 従者を一人連れてスラムに行ったアレンは、イケメンでスパダリな従者に溺愛されながらスラムを改革していって……!? *誤字報告ありがとうございます! *カエサル=プレート 修正しました。