52 / 131
49
しおりを挟む「俺から説明させてほしい。この食事には、毒など入っていない。これが普通なんだ」
ベアテルに座るように促されたが、レヴィはコンラートを警戒していた。
レヴィの周りには、手をあげる人など誰ひとりとしていなかったのだ。
いくらベアテルが平気な顔をしていても、レヴィがコンラートを危険視するのも無理はなかった。
「それに、コンラートが俺を毒殺しようとも、俺は普通の人間より丈夫だから、死ぬことはない。だから安心してほしい」
ベアテルの話に耳を傾けるレヴィだったが、全く安心できない。
しかし、警戒心むき出しのレヴィを見つめるベアテルは、どうしてか嬉しそうである。
「それに、今はあなたがいる――」
「っ……」
レヴィがいれば、ベアテルは死ぬことはない。
そう信じきった瞳で見つめられ、レヴィの胸は高鳴っていた。
(僕も、ベアテル様になにかあれば、助ける自信はある……。でも、本人に言われると、すごく……嬉しいっ)
寝台に触れたベアテルに促されたレヴィは、おずおずと寝台の端に腰掛けていた。
幾分か冷静になったレヴィを確認し、ベアテルが話し始める。
「邸の裏の森には、危険な魔物が住んでいるんだ」
「っ、魔物が?!」
「ああ。そのせいで、水も空気も汚染されている。だから、コンラートが毒を盛ったわけではなく、この食事が普通なんだ」
「っ……そうだったんですかっ。ご、ごめんなさいっ、僕――」
とんだ勘違いをしていたことを詫びようとしたレヴィだったが、ベアテルが制した。
「いや、謝らないでくれ。まずはあなたに説明すべきだった。俺の責任だ。余計な心配をかけさせて、すまなかった」
「私も失念しておりました。お許しください」
ベアテルに続き、コンラートにも謝罪されたレヴィは、たまらず立ち上がっていた。
「っ、そんな!! 僕の方こそ、疑ったりして、本当にすみませんでしたっ」
勢いよく頭を下げたレヴィだったが、オロオロしてしまう。
何の非もないコンラートは、どうしてかレヴィの前で平伏していたのだ。
「僕が無知だったせいで、疑ってしまってすみませんでした。これからも迷惑をかけるかもしれませんが、仲良くしていただけると嬉しいです」
しゃがみこんだレヴィがコンラートの手を取り、立ち上がらせる。
レヴィが笑顔を見せれば、コンラートは眩しいものを見るかのように、グレーの瞳をきらきらと輝かせていた。
「っ……至極光栄に存じます」
レヴィはコンラートと和解の握手をする。
(……なんだか、とっても恭しい気がする。それに、コンラートさんはどう考えてもおかしな行動を取っているのに、なんでみんなは、羨ましそうに見ているんだろう……?)
笑顔のまま固まるレヴィは、目をぱちぱちとさせていた。
なにせコンラートは、どうしてか今も握っているレヴィの手を、額に押し当てているのだ。
そのおかしな光景を見ている他の使用人たちは、疑問に思うどころか、どこかうっとりとしながら眺めていた。
「話を続けても……?」
ベアテルの低い声にハッとしたレヴィは、元いた場所に戻る。
(……え? やっぱり殺されそうになっていた……とかじゃないよね?)
無言のベアテルを見つめるレヴィは、無意識にごくりと唾を飲む。
何も知らなかったとはいえ、明らかにレヴィが悪かったのだが、ベアテルがコンラートに向ける鋭い視線は、犯罪者に向けるような目だった。
「あ、あの、ベアテル様……?」
「っ……ぅ、大丈夫だ。気にしないでくれ」
レヴィが顔を覗き込めば、ベアテルはウェーブする髪を掻きむしっていた。
もしかすると、まだ体調は万全ではないのかもしれない。
ベアテルを元気づけたいレヴィは、鞄からベリーの実を取り出していた。
「一緒に食べませんか?」
「っ……わざわざ、持ってきてくれたのか?」
「はいっ。いっぱい食べても大丈夫ですよ? たくさん持ってきましたっ!」
ベリーの実がたっぷりと詰められたレヴィの鞄を見たベアテルは、顔を綻ばせた。
特別高価なものではないのだが、ベアテルは感極まっているようだった。
紫の実をじっと眺め、至極大切そうに口に含む。
幸せを噛み締めるように食すベアテルを見ているだけで、レヴィも幸せな気持ちをお裾分けしてもらった気分だった。
「俺の先祖がここに邸を建てたのは、魔物の住む場所を、これ以上広げさせないためなんだ。辺境伯領の民を守るために、俺たちはここにいる」
「っ……」
元々、凛々しく整った顔立ちのベアテルだが、真剣な表情で語るベアテルは、普段より何倍も魅力的だと、レヴィは思った。
しかし、その後に続く言葉に、レヴィは顔を顰めていた。
「俺たちは胃に入ればなんでもいいが、あなたに同じ食事を出すつもりはないから、安心してほしい」
「…………なにを言っているんですか?」
レヴィを安心させるはずが、どうしてか叱られる羽目になったベアテルは、ぎょっとしていた。
274
あなたにおすすめの小説
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
世界を救ったあと、勇者は盗賊に逃げられました
芦田オグリ
BL
「ずっと、ずっと好きだった」
魔王討伐の祝宴の夜。
英雄の一人である《盗賊》ヒューは、一人静かに酒を飲んでいた。そこに現れた《勇者》アレックスに秘めた想いを告げられ、抱き締められてしまう。
酔いと熱に流され、彼と一夜を共にしてしまうが、盗賊の自分は勇者に相応しくないと、ヒューはその腕からそっと抜け出し、逃亡を決意した。
その体は魔族の地で浴び続けた《魔瘴》により、静かに蝕まれていた。
一方アレックスは、世界を救った栄誉を捨て、たった一人の大切な人を追い始める。
これは十年の想いを秘めた勇者パーティーの《勇者》と、病を抱えた《盗賊》の、世界を救ったあとの話。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる