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「俺から説明させてほしい。この食事には、毒など入っていない。これが普通なんだ」
ベアテルに座るように促されたが、レヴィはコンラートを警戒していた。
レヴィの周りには、手をあげる人など誰ひとりとしていなかったのだ。
いくらベアテルが平気な顔をしていても、レヴィがコンラートを危険視するのも無理はなかった。
「それに、コンラートが俺を毒殺しようとも、俺は普通の人間より丈夫だから、死ぬことはない。だから安心してほしい」
ベアテルの話に耳を傾けるレヴィだったが、全く安心できない。
しかし、警戒心むき出しのレヴィを見つめるベアテルは、どうしてか嬉しそうである。
「それに、今はあなたがいる――」
「っ……」
レヴィがいれば、ベアテルは死ぬことはない。
そう信じきった瞳で見つめられ、レヴィの胸は高鳴っていた。
(僕も、ベアテル様になにかあれば、助ける自信はある……。でも、本人に言われると、すごく……嬉しいっ)
寝台に触れたベアテルに促されたレヴィは、おずおずと寝台の端に腰掛けていた。
幾分か冷静になったレヴィを確認し、ベアテルが話し始める。
「邸の裏の森には、危険な魔物が住んでいるんだ」
「っ、魔物が?!」
「ああ。そのせいで、水も空気も汚染されている。だから、コンラートが毒を盛ったわけではなく、この食事が普通なんだ」
「っ……そうだったんですかっ。ご、ごめんなさいっ、僕――」
とんだ勘違いをしていたことを詫びようとしたレヴィだったが、ベアテルが制した。
「いや、謝らないでくれ。まずはあなたに説明すべきだった。俺の責任だ。余計な心配をかけさせて、すまなかった」
「私も失念しておりました。お許しください」
ベアテルに続き、コンラートにも謝罪されたレヴィは、たまらず立ち上がっていた。
「っ、そんな!! 僕の方こそ、疑ったりして、本当にすみませんでしたっ」
勢いよく頭を下げたレヴィだったが、オロオロしてしまう。
何の非もないコンラートは、どうしてかレヴィの前で平伏していたのだ。
「僕が無知だったせいで、疑ってしまってすみませんでした。これからも迷惑をかけるかもしれませんが、仲良くしていただけると嬉しいです」
しゃがみこんだレヴィがコンラートの手を取り、立ち上がらせる。
レヴィが笑顔を見せれば、コンラートは眩しいものを見るかのように、グレーの瞳をきらきらと輝かせていた。
「っ……至極光栄に存じます」
レヴィはコンラートと和解の握手をする。
(……なんだか、とっても恭しい気がする。それに、コンラートさんはどう考えてもおかしな行動を取っているのに、なんでみんなは、羨ましそうに見ているんだろう……?)
笑顔のまま固まるレヴィは、目をぱちぱちとさせていた。
なにせコンラートは、どうしてか今も握っているレヴィの手を、額に押し当てているのだ。
そのおかしな光景を見ている他の使用人たちは、疑問に思うどころか、どこかうっとりとしながら眺めていた。
「話を続けても……?」
ベアテルの低い声にハッとしたレヴィは、元いた場所に戻る。
(……え? やっぱり殺されそうになっていた……とかじゃないよね?)
無言のベアテルを見つめるレヴィは、無意識にごくりと唾を飲む。
何も知らなかったとはいえ、明らかにレヴィが悪かったのだが、ベアテルがコンラートに向ける鋭い視線は、犯罪者に向けるような目だった。
「あ、あの、ベアテル様……?」
「っ……ぅ、大丈夫だ。気にしないでくれ」
レヴィが顔を覗き込めば、ベアテルはウェーブする髪を掻きむしっていた。
もしかすると、まだ体調は万全ではないのかもしれない。
ベアテルを元気づけたいレヴィは、鞄からベリーの実を取り出していた。
「一緒に食べませんか?」
「っ……わざわざ、持ってきてくれたのか?」
「はいっ。いっぱい食べても大丈夫ですよ? たくさん持ってきましたっ!」
ベリーの実がたっぷりと詰められたレヴィの鞄を見たベアテルは、顔を綻ばせた。
特別高価なものではないのだが、ベアテルは感極まっているようだった。
紫の実をじっと眺め、至極大切そうに口に含む。
幸せを噛み締めるように食すベアテルを見ているだけで、レヴィも幸せな気持ちをお裾分けしてもらった気分だった。
「俺の先祖がここに邸を建てたのは、魔物の住む場所を、これ以上広げさせないためなんだ。辺境伯領の民を守るために、俺たちはここにいる」
「っ……」
元々、凛々しく整った顔立ちのベアテルだが、真剣な表情で語るベアテルは、普段より何倍も魅力的だと、レヴィは思った。
しかし、その後に続く言葉に、レヴィは顔を顰めていた。
「俺たちは胃に入ればなんでもいいが、あなたに同じ食事を出すつもりはないから、安心してほしい」
「…………なにを言っているんですか?」
レヴィを安心させるはずが、どうしてか叱られる羽目になったベアテルは、ぎょっとしていた。
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