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いつのまにか眠りについていたレヴィは、鳥の鳴き声で目を覚ます。
逞しい腕に包み込まれ、とても温かい。
「おはよう」と、優しい低音が耳を擽り、頬にそっと口付けが降ってくる。
「レヴィは寝顔も愛らしいな」
朝から甘い言葉を告げるベアテルは、真顔だ。
寝顔を見られてしまったことが、恥ずかしい。
だが、ベアテルに可愛いと言われると、レヴィの胸に喜びが広がってしまう。
「っ……そんなことないです」
「いや、俺の想像を遥かに凌駕する可愛さだった」
「~~っ」
(どんな想像してたの……!?)
照れるレヴィを目に焼き付けるかのように、ベアテルが愛おしげに見つめている。
両想いになって、ただ目が合うだけで、こんなにもドキドキするものなのだろうか。
初めて大好きな人と共寝を経験したレヴィは、幸せいっぱいだった。
ただ、どうしてか毛布でぐるぐる巻きにされ、ベアテルの抱き枕になっているが……。
その後、なにも話さずとも、使用人やスザンナ、マリアンナたちには、レヴィとベアテルが想いを通わせたことに気付かれていた。
コンラートは、レヴィより浮かれているようで、食事はいつもより豪華だった。
◇
ドラゴンの鱗を献上するため、王都に向かったエミールとマクシムを見送り、早一週間。
日が短くなり、秋の虫が鳴き始める。
本日も、レヴィを頼りに集まった人や動物に囲まれ、レヴィは多忙な日々を送っていた。
それでもベアテルと想いを通わせてから、レヴィの瞳に映る世界は、以前よりもきらきらと輝いていた――。
「少し休憩しようか」
レヴィを気遣うベアテルが、耳打ちする。
魅力的な低い声に、内心うっとりとするレヴィは、笑顔でベアテルの手を取った。
レヴィ専用の休憩用の席まで移動し、ベアテルが椅子を引いてくれる。
肌寒くなってきたからと、膝掛けも用意してくれている徹底ぶり。
気遣い満点のベアテルだが、皆の前で、ベアテルの態度が特段変わったわけではない。
いつも通りの優しさだ。
軽食には、レヴィの好きなミルクティーと、新鮮な野菜と卵がたっぷりのサンドイッチ。
レヴィの小腹が空いた時のために用意されていた食事は、今も質素倹約を旨とするレヴィにとっては、ご馳走である。
「いただきます」
幼い頃からマナーを叩き込まれているため、食べ方は綺麗な方だと思う。
だが、ベアテルを意識してしまうレヴィは、少しずつ口に運ぶ。
そしてベアテルはというと、喉を潤すこともせず、レヴィをじっと見つめている。
ドキドキしているのは、おそらくレヴィだけだけだろう。
コンラートの話によると、レヴィが気付いていなかっただけで、ベアテルはいつもレヴィを見ていたらしい。
(僕を監視するためじゃなくて、ただ好きだったから見てたんだ……)
ぽっと顔が熱くなる。
レヴィにだけ特別優しいベアテルの行動は、他の者たちから見れば、随分とわかりやすい愛情表現だったのかもしれない。
レヴィがにこにことしていれば、ベアテルは幸せそうに顔を綻ばせていた。
◇
早朝、仕事を始める前に、レヴィはベアテルと共に湖に向かう。
ドラゴンの鱗が見つかったことで、もしかするとドラゴンに遭遇できる可能性があるからだ。
もしドラゴンに会うことが叶うなら、アーデルヘルムの代わりに謝罪したいと思う。
(でも一番の目的は、ベアテル様とふたりだけで過ごせる、朝の貴重な時間を大切にしたいだけなんだけどね?)
たった三十分。
だが、この時ばかりは、レヴィはベアテルに愛されていると実感できる――。
「こんな日が来るとは、夢にも思わなかった……」
ベアテルが、幸せを噛み締めるように呟く。
神秘的な青い湖を、大好きな人と眺めるレヴィも同じ気持ちだと、ベアテルに身を委ねていた。
普段は隣に並ぶベアテルが、敷き物に座るレヴィを、背後から包み込んでいる。
ベアテルの素敵な顔を見たい気持ちは山々なのだが、レヴィは幸せだった。
動物が好きだという共通点もあり、犬たちと遊ぶベアテルを見ているだけで、レヴィは幸せな気持ちになる。
そしてベアテルもまた、レヴィが動物に治癒を施しているところを見ているだけで、幸せな気持ちになるそうだ。
(自分で言うのもなんだけど……僕たち、お似合いの夫夫じゃないかな?)
ひとり心の中で惚気るレヴィは、気になっていることを質問することにした。
「僕の治癒の力を利用する気がなかったのなら、どうして婚姻したことを隠していたんですか?」
「それは…………レヴィが、俺を受け入れられないと思ったんだ」
随分と間があった。
おそらくベアテルは、嘘をついてはいない。
だが、本当の理由は別にあるのではないか、とレヴィは思った。
(っ、もしかして、テリーがアカリ様を選んだことで、僕が傷付かないように……?)
魔王討伐の旅で、テレンスとアカリの仲が深まったところを、ベアテルは見ていたのかもしれない。
魔王を討伐し、国はお祝いムードに包まれるが、レヴィはテレンスから婚約を破棄される。
レヴィがなにも悪いことをせずとも、噂の的になることは避けられないだろう。
テレンスに捨てられた者として、レヴィは一生、哀れみの目を向けられることになる――。
想像しただけで、レヴィはゾッとする。
(そうなれば、僕は今のように、心からふたりを祝福できるような状況ではなかったかもしれない――)
レヴィだけが辛い想いをすることになる未来が予想できたベアテルは、悲しい結末を知る前に、レヴィを伴侶に迎えた。
テレンスの裏切りを知り、ベアテルはレヴィが傷付かないように行動したのではないだろうか。
そう考えれば、全ての辻褄が合う気がする。
(だって、愛する人のそばにいられるだけで幸せだ、って話していたベアテル様が、僕とテリーの仲を引き裂こうとするだなんて思えないもん……)
レヴィが背後を振り返れば、ベアテルにじっと見つめられる。
ウィンクラー辺境伯領での生活は、レヴィ自身も成長することができ、とても楽しく充実していた。
そして今は、より幸せだと思う――。
一途に想ってくれていたベアテルは、世界一素敵な伴侶だと、レヴィは心の底から思った。
引き寄せられるように唇を重ねる。
「んっ」
「…………いちいち可愛いんだが」
ぼそっと呟くベアテルが、目元を隠す。
何度しても恥ずかしいのだが、ベアテルが頬を染めている可愛い顔を拝むことができるのだ。
レヴィにしか見せない、ベアテルの照れた顔。
その表情を見たいがために、レヴィは恥ずかしい気持ちをなんとか堪えている。
(また耳が飛び出ちゃってるっ。……僕が大好きだって証だよね?)
ベアテルもまた、レヴィの愛らしい顔を見たいがために、必死に羞恥心を堪えているだなんて、可愛い耳に目が釘付けになっているレヴィは、気付いていなかった――。
『わざわざ鱗を落としてやって、ようやく想いを通わせたと思えば、我の安息の地で接吻ばかりしおって……。独り身の我の気持ちも、少しは考えてくれぬか?』
「っ……」
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