召喚された最強勇者が、異世界に帰った後で

ぽんちゃん

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「王子様は、今更なんの用なんだ?」

 テレンスが騒いでいる間に、早朝から動物の治癒に訪れ、列を成していた者たちや、話を聞きつけた領民も集まって来る。

「早く中に入れてくれ。この私を待たせるだなんて、レヴィが知れば――」

「レヴィ様にお目にかかりたいのでしたら、順番を守ってください」

 淡々とした門番の言葉に、列に並んでいる者たちが、そうだそうだ、と同意する。

 レヴィが元婚約者の王子に復縁を求められ、ウィンクラー辺境伯領を去ってしまうのかと、誰もが気が気ではなかったのだ――。

 微笑を浮かべているものの、テレンスは額に青筋を立てていた。

「……お前たち、一体、誰に命令しているんだい? 私はこの国の英雄だぞ?」

「ぷっ、自分で英雄って言っちゃってるよ」

「なんだと!? 誰だ、今私を侮辱した輩はっ! 不敬罪で引っ捕らえてやることもできるんだぞ?」

 苛立つテレンスが声を荒げるが、周りの者たちはしれっとした顔をしていた。
 そして番犬たちは、テレンスに向かって吠え続けている。
 誰にも歓迎されていない第二王子の姿を、初めて目撃することとなったレヴィは、なんとも言えない気持ちでテレンスを眺めていた。

(邸に入れてもらえないだなんて、テリーはなにをしたんだろう……?)

 使用人たちがテレンスを見る目は、異様なまでに憎悪に満ちていた。
 テレンスがウィンクラー辺境伯家の者たちを怒らせたのは、間違いないだろう。
 すると、困惑するレヴィを発見したテレンスが、これでもかと青い瞳を輝かせた。

「レヴィ! 会いたかった!」

 レヴィは頭を下げようとしたが、その後に続く言葉に絶句する。

「番犬共をどうにかしてくれないかい?」

 うるさくてかなわないと、テレンスが呆れたように肩を竦めた。
 まるで、躾がなっていないと言われた気分になったレヴィは、不快感でいっぱいだ。
 無礼者なのは、いくら王子とはいえ、先触れもなく訪れたテレンスの方である。
 それでも人が集まってきている為、レヴィがアムルたちの頭を撫でれば、鳴き声はピタリと止んだ。


 満足気に微笑むテレンスだが、己の仕事を全うしただけの番犬たちを煙たがるテレンスを、レヴィはまるで知らない人を見ているような気分だった。


「っ……レヴィ」

 ベアテルが、不安そうにレヴィの名を呼ぶ。
 ドラゴンを前にしても、勇敢な姿を見せてくれたベアテルが、今は別人のようだった。
 テレンスは、レヴィの元婚約者ではあるが、既にアカリと婚姻している。
 互いに伴侶がいるのだから、再会したところでなにか起きるわけでもない。
 それでもレヴィの目には、ベアテルの美しい顔が、怯えているように見えた気がした。

(っ、どうしようっ。ベアテル様を不安にさせちゃったのかも……)

 ベアテルと想いを通わせたとはいえ、ベアテルは今もレヴィが、テレンスに会いたがっていると思い込んでいる可能性がある。
 もし逆の立場だったなら、レヴィだって気が気ではないだろう。
 テレンスが何の用なのかは知らないが、レヴィはベアテルのもとへ、一直線に駆け寄っていた。

「ベアテル様っ」

「っ、レヴィ……」

 直様、ベアテルに抱き寄せられる。

(みんなには、ベアテル様が平然としているように見えているかもしれないけど……。すごく、動揺してるっ)

 今すぐ、大好きだと伝えたい――。
 レヴィがベアテルの強張る頬を撫でれば、ベアテルがようやく微笑む。
 心底ホッとしたようにレヴィを見つめるベアテルと、レヴィは熱い視線を絡ませていた。
 すると、ガシャンと、門の柵を揺らすテレンスが、けたたましい音を鳴らした。


「っ……レヴィ!? わざわざ訪ねてきたというのに、どうしてベアテルを優先するんだい!?」


 テレンスのとんちんかんな発言に、レヴィは困惑した表情を隠しきれない。
 レヴィはベアテルの伴侶だ。
 いくらテレンスが第二王子だからと、どうして今も、レヴィがテレンスを優先すると思い込んでいるのか、レヴィにはさっぱりわからなかった。

「ご無沙汰しております、テレンス殿下」

 レヴィに他所行きの微笑みを向けられ、テレンスは頬を引き攣らせた。

「あ、ああ。久しぶりだね、レヴィ。ずっと会いたかったよ」

 テレンスは、青い瞳に涙まで浮かべている。
 レヴィに会いたい気持ちは本物だろう。
 だが、本当に会いたいと思っていたなら、どんなに忙しくとも、もっと早くに会いに来れたはずだ。

 そう思ったレヴィは、昔はテレンスと想い合ってはいたが、互いに過去の人になったのだと、再確認していた――。

「大切な用があって来たんだ。中に入れてくれないかい? 内密に話がしたい」

 レヴィの態度が、明らかにそっけないことに気付いているはずのテレンスだが、レヴィと話したくて必死になっていた。

 レヴィに会うために、他にも大勢の人が早朝から待っている。
 だが、テレンスがやすやすとは引き下がらない性格であることを知っているベアテルは、列に並ぶ人々に謝罪し、解散してもらうことにした。
 テレンスが突然訪問したことで、迷惑そうにする人々が、渋々帰って行く。

(テリーは、自分の身分をわかっていて行動してるのかな……?)

 重要な話があったとしても、事前に先触れを出してほしかったと、レヴィは溜息を堪える。
 いつも周りのことを考えているベアテルと行動を共にしていたこともあり、レヴィはテレンスが我儘な子供のように見えて仕方がなかった。



 それから、談話室に移動する。
 レヴィがベアテルの隣に座れば、テレンスは眉を顰めた。
 テレンスがどうして不機嫌なのか、レヴィにはさっぱりわからない。

「レヴィとふたりで話せないかな?」

 ベアテルには席を外してほしい、とテレンスが告げるが、ベアテルは拒否する。
 意地悪をしているわけではない。
 ベアテルは、相手が誰であっても、レヴィと客人を二人きりにさせることはないのだ。

(それに、いくら内密に話したいからって、僕とテリーは元婚約者だ。なにもなかったとしても、ふたりきりはダメだろう)

 ベアテルが折れることはないと察したのか、ふたりきりで話すことは諦めたようだ。
 足を組んだテレンスの纏う雰囲気から、不承不承であることは明白であった。

「実は、アカリからの手紙を届けに来たんだ」

「っ、アカリ様から?」

「ああ、アカリは異世界に帰ることになったんだ。その前に、どうしてもレヴィに会いたいと話していたんだが……。聞いていないのかい?」

 そう言って眉根を寄せたテレンスが、ちらりとベアテルを見た。
 まるで、ベアテルがレヴィに秘密にしていたと言わんばかりの、咎めるような視線だった。



















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