召喚された最強勇者が、異世界に帰った後で

ぽんちゃん

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 しかし、「そんな話は聞いていない」と、ベアテルが言い切った。

 ベアテルは、レヴィに婚姻していたことを隠していた過去がある。
 嘘をついてはいないだろうが、大切なことを話さなかった。
 一方、テレンスは、信頼できると思っていたが、レヴィとの婚約中から不貞を働いていた者だ。
 久しく会ったテレンスの言葉を鵜呑みにするのは、軽率な判断だと、レヴィは思った。

(どちらが真実を話しているのか、判断できない……。でも、僕は、ベアテル様を信じたいっ)

 ふたりから、自分を信じてほしいと、強い視線を向けられたレヴィは、テレンスを見つめる。
 すると、レヴィが己を信じてくれたのだと、確信したかのように、テレンスの表情が華やいだ。

「忙しかったこともあって、僕が聞き逃してしまったのかもしれません。アカリ様には、申し訳ないことをしてしまいました」

「「っ……」」

 角が立たないような返答をしたレヴィに、テレンスは呆気に取られていた。
 その間に、ベアテルがレヴィの手を握る。
 己を信じてくれたのだと、嬉しそうに唇を噛み締めるベアテルに、レヴィは微笑んでいた。


 一方、目の前の仲睦まじいふたりを眺めるテレンスは、焦りを覚えていた。
 テレンスの予想以上に、レヴィとベアテルが信頼関係を築いていたのだ。
 加えて、従順だったレヴィが、テレンスではなく他の男を見ているだけで、ひどく腹が立っていた。


 はあ、と深い溜息を吐いたテレンスに、レヴィは痛ましそうな目を向けられる。

「嗚呼、レヴィ。可哀想に……。この男に騙されているんだね? でも、大丈夫。私が助けに来たよ」

 今のテレンスは、白馬に乗った王子様のように、レヴィに手を差し伸べているのだが、レヴィは内心首を傾げていた。
 レヴィは、スザンナやマリアンナから、テレンスの悪事について、詳しく聞いているのだ。

(……僕を騙していたのは、テリーでしょう?)

 そう言いたい気持ちを堪えるレヴィは、溜息を飲み込む。

「なにを仰っているのか、僕には理解できません」

「っ、私がアカリと婚姻したことを、怒っているの……?」

 レヴィは怒るどころか、ふたりを祝福しているのだが、悲壮感たっぷりのテレンスは、苦しそうに目を伏せた。

「私は、国のためにアカリを娶っただけに過ぎない。そのことも、聞かされていないんだね……?」

 怒りに震えている様子のテレンスが、ベアテルを睨みつける。
 テレンスの発言は、とにかくベアテルを悪者にしたいようにしか感じられなかった。
 どうしてそこまでベアテルを敵視するのか、レヴィにはさっぱりわからない。

 国のためとはいえ、テレンスはレヴィではなく、アカリを選んだ。
 如何なる理由を聞いたとしても、それが答えだ。
 既に別の道を歩み始めているのだから、今更、事情を聞いたところで、レヴィの心が揺らぐことはなかった。

(それでもテリーが、以前よりも僕に熱い視線を向けているのは、一体なんでなんだろう……?)

 今更現れたテレンスの言動が、レヴィは不思議でならなかった。

「伝説の不死鳥――バルドヴィーノ様を従えたことで、アカリが他国の者たちからも求婚される可能性があると判断して、私はアカリを守るために伴侶に名乗り出たんだ。だから、私たちの間には、愛も、ましてや肉体関係もないよ? そのことは、ベアテルも知っているはずだ」

「…………」

 テレンスとアカリは、想い合っているわけではないようだ。
 驚きの事実だが、ふたりが決めたことなのだから、レヴィがとやかく言うことではないだろう。
 だが、レヴィにはひとつ気になることがあった。

(不死鳥を従えたら、いろんな人たちから求婚されちゃうの……?)

 テレンスは、今もレヴィを愛していると伝えたいのかもしれないが、レヴィはそれどころではない。
 レヴィはすでに既婚者だが、テレンスの話を聞いて一抹の不安を感じていた。
 仮に、レヴィが他国の王族に求婚されたとして、ベアテルと無理やり離縁させられることになる可能性を考えていたのだ。

(……ううん、きっと僕には関係のない話だ。だって僕の場合は、ロッティさんを従えているわけじゃなくて、お友達ってだけだもん)

 十年以上、一途に想ってくれていたベアテルならば、そう易々と、レヴィを手放すことはないと信じたい――。


 レヴィはベアテルの気持ちを確認したいと思っていたのだが、レヴィがベアテルに不信感を抱いているのだと、都合の良いように解釈するテレンスが、話し続ける。


「それなのに、ベアテルは魔王討伐という役目を放棄して、王命でレヴィを娶ったんだ。私とレヴィの仲を引き裂きたいからと、卑怯な男なんだよ」

「……卑怯?」

 テレンスがベアテルを侮辱し、レヴィは初めて、怒りで目の前が真っ赤に染まった。

「事前にお話を聞いていたとしても、アカリ様との婚姻は、テレンス殿下ご自身が決断したことです。決してベアテル様のせいではありません。卑怯者などと、僕の大切な伴侶を侮辱することはやめてください。いくら第二王子殿下でも、不愉快です」

「「っ、」」

 温厚なレヴィが、テレンスに言い返したのだ。
 テレンスはもちろん、ベアテルも驚愕している。
 だが、レヴィは後悔していない。
 大好きな人を侮辱され、どうしても黙っていられなかった。

 レヴィの変わりように、暫し固まるテレンスだったが、哀れむような眼差しに変わった。

「やはり、嘘を吹き込まれているんだね……?」

 レヴィが首を傾げれば、テレンスは悲し気に目を伏せた。


「レヴィは、と、そう聞いているんだろう?」


「っ、」

 衝撃的な発言に、レヴィは息を呑んだ。

(っ……ベアテル様は、テリーに殺されかけたの!?)

 驚愕するレヴィが隣を見れば、ベアテルは口を引き結んでいた。
 ベアテルの表情から、テレンスの話が真実であることを、レヴィは悟った――。

(……なんで、なにも言わないの……?)

 ベアテルが先に帰還した理由が、まさかテレンスに殺されかけていたからだなんて――。
 胸部を負傷し、命を落としかけていたベアテルを思い出したレヴィは、涙が溢れていた。
 どんな理由であれ、長年守って来た主人に、命を狙われたのだ。
 どれほど辛い思いをしたのだろうか。
 レヴィの脳裏には、死を覚悟し、うなされていたベアテルの姿が、ありありと思い出されていた。

 しかし、ベアテルが同情を誘う真似をしていなかったことを知らないテレンスは、レヴィの説得を続けていた。

「ベアテルの話は真っ赤な嘘だよ。ベアテルの言うことを信じないでほしい。この男は、優しいレヴィの同情を誘って、今のうのうとレヴィの隣にいるんだ。ベアテルが、ずっとレヴィに執着していたことは、皆が知っている。レヴィを手に入れるためなら、なんだってするような男なんだよ」

「…………」

「私は、今もレヴィを愛しているんだ……っ」

 ベアテルに引き裂かれてしまったと、訴え続けているテレンスが、レヴィに愛を囁く。

 俯くレヴィは、小刻みに震える己の体を、強く抱きしめる。
 テレンスはレヴィの心を取り戻すことができたと確信していたが、レヴィは単に耳を塞ぎたくなっていただけである。
 なんの非もないベアテルの悪口を聞かされ続けたレヴィは、怒り心頭に発していた。 
















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