99 / 131
95 王族
煌びやかな晩餐会では、部屋に引きこもっているテレンスを除く王族と、勇者が卓を囲んでいた。
「誰よりも信頼していたベアテル様が負傷してしまった時は、さすがの私も不安に襲われました……。ですが、バルドヴィーノ様はもちろん、部隊の方々も、特にジークフリート様が尽力してくださったおかげで、無事に魔王を倒すことができました」
食事もそこそこに、アカリが魔王討伐での旅のことを楽しげに話す姿を、ヴィルヘルムとマティアスはなんとも言えない気持ちで眺めていた。
なにせ、アカリの口からは、テレンスの話が一向に出てこないのだ。
アカリがテレンスを悪く言うことはなかったが、魔王を討伐する際には、テレンスが活躍していなかったことは、この場に集まった王族全員が察することとなっていた――。
「伝説の不死鳥バルドヴィーノ様は、今どちらにおられるのか」
是非ともお目にかかりたいと、珍しくリュディガーが前のめりであった。
不死鳥の姿を一目見たいという気持ちはあるが、もし負傷しているのであれば、レヴィが治癒を施せる可能性があるのだ。
心の清らかなレヴィならば、伝説の不死鳥と友人になれるかもしれない――。
神々しい不死鳥の姿が描かれた肖像画を思い出すリュディガーは、凛々しい初代国王アーデルヘルムではなく、そこに愛らしいレヴィの姿が描かれる未来を想像し、胸を躍らせていた。
「空気の綺麗なところで、羽を休めていらっしゃるのだと思います。私はバルドヴィーノ様を従えているわけではありませんので……」
詳しいことはわからないと、アカリが申し訳なさそうに告げる。
不死鳥バルドヴィーノは、自由気ままな性格だ。
そんな不死鳥が、人間と行動を共にすることは滅多にないと言われている。
よってアカリは謙遜しているだけだろう。
皆がそう思っていたのだが、アカリは口元を綻ばせた。
「でも、バルドヴィーノ様の飼い主であるレヴィ様に聞けばわかると思いますよ?」
「「「――……ッ!!」」」
普段は感情を表に出すことのない王族全員が、仰天する姿を目撃することに成功したアカリは、堪えきれずにくすくすと笑った。
不死鳥の声が聞こえるわけではないが、アカリやジークフリートは、不死鳥がロッティであることを確信していた。
なにせ、魔王討伐の旅で、不死鳥と行動を共にするようになってから、姿は違えど、バルドヴィーノはロッティにしか見えなかったのだ。
食事をした後にゲップをする下品なところや、レヴィが大切に想う人を、特別気にかけている姿。
そして、異様なまでにテレンスを警戒していた。
不死鳥が優先してアカリを守っていた理由は、おそらくアカリが勇者だからではない。
テレンスが、レヴィの婚約者だからだ。
深夜、アカリの天幕に、テレンスが忍び込もうとした際には、炎を噴いてまで追い払った不死鳥の姿を思い出すアカリは、レヴィに会いたい気持ちが大きく膨れ上がっていた。
「まさか、レヴィが……」
王族の誰もが信じられないという面持ちだったが、複雑な思いが込み上げきていた。
動物の治癒を施すことができるレヴィであれば、不死鳥と交流することも不可能ではないのかもしれない。
仮に、レヴィが不死鳥を従えているのならば、バルドヴィーノはドラッヘ王国に住み着いてくれるだろう。
願ってもないことだ。
だが、今もレヴィがテレンスの婚約者だったならば、と思わずにはいられなかった――。
「なぜ、話してくれなかったのだろうか……」
「私の推測ですが、レヴィ様はロッティが不死鳥だなんて、知らなかったんだと思いますよ? 急激に成長していましたので……」
「……そうか」
おっとりとしているが真面目なレヴィであれば、リュディガーに報告してくれていたことだろう。
丁寧に纏められた報告書と共に、ウィンクラー辺境伯領での出来事を、毎月欠かさず送ってくれる愛らしいレヴィを思い出すリュディガーは、思わず引き結ばれていた口元を緩めた。
「伝説の不死鳥だと知らずに、鳥を可愛がっていたのか……。いや、単に動物が好きなレヴィには、関係ないのかもしれないな?」
「ふふっ。はい、私もそうだと思います。私やジークフリート様、ベアテル様は確信していますが、真実は、レヴィ様がバルドヴィーノ様と再会した時にわかることでしょう」
その時が楽しみだと、アカリが嬉しそうに笑う。
その屈託のない笑みは、バルドヴィーノの飼い主はレヴィであると確信しているようだった。
事実確認の為、至急、レヴィを王都に呼び寄せなければならない――。
ヴィルヘルムは、直様ウィンクラー辺境伯家に、魔王を討伐した祝いのパーティーに、夫夫揃って参加するようにと、招待状を出していた。
しかし、五日後――。
「ウィンクラー辺境伯家から、抗議文が届いただと……?」
リュディガーの立太子を前に、魔王を討伐してくれた勇者を労うパーティーが開かれることとなり、王宮内は慌ただしい。
それもこれも、全てはテレンスの衝動的な行動が招いたものだ。
それにもかかわらず、テレンスは現在、伴侶であるアカリを放り出して行方知れず。
テレンスの母親であるマティアスは、息子が皆に迷惑をかけたことから、毎日のように酷い頭痛に襲われていた。
「ベアテルは、なにに対して抗議しているんだ?」
抗議文を手にする使者に、ヴィルヘルムは怪訝な表情を向けずにはいられなかった。
テレンスとのことは、和解したはず。
それなのに、今更なにがあったというのだ。
しかし、テレンスが不在の今、ヴィルヘルムは嫌な予感がしていた。
「テレンスのことか?」
「はい。テレンス殿下が、ウィンクラー辺境伯の前で、辺境伯夫人に言い寄ったそうです。それに、ウィンクラー辺境伯に暴言も吐いたと……。その件で、辺境伯夫人が、それはそれはお怒りだったようで……」
「っ…………なんということをしてくれたんだ。あの愚か者がっ。すぐにテレンスを連れ戻せっ!」
執務室に、ヴィルヘルムの怒号が響く。
テレンスを慈しみ、どんなことからも守ろうと思っていたヴィルヘルムだったが、レヴィが不死鳥を従えている可能性がある今、そんなことを言っていられる状況ではなくなっていた――。
ヴィルヘルムの剣幕に気圧される使者だったが、恐る恐る口を開く。
「それから、文を届けた怪ぶ……クローディアスも、現在、訓練場で大暴れしておりますっ。誰も近付けず、困り果てている次第で……」
ウィンクラー辺境伯家の怒りは、相当のものだと知り、ヴィルヘルムは頭を抱えていた。
ベアテルによって、レヴィに会うことを禁止されたままだったクローディアスは、大好きなご主人様に会えない鬱憤を晴らしているだけだったのだが、そのことを王族が知る由もなかった――。
あなたにおすすめの小説
嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する
SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます!
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います
緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。
知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。
花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。
十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。
寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。
見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。
宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。
やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。
次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。
アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。
ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。
【完結】転生した悪役令息は、お望み通り近付きません
カシナシ
BL
「お前など、愛す価値もない」
ディディア・ファントム侯爵令息が階段から落ちる時見たのは、婚約者が従兄弟を抱きしめている姿。
(これって、ディディアーーBLゲームの悪役令息じゃないか!)
妹の笑顔を見るためにやりこんでいたBLゲーム。引くほどレベルを上げた主人公のスキルが、なぜかディディアに転生してそのまま引き継いでいる。
スキルなしとして家族に『失敗作』と蔑まれていたのは、そのスキルのレベルが高すぎたかららしい。
スキルと自分を取り戻したディディアは、婚約者を追いかけまわすのを辞め、自立に向けて淡々と準備をする。
もちろん元婚約者と従兄弟には近付かないので、絡んでこないでいただけます?
十万文字程度。
3/7 完結しました!
※主人公:マイペース美人受け
※女性向けHOTランキング1位、ありがとうございました。完結までの12日間に渡り、ほとんど2〜5位と食い込めた作品となりました!あああありがとうございます……!。゚(゚´Д`゚)゚。
たくさんの閲覧、イイね、エール、感想は、作者の血肉になります……!(o´ω`o)ありがとうございます!(●′ω`人′ω`●)
悪役令息上等です。悪の華は可憐に咲き誇る
竜鳴躍
BL
異性間でも子どもが産まれにくくなった世界。
子どもは魔法の力を借りて同性間でも産めるようになったため、性別に関係なく結婚するようになった世界。
ファーマ王国のアレン=ファーメット公爵令息は、白銀に近い髪に真っ赤な瞳、真っ白な肌を持つ。
神秘的で美しい姿に王子に見初められた彼は公爵家の長男でありながら唯一の王子の婚約者に選ばれてしまった。どこに行くにも欠かせない大きな日傘。日に焼けると爛れてしまいかねない皮膚。
公爵家は両親とも黒髪黒目であるが、彼一人が色が違う。
それは彼が全てアルビノだったからなのに、成長した教養のない王子は、アレンを魔女扱いした上、聖女らしき男爵令嬢に現を抜かして婚約破棄の上スラム街に追放してしまう。
だが、王子は知らない。
アレンにも王位継承権があることを。
従者を一人連れてスラムに行ったアレンは、イケメンでスパダリな従者に溺愛されながらスラムを改革していって……!?
*誤字報告ありがとうございます!
*カエサル=プレート 修正しました。