召喚された最強勇者が、異世界に帰った後で

ぽんちゃん

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 リュディガー以外の王族が、聖女としては劣等生だったレヴィが、実はドラッヘ王国にとって最も重要人物だということに気付き始めた頃――。

 レヴィの様子が気になって仕方がないヴィルヘルムが、執務が手につかないことなど知らないレヴィは、大好きな人に腕枕をされて目を覚ましていた。

「ん……」

「レヴィ、起きたか?」

 腰にくる低音が、寝起きのレヴィの耳を擽る。
 レヴィの寝顔を見つめていた様子のベアテルの大きな手で、すりすりと頬を撫でられる。
 聖女たちとは違ったごつごつとした硬い手が、レヴィは一等大好きだった。

「まだ眠いだろう? 今日から一週間、治癒は休業することを民に知らせておいたから、ゆっくりしていい」

 ぼんやりとするレヴィの額に、ベアテルが愛おしげに口付けを落とす。
 初めて休暇を言い渡された――。
 それもレヴィが寝ている間に、ベアテルが動いてくれていたのだ。
 レヴィは密かに喜んでいた。

(世の中の夫夫は、こんなにも幸せな時間を過ごしていたんだ……)

 とても甘い時間だ。
 夢心地になるレヴィは、いつのまにかベアテルとお揃いのガウンを着ていた。
 いつもは騎士服をカッチリと着こなしているベアテルが、今は色っぽい雰囲気だ。
 腕枕をしてもらっているからか、顔も近い。

「レヴィ?」

 蕩けるような黄金色の瞳は、熱い夜を過ごした昨晩よりも、熱を孕んでいるようにも見える。
 朝からドキドキさせられるレヴィは、どこを見たらよいのかわからなかった。

「……体は、大丈夫か? 痛むところはないか?」

「はぃ……っ、」

 レヴィの口からは少し掠れた声が出る。
 瞬時に、昨晩のことが蘇り、レヴィはぽっと頬を染めていた。

「――……くっ、可愛すぎるっ」

 悶絶するベアテルに、きつく抱きしめられる。
 逞しい体からは、石鹸の爽やかな香りがした。

(うわわわわっ! は、肌が密着してるよぉ~)

 動揺するレヴィは、されるがままになる。
 なにせレヴィの頬が、ベアテルの硬い胸部に触れているのだ。
 昨晩は一糸纏わぬ姿で抱き合ったものの、やはり慣れない。
 カチコチに固まってしまうレヴィは、朝から心臓が破裂しそうになっていた。

「体調が悪いなら、・モローニ子爵令嬢を呼ぼうか?」

 体を離したベアテルは、眉間に皺が寄っている。
 レヴィが無言だったからか、心配してくれているのだろう。
 レヴィは単に、ドキドキして言葉が出てこなかっただけなのだが、レヴィを気遣ってくれるベアテルの気持ちが嬉しい――。

 だが、何度も顔を合わせたことがあるというのに、ベアテルはマリアンナの名前を覚えていなかったことに驚きである。

「マリアンナ様のことですか?」

「ああ、そんな名前だったような……」

 そんなことはどうでもいいとばかりに、治癒を施してもらおうと、ベアテルが提案する。
 確かに、体は怠い気がする。
 だが、情交を結んだ後に、友人に治癒をしてもらうだなんて、さすがに気恥ずかしかった。

「僕は、大丈夫ですっ」

「……そうか」

 今度は優しく抱きしめられる。
 ベアテルがレヴィの首筋に顔を埋め、髪が少しだけ擽ったい。
 それでも甘えるような仕草が可愛らしくて、レヴィは口元を綻ばせた。

「んっ……」

 首筋に柔らかなものが触れ、甘えた声が出る。
 ベアテルが、レヴィの首筋から鎖骨にかけて、優しく口付けていたのだ。

「っ、ベアテル様……? んんっ」

 ベアテルのガウンを引っ張ってみたものの、ぺろぺろと舐められてしまい、甘ったるい声を止めることができない。
 これではまるで、もっとしてほしいと強請っているみたいだ。
 恥ずかしくて身を捩るも、逃げ出せそうにない。
 全力で抵抗したとて、ベアテルがレヴィを押さえつけることなど、片手で充分だった。

(っ……た、食べられちゃう?)

 ぞくぞくとしている間に、時折、吸い付かれる。
 ベアテルは戯れあっているつもりなのかもしれないが、昨晩、初めての経験をしたばかりのレヴィにとっては刺激が強すぎる。
 必死に口を引き結ぶレヴィは、ベアテルにしがみついていた。

「ぅぅ……」

 そっと離れたベアテルが、ぷるぷると、子鹿のように震えるレヴィを、穴が開くほど見つめている。
 恥ずかしくて目を伏せれば、今度は口を塞がれていた――。

「んっ…………ふ、ぁ……」

 飽きることなく、唇を啄まれる。

(ベアテル様は、寝ぼけてるのかな……? 僕の唇を、ベリーの実と勘違いしてるみたい)

 それはそれは美味しそうに食べられている。
 おそらくレヴィの唇は、真っ赤に腫れていることだろう。
 それでも胸に喜びが広がるレヴィは、ベアテルに身を委ねていた。

「――……ッ!?」

 うっとりとしていたレヴィは、息を呑む。
 レヴィの足にベアテルの昂りが感じられたのだ。

(っ、治癒を勧められたのは、そういうこと!? も、もう一度するってことなの……!?)

 レヴィはそわそわしていたのだが、ベアテルは愛おしい人に、丹念にマーキングをし続けていた。



◇◆◇



 昨晩、肌を重ねたことで、レヴィの全身にベアテルの匂いがついている。
 愛する人を手に入れた今のベアテルは、向かう所敵なしだ。
 強者の匂いによって、獣の血が混ざる者たちは、いくらレヴィを慕っていたとしても、決してレヴィに手を出すことはできないだろう。

 ――だが、人間は違う。

 己よりも嗅覚が劣る者たちにも、レヴィが誰のものかをわからせるべく、ベアテルはレヴィの首筋に印を残していた。

(……やはり、綺麗だ)

 誰も見ることの叶わなかったレヴィの首筋に口付けているだけで、ベアテルは気持ちが昂っていた――。

 首元まで覆われている聖女のローブによって、今までレヴィの肌が見える部分は、手だけだった。
 それが昨晩は、レヴィの一糸纏わぬ姿を見ることとなったのだ。
 ベアテルが、未だ興奮冷めやらぬ状態であることに、レヴィは気付いていないだろう。

 陽に晒されたことのない、レヴィの雪のように白い肌は、ベアテルを魅了してやまない。
 うるさいくらいに胸が高鳴っている。
 それでもレヴィが痛い思いをしないよう、とても優しく吸い付く。
 誰が見てもわかるような赤い花を散らし、ようやくベアテルは安堵していた。

(これでセドリック王太子殿下も、レヴィを諦めてくれるだろう)

 今も邸に滞在しているセドリックには、事前にベアテルとレヴィの事情を知らせている。
 その為、セドリックもレヴィを狙っている可能性は大いにあった。
 なにせ、ウィンクラー辺境伯領にはお忍びで訪れたというのに、一向に母国に帰る気配が見られないのだ――。

(いくら母国の守り神がレヴィを気に入っていたとしても、明らかにおかしいだろう。王太子殿下自身が、レヴィに惚れたに違いない)

 『レイバンが、夫人に会いたがっている』などと言いながら、レヴィを一目見ようと邸を彷徨くセドリックの姿は、まるでかつての己を見ているような気がしてならなかった。
 魅力的なレヴィに惹かれてしまう気持ちは痛いくらいにわかるが、諦めてもらう。
 どんなことがあろうとも、ベアテルがレヴィを手放すことは、生涯ないのだから――。



「ぅぅっ……ベアテルさまっ」

 ベアテルの腕の中で、頬を紅潮させるレヴィが、必死にもがいている。
 レヴィに全力で殴られたとしても、ベアテルにとっては可愛いだけだった。
 野生の本能で喰らいつきそうになる気持ちを、必死に抑えるベアテルは、愛らしいレヴィに優しい口付けを落とし続ける。



 幸せの絶頂にいるベアテルとレヴィは、ふたりきりの時間の大半を寝台の上で過ごし、愛を深めていた――。













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