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しおりを挟む寝室に篭り、早五日――。
聖女の仕事が休みということもあり、レヴィはまったりとした時間を過ごしていた。
昼間に起きても、誰にも咎められることはない。
(ベッドでゴロゴロするだらしのない僕を、「可愛い」と言ってくれるベアテル様には、間違いなく甘やかされていると思う……)
休暇を満喫するレヴィに付き合ってくれているのか、隣で横になっていたベアテルに、そっと抱き寄せられる。
「――レヴィ」
大好きな人に抱きしめられ、口付けを交わす。
なんと幸せなのだろうか。
ベアテルの優しく甘い口付けに、レヴィは虜になっていた――。
(おやすみのキスも長かったけど、おはようのキスも、とっても長い……)
薄らと目を開ければ、熱を帯びた黄金色の瞳と視線が交わる。
ようやく口付けにも慣れてきたところだが、大好きな人にまじまじと見られるのは、話が別だ。
忙しなく瞬きをするレヴィに、ベアテルが小さく笑った。
「……湯浴みでもするか? 準備はできている」
「あっ、ありがとうございます。また、ベアテル様にやらせてしまって――……んッ」
再度、ベアテルに口を塞がれる。
謝罪は不要だということだろう。
(…………好きっ、大好きっ)
ベアテルの優しさに、レヴィは悶えていた。
食事や着替えは、レヴィが寝ている間にベアテルが用意してくれており、初日にレヴィが部屋の掃除をしたからか、二日目以降はその仕事までも、ベアテルが終わらせてくれている。
なにからなにまで、至れり尽くせりである。
「一緒に行くか?」
ベアテルから、突然の湯浴みの誘い。
嬉しい反面、レヴィはそれどころではなかった。
「っ、ぼ、僕は、もう少しゆっくりしてから……」
お先にどうぞ、と告げたレヴィは、もぞもぞと毛布に包まる。
ベアテルと口付けをしたことで、レヴィの体は火照ってしまっているのだ。
(ここ数日、僕の体がおかしい……。全部、ベアテル様のせいだっ)
今の状態で、ベアテルと湯浴みを共にできるはずがない。
醜態を晒すに違いなかった。
「そうだな。レヴィと離れたくないが……。歯止めが効かなくなりそうだから、やめておく」
「っ……!?」
颯爽と浴室に向かう広い背を、レヴィは真っ赤な顔で見送った。
朝目が覚めて、眠りにつくまで、ドキドキさせられっぱなしである。
(っ……甘い言葉を囁くベアテル様に、どうしても慣れないっ)
毛布に包まるレヴィは、悩ましい息を吐く。
誰に対しても、歌うように賛辞を贈るテレンスとはわけが違う。
寡黙なベアテルの言葉は、レヴィの胸に刺さる。
「ベアテル様が素敵すぎて……僕、頭がおかしくなりそう……」
レヴィが呟いた瞬間、ガコンッ、と浴室から、何かが落ちたような物音が響いた気がした――。
そして、レヴィが湯浴みを済ませて部屋に戻れば、コンラートの姿があった。
レヴィの姿を目にした瞬間、灰色の瞳がくわっと見開かれる。
「――……ッ!!」
「コンラートさん? あ、治癒ですか?」
緊急の案件かと問いかけたが、コンラートは無言だった。
どうしてかレヴィを見て驚いている。
レヴィが駆け寄ったが、珍しく声をかけられることなく、コンラートが退出した。
「……なにか急ぎの用事でもあったのかな?」
「レヴィ、まだ髪が濡れている。風邪を引くぞ」
首を傾げるレヴィは、ベアテルに促され、寝台の端に腰掛ける。
レヴィに招待状を手渡したベアテルは、タオルで優しく髪を乾かしてくれていた。
「近々、魔王討伐部隊の功績をたたえるパーティーが開かれるらしい。勇者様とも、お別れだ。是非とも、夫夫揃って参加してほしいそうだ」
国王陛下から招待状が届き、レヴィの幸せな休暇が終わりを告げた――。
それでも、アカリに会えるのだ。
魔王を討伐した時の話を聞きたいと思うレヴィは、胸を躍らせていた。
「急な話で、間に合うかわからなかったから、最初は欠席する旨を伝えたんだが……。陛下に、俺たちが出席できる日に合わせるとまで言われてな? レヴィには悪いが、明日王都に出発することになる」
「ええ!? 僕たちに合わせる? 魔王を討伐してもいないのに? …………なんで?」
レヴィの脳内で、疑問符が乱舞する。
「――……俺の予想では、テレンスのことじゃないか?」
ベアテルの口からテレンスの名が出ただけで、レヴィはドキリとしてしまう。
(……テレンスの話なら納得だ。きっと反省して、謝罪したいんだと思う。でも、ベアテル様の心の傷を、抉るようなことはしてほしくない)
ベアテルに振り返ったレヴィは、明るい笑顔で話しかけていた。
「あっ! でも、ドラゴンの鱗を、追加で献上しないといけませんしね? それに、婚姻指輪を作る許可も貰いたいですっ! 指輪を作るのにも時間がかかるだろうし、早めにお願いしないと……っ! お揃いの指輪、楽しみですね? ベアテル様っ」
「っ、ああ、そうだな……」
努めて明るい雰囲気を作ってくれたレヴィに、ベアテルは顔を綻ばせた。
レヴィは、久しぶりに社交界に顔を出すのだ。
噂の的になることは、避けられないだろう。
以前までは、レヴィを見下していた貴族たちが、コロッと態度を変え、動物の治癒が可能なレヴィに擦り寄ってくるかもしれない。
ベアテルはレヴィを心配していただけなのだが、レヴィは心優しい大好きな伴侶を、テレンスから守る気満々だった――。
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