召喚された最強勇者が、異世界に帰った後で

ぽんちゃん

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 テレンスの叫び声を背に、レヴィはベアテルに促され、パーティー会場を後にする。

(……もっと、テレンスの話を聞いてあげるべきだったかもしれない)
 
 婚約を白紙にしたことを、テレンスはようやく謝罪してくれた。
 反省していることがわかり、嬉しい反面、ベアテルへの謝罪はないのかと、残念な気持ちにもなる。
 だが、人は急に変われない。

(きっとテレンスには、まだ時間が必要なんだと思う……)

 これから、過去を振り返る時間はたくさんあるだろう。
 己の身勝手な行動が、どれだけの人を傷付けたのかをわかってほしい。
 そして、両親を悲しませたことも――。

「テレンス殿下が、いつか、心から謝罪してくれる日がきたらいいですね……」

 使用人たちに王宮の一室に案内されるレヴィは、ベアテルに小声で話しかける。
 しかし、ベアテルは無言だった。

(……聞こえなかったのかな? ううん、ベアテル様は耳がいいんだ。もしかしたら、機嫌が悪いのかな……?)

 功績を奪われ、一度は殺されかけた相手の話だからかもしれない。
 ベアテルへの配慮を怠ったことに気付いたレヴィは、口をつぐんだ。



 そして本日、宿泊する豪華な部屋に案内され、多くの使用人たちも入室する。
 後日、詳しい話が聞きたいと、ヴィルヘルムが用意してくれたのだ。
 久々にシュナイダー公爵家に帰ろうと思っていたレヴィだったが、この度、めでたく結ばれたユリアンとアニカの邪魔はできないため、有り難く宿泊させてもらうことにしていた。

「湯浴みの準備は整っております」

 ベアテルやレヴィの身の回りの世話を担当する者たちが、これでもかと瞳を輝かせている。
 だが――。

「下がっていい」

 有無を言わせぬ態度のベアテルに、使用人たちの表情が強張る。

(……嫌な気分にさせちゃったかな? でも、ベアテル様は、自分のことは自分でするから大丈夫! って言いたかっただけなんだけど……)

 ベアテルにも、通訳が必要かもしれない――。
 レヴィが説明しようとしたが、使用人たちは逃げるように退出していた。





 レヴィは使用人たちを気にかけていたが、部屋の外では黄色い悲鳴が上がっていた。
 なにせ、今まで多くの者に言い寄られても、歯牙しがにもかけなかったベアテルが、レヴィに対してだけは独占欲をあらわにしているのだ。
 しかも、レヴィに触れることができるのは、伴侶であるベアテルだけだと、言外に告げられている。

「噂以上の溺愛っぷりだったわ……」

「ええ。私たちがレヴィ様のお姿を見ただけで、不機嫌そうだったものっ」

 王宮勤めの優秀な者たちが集められていたが、興奮を抑えきれない。
 レヴィを磨き上げたい気持ちはあるものの、ふたりの邪魔をしないよう、使用人たちは急ぎ部屋を離れていた。
 そしてベアテルから呼び出しがあるまでは、決して近付くまいと、皆一様に思っていた――。





『んじゃ、俺様は小僧クローディアスのところにでも行ってくるぜ。ごゆっくり~』

 にたりと笑ったロッティが、窓から飛び出す。
 なにやら気遣われたような気もするが、レヴィの気のせいだと思いたい。

(~~っ、もうっ。ここは僕たちの邸でもないし、ましてや王宮だよ!? そんなところで、イチャイチャできるはずがないのにっ)

 そっと窓を閉めたレヴィが振り返れば、ベアテルが立っていた。
 カーテンを閉めてくれたが、ベアテルの気配が感じられず、レヴィは心臓が止まりそうだった。

「っ、ベアテル様、ありがとうございます。先に湯浴みを……んんっ」

 言い終わる前に、性急に口を塞がれる。
 驚きに目を見開けば、ベアテルはニコリともしない無表情。
 だが、黄金色の瞳は熱を孕んでいる。
 逃がさないとばかりに抱きしめられ、レヴィは戸惑いつつも、ベアテルを受け入れていた。
















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