召喚された最強勇者が、異世界に帰った後で

ぽんちゃん

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 魔王討伐部隊が、凄まじい勢いでドラゴンを追いかける。
 だが、リンドヴィルムは魔王のもとまで真っ直ぐに飛んでいた。

(そっか! この子の容姿がベアテル様に似ていたら、可愛い耳があるかもしれないっ! だからリンドヴィルム様は、先に釘をさしたんだ……)

 ベアテルも、幼少期は耳を隠すことができなかったと話していたのだ。
 レヴィの子は注目を集めることになる。
 耳を隠せないまま姿を見せれば、民がパニックに陥るかもしれない。
 その時のために、リンドヴィルムは助言してくれたのだろう。

『己のことを獣と蔑まれても、ベアテルは声を上げないだろう。だが、レヴィとの子のことになると、話は別だ。レヴィを溺愛しているベアテルが、許すと思うか?』

「っ……つまり、先程の助言は、リンドヴィルム様が天罰を下すわけじゃなくて、ベアテル様が鉄槌を下す、ということですか……?」

『うむ。近い未来、そうなるだろう。まあ、勘違いしている民は、我を恐れているかもしれぬが……。その方がいいだろう』

 レヴィのためなら悪役にでもなる、と語ったリンドヴィルムは、とてものんびりと空を舞っている。
 心優しいドラゴンを、レヴィはますます好きになっていた。

(でも……。ベアテル様が本気で怒ったところなんて、僕は見たことがないけど……。我が子のことになると、鬼になるのかな?)


 なかなか想像できないレヴィだったが、現在、不死鳥の吐いた炎を剣に纏わせるベアテルは、躊躇なく出会した魔物の首を刎ねていた。
 異世界最強勇者でも足元にも及ばない勇姿だったと、後に語られることとなる。
 だが、リンドヴィルムの口内で守られていたレヴィだけは、ベアテルが鬼神となった姿を見逃していた――。


 リンドヴィルムは、未来が見えるだろうか。
 もしそうであったならと、レヴィは我慢しきれずに我が子のことを問う。

「僕の子は、可愛い耳がはえますか……?」

『さて、どうだろうな?』

 楽しみはとっておけと、リンドヴィルムがくつくつと笑い出す。

「もうっ。本当にお茶目なドラゴンなんだからっ」

『…………我が、おちゃめ…………』

 リンドヴィルムが愕然と呟く。
 レヴィはぷりぷりしていたが、リンドヴィルムが大音量で笑ったことで、多くの民に目撃されることとなっていた。

「ベアテル様に似た子だったらいいなあ。それで、頭には可愛い耳があったら、もう最高っ!! でも、無事に生まれてきてくれたらそれでいいっ」


 この度の魔王討伐には、リンドヴィルムが参戦することが瞬く間に知れ渡っていたことなど知らぬまま、ベアテルに似た赤子を想像するレヴィは、ひとり悶絶していた――。





 日が暮れた頃。
 リンドヴィルムが周辺の安全を確認し、レヴィはようやく地に降りる。

 誰ひとり欠けることなく、順調な旅だった。
 なにせ、魔王が潜伏する場所は、『死の森』の奥にある。
 旅に出る前から、ベアテルは死の森の凶暴な魔物を制圧しているため、一月とかからず魔王のもとまで迫っていた。

(僕にまだ活躍の場はないけど、これも僕の大切な役割だっ!)

 使用人たちが天幕を張っている間に、レヴィは栄養のあるスープを作る。
 辺境伯領に来てから、大量のスープを用意することに慣れているレヴィは、テキパキと働く。
 まずはリンドヴィルムが、大鍋に入ったスープをぺろりと平らげ、だらしなく横たわる。
 そして次にロッティも現れ、ドラゴンの隣でゴロゴロし始めた。

「おじさんが増えた……」

『あん? なにか言ったか? ゲプッ』

 ロッティが、くあっと欠伸をする。
 常にレヴィがそばにいるため、不死鳥は余力がありあまっていた。

(見た目は、とても神々しい伝説の生き物たちだけど……。だらけた姿は、民には見せられないや)

 だが、リラックスしている姿は、心を開いてくれている証だろう。

「ロッティさん、今日もよく頑張りました。ゆっくり休んでくださいね」

 膨れた腹に毛布をかけ、優しく頭を撫でる。
 レヴィが子守唄を歌えば、ロッティは瞬く間に眠りについていた。
 眠る時も炎はチリチリと燃えているが、不思議と毛布が燃えることない。

(口は悪いけど、寝顔は可愛い……)

 レヴィの手にすりすりと頬を寄せるロッティを、レヴィは微笑ましく思っていた。
 そして見守っていた使用人たちは、レヴィの歌声に聞き惚れていたのだが――。

『グガァァァ』

 静かな夜の森に、地鳴りのようないびきが響く。
 魔物は音に敏感だ。
 そのことを思い出すレヴィは、慌てふためく。
 それでも、力を貸してくれている不死鳥を叩き起こすことなど、レヴィにはできなかった。

「…………ロッティさんの大いびきで、魔王に気付かれちゃうよ」

 レヴィがガックリと項垂れれば、使用人たちが笑い出す。
 魔王討伐の旅ではなく、まるで家族旅行を楽しんでいるかのような朗らかな雰囲気だった。



 それから、レヴィは天幕へ向かう。
 食事を用意して待っていれば、水浴びを終えたベアテルが顔を出した。

「ベアテル様っ、お疲れ様です」

「ああ、怪我はないか? 体調はどうだ?」

 誰よりも動いているベアテルが、まずレヴィの体調を気にかけてくれる。
 その優しさに、レヴィは胸を打たれた。

(どんな劣悪な状況でも、ベアテル様は変わらず優しい……)

 疲れを微塵も感じさせないベアテルだが、レヴィは祈りを捧げていた。

「レヴィがいてくれるだけで、俺は無敵になった気分だ……」

 ベアテルに抱きしめられ、石鹸の爽やかな香りに包まれる。
 わざわざ魔物の血を洗い流してから、ベアテルはレヴィに会いに来る。
 レヴィを怖がらせないよう、気を遣ってくれていることに、レヴィは気付いていた。

「ふふっ。僕より、ロッティさんのおかげでは?」

「……それは否定できないな?」

 レヴィを膝に乗せ、器用に食事をするベアテルが小さく笑った。
 子の名前を考えたり、魔王を討伐した褒美には、長期休暇を取って新婚旅行に行こうと話したりと、とてもまったりとした時間だ。

(でも……戦闘後だからか、気分が高ぶっているみたい)

 片時も離れたくないといった甘い態度のベアテルだが、黄金色の瞳はギラついている。
 膝の上でもじもじとするレヴィは、ベアテルの胸に顔を埋めた。
 だが、すぐに顎を掬われ、口付けを交わす。

「んっ……」

 レヴィの唇を啄んだままベアテルが立ち上がり、寝台に向かう。

「レヴィ、おやすみ」

「はいっ……ベアテル様も……いい夢を……」

 優しく髪を撫でられ、眠気に襲われる。
 不死鳥たちを寝かしつけたレヴィは、夜はベアテルに甘やかされていた。
 幸せな気持ちで微睡むレヴィは、ベアテルを見つめてふにゃりと笑った。

「おやすみなさぃ……ベア……」

 最後まで名を呼べないまま、目を閉じる。

「っ、」

「……ん……ふ、ぁ……」

 唇に、熱を感じ続ける。
 何度もおやすみと告げるベアテルだが、本当はレヴィを寝かせる気がないのかもしれない。
 おやすみのキスは、日に日に長くなっていた。
















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